近年、地震や台風などによる災害が頻発するようになりました。中には被害の危険性が高いエリアに住宅やオフィスが建っていることもあります。このような建物の敷地は利用価値が下がるので相続や贈与となると貰い手には損にしか感じられません。しかし災害リスクの高い地域にある宅地は、ある制度により相続税や贈与税が安くなるのです。

自然災害の多い日本…経済成長でリスクが年々高まる

不動産投資
(画像=free1970/stock.adobe.com)

日本は元々台風や地震といった自然災害が生じやすい地理にあります。それでも国民の数が少なく、住む地域も限定的だった明治・大正期は深刻な問題にはなりませんでした。しかし戦後の高度経済成長期やバブル期を経て現在、それまで未開の地であった山間部や沿岸部に街が作られ、人が住むようになっています。自然災害の影響が高い地域に人が住めば、当然台風や地震、津波による被害も甚大です。つまり、経済成長の結果、自然災害によるリスクは徐々に高まっていると言えます。

災害リスクの高い土地は相続税が安くなる

このような状況で気になるのが「不動産投資に対する災害リスクの影響」です。台風や地震のたびに被害が生じる地域に賃貸物件を建てても収益性は下がります。それなのに「相続税での不動産の評価は安全なエリアにあるものと同じ」などと言われたら、なんとなく不公平な感じがして落ち着きません。

このような災害リスクが財産評価にもたらす影響を看過するわけにはいかないため、国税庁は、災害リスクの高い地域の土地は相続税評価が下がる制度を設けました。

土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価とは

災害リスクの高い地域の宅地評価を下げる制度を「土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価」といいます。相続する土地の一部が土砂災害特別警戒区域(以下「特別警戒区域」)にあるのなら、一定の減額ができるというものです。2019年1月1日以降の相続や遺贈、贈与により取得した宅地が適用対象になります。この制度の特徴としては、次のような点が挙げられます。

「補正率」で土地の評価額を下げる

この減額は補正率によって行います。そしてこの補正率は、保有している土地の内、特別警戒区域にある部分がどれくらい占めるかで決定されます。特別警戒区域にある土地の面積の割合と土地面積全体の評価額を計算するときに用いる補正率の関係は次のようになります。

特別警戒区域の地積が全体に占める割合総地積補正率
0.10以上0.90
0.40以上0.80
0.70以上0.70

つまり、特別警戒区域が土地のかなりの部分を占めるのであれば、最大3割評価減ができるのです。

対象はあくまで「土砂災害『特別』警戒区域」のみ

この評価減の対象になるのは、あくまでも土砂災害「特別」警戒区域にある土地のみとなります。要は災害による危険性の高いレッドゾーン地域だけなのです。この指定自体も、被害による危険性の高い地域に、高齢者向け施設などが建てられないようにすることを目的としています。

危険性はあるけどイエローゾーンにとどまる「土砂災害警戒区域」にある土地は対象になりません。

地目は原則、「宅地」のみ

この制度が適用される土地は原則として上物がある土地(宅地)です。マンションやアパート、一戸建てやオフィスビル、店舗の敷地が対象となります。ただ、他の地目に区分されていても宅地に似ているとして宅地に準じた評価をする土地についても評価減が認められています。具体的には、市街地農地、市街地周辺農地、市街地山林、市街地原野及び宅地比準雑種地も評価減の対象です。

調べ方

相続、遺贈や生前贈与で受け取った土地が特別警戒区域にあるかどうかは、各市町村のホームページなどで確認できます。最近は災害が頻発していることもあり、多くの市区町村が住民に対しハザードマップを提示・配布しています。このマップの中で赤色になっているのが特別警戒区域、つまり評価減の対象となる土地なのです。

災害エリアの土地評価の注意点

以上が大まかな災害エリアの土地の評価の概要ですが、注意点があります。

倍率地域は評価減がない

土地の評価方法には「路線価方式」「倍率方式」の2つがあります。本稿でお伝えした評価減の対象となるのは路線価方式で評価する宅地だけです。倍率方式の宅地は「固定資産税評価額×倍率」で評価しますが、この固定資産税を定める地方税法が「災害エリアなどのリスクは土地の評価に織り込むべし」と規定しています。つまり、固定資産税評価額に織り込み済みなのでこの補正率を使わないのです。

がけ地補正があるときは少し特殊

水災については、河川や海の近くのエリアが特別警戒区域になりやすいものです。こういったエリアの宅地は一部にがけ地があるため、がけ地による補正率が元から適用されます。

がけ地にある宅地が特別警戒区域にあるのなら、「本稿で紹介した補正率×がけ地補正率」の数値を用います。ただし、最小の補正率が0.5になります。計算の結果の割合が0.2になっても、評価上用いる補正率は0.5になるのです。

宅地並みの評価をする土地の見落としに注意

宅地が前提となっている制度ではありますが、既にお伝えしたように、雑種地や農地であって宅地に準じた評価をする土地も対象になります。思い込みで外してしまうとムダに相続税や贈与税を払うことになりかねません。気になるのであれば専門家に相談しましょう。(提供:YANUSY

【あなたにオススメ YANUSY】
副業ブームの日本!サラリーマン大家になるなら覚えておきたいこと
2019年以降の不動産投資は「コミュニティ」が欠かせない
賃貸業界の黒船になるか。インド発のOYOの実態
不動産所得での節税に欠かせない必要経費の知識
賃貸管理上でのトラブル対応術とは?