(本記事は、PIM総研の著書『いきなりキャッシュリッチになった人のための資産防衛術』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
遺産分割の問題に対処する
●遺産額が大きいほど相続トラブルは少ない
資産家が最も頭を痛めるのは、相続の問題です。
相続の問題とは、大きく分けて「相続税の問題」と「遺産分割の問題」の2つが代表的なものです。
相続税についてはあとでじっくり考えることにして、まず「遺産分割の問題」について見ていきましょう。
「遺産を巡る争い」というと、映画や小説では大富豪が死んだあとに、前妻や正妻、愛人や出来の悪い甥っ子、行方不明になっていた次男などが出てきて骨肉の争いを演じるのがパターンになっています。
「遺産を巡る争いなんて富裕層に特有のことで、庶民には関係がない」と思っている人も多いでしょう。実は大間違いなのです。下のグラフを見てください。
2016年の「司法統計年報」によれば、遺産分割事件の調停件数のうち、33.1%が資産1000万円以下であり、42.3%が資産1000万~5000万円以下なのです。つまり遺産を巡るトラブルの実に75%は、資産額が5000万円以下なのです。
これに対して、資産1億~5億円では7.1%、5億円以上だと0.5%と激減します。
なぜ資産額が少ない方が、争いが多いのかと言えば、5000万円以下の場合、ほとんどが実家の土地や建物が資産の大半を占めているからです。
実家だけがあって他の金融資産がないとなると、その実家を巡って相続人同士がすったもんだします。特に配偶者や跡取りが住んでいる場合には、家を売ることができないケースが多く、他の相続人は法定相続分の権利はあっても、一銭も入ってこないという場合もあるからです。少ない財産を相続人同士が争うという構図です。
逆に富裕層の場合には、財産額が大きいので、相続人に渡るパイも大きいからトラブルになりにくいと言えます。
また、財産がたくさんあれば、相続人同士が揉めないように事前にさまざまな形で手を打つことも可能です。
さらに、資産額が大きいからこそ、税理士や弁護士などの専門家と相談しながら、後々のことに関して万全の準備をしていることが多いので、トラブルが少ないのでしょう。
●争続を回避する──Sさんの場合
では、現在、不動産だけで25億円の資産を持っているSさんは、“争続”を回避するためにどのような策を打っているのでしょうか。見てみましょう。
Sさんには主な相続人が、4人います。
Sさんが相続においてコンセプトにしているのは、「一族に代々継承される“家族的”ベーシックインカムの仕組みをつくる」ということです。この場合、不動産から得られる家賃収入のことです。
そのためにSさんは、「遺言信託」に加入しました。
現時点でSさんは、ベーシックインカムのデザインを完成させつつありますが、それを自分の死後にも継続させるための方法として、遺言信託を選んだのです。
ベーシックインカムの仕組みは、不動産を売却してしまえば終わるので、相続した人たちが不動産を分散させないことが目的です。遺言信託には法的拘束力があるのが魅力だと言います。
遺言書作成では、物件が増えるなど資産状況に変更が生じた際、要所要所で内容をアップデートできるのも重要なポイントです。10年後20年後には子どもの成長もあり、相続財産の内容を変更していく必要性も出てくるからです。
さらにSさんは、遺言書に「付言事項」を添えてあります。
そこには、自分の死後に家族が採るべき行動指針を付記しました。
お金が必要なときには、不動産は売らないで銀行から借りること、株を相続する妻に負担をかけないよう、子どもと弟が協力すること、死んだ後の事業計画書などが記されています。
●遺産分割争いを防ぐ遺言書
Sさんは、「遺言信託」を活用していますが、遺言書は自分の死後に財産をどうやって分割するのかについて、生前にあらかじめ指定するものであり、遺産分割にまつわるトラブルを回避する最も有効な手段です。
遺言書があれば、相続人が遺産分割に多少の不満があっても、故人の遺志に反してまで争おうとは思わないからです。
遺言では、「相続に関すること」、「財産の処分に関すること」、「身分に関すること」など、さまざまな事項を被相続人は指定できます。
遺産分割協議では、法定相続人以外は相続できませんが、遺言書で指定すれば法定相続人以外にも財産を残すことができます。また、法定相続人にも法定相続分とは異なる割合を指定することができるのです。
遺言書は遺産分割の際のトラブル回避のために残すのですが、逆に遺言書がトラブルの種になる可能性もあります。そうならないように、次の3つのことに注意してください。
・相続する財産の内訳を明記すること ・どの相続人がどの割合で相続するのか明記すること ・相続人の遺留分に配慮すること
「遺留分」とは、最低限の取り分のことで、配偶者と第1、第2順位の相続人にはこの遺留分が保証されています。たとえ、「愛人に全財産を譲る」と遺言書に書かれていても、妻や子は最低限の取り分が保証されるのです。
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