「複雑すぎて解体できない」- 巨大IT(情報技術)企業を巡って今米国で最も真剣に議論されているテーマの1つだ。今年5月には東証1部全銘柄の時価総額をGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)が上回り、巨大IT企業の大きさが改めて浮き彫りとなった。
今月6日には、米下院司法委員会がGAFAのオンラインプラットフォームを他の事業から分離するよう勧告した。GAFAの解体だ。たとえば、ファイスブックからインスタグラムを分離することなどが想定されている。リーマンショック後、巨大金融危機を「大きすぎてつぶせない」ことが問題となったが、コロナショックを経て市場での支配力を強めた巨大ハイテクにも同様の目が向けられている。
委員会の勧告に法的効力はなく、複雑に絡み合った巨大組織を分割するのも容易ではないが、巨大ハイテク企業への逆風はしばらく続くとみられており、当面は表立った買収は控えられることになりそうだ。これまで、潜在的にライバルとなる可能性がある企業や、将来が有望な企業を次々と傘下に収めてきたが、そうした動きは取りづらくなる。
こうした中、2020年の米株式市場では新規株式公開(IPO)が花盛りだ。コロナ禍で大恐慌以来の不況が世界を覆い、米国も例外ではない中で、20年前のITバブルに匹敵するというから驚きだ。一体何が起きているのだろうか?
9月下旬までに235社が約1兆円を調達
9月の米失業者数は1260万人で新型コロナ流行前の2月を680万人上回っている。ただし、雇用契約があっても職場の閉鎖などで仕事をしていないか、できたとしてもごく限られた仕事しかしていない人が約500万人おり、こうした人たちは職探しをしていないことから失業者にはカウントされていない。従って、米国ではまだ1000万人以上がコロナ失業の状態にある。
こうした厳しい状況にあるにも関わらず、IPOは近年にない活況を呈している。調査会社ディールロジックによると、米国市場のIPOで調達された資金は9月23日までに合計950億ドル(約1兆円)弱に達した。ITバブルがはじけた2000年以降では14年の960億ドルに次ぐ金額だ。だだし、14年の調達額は4分の1余りを中国の電子商取引大手アリババグループが占めていた。
米証券取引所には9月下旬までに235社余りが上場し、このペースが続けば2000年の439社以来の高水準になるという。
低金利で投資家がIPOに殺到
IPOブームの底流にあるのは低金利だ。コロナ危機で戦後最悪の景気後退に見舞われたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)が大胆な金融緩和に踏み切り、大量の債券を購入したことで国債の利回りが低下し、投資家がリスクを取りに行く動きが強まった。
新型コロナによる春の荒れ相場で、ポートフォリオが打撃を受けたことから、株式市場全体をアウトパフォームすることが多いIPOへと機関投資家が殺到。投資家が新規上場銘柄を買い漁ったことから、9月23日までにIPOを実施した銘柄は取引開始日の平均上昇率が22%と、2000年以来の大きさを記録した。
コロナで資金調達に苦戦 昨年の大型IPO不調も影響
また、IPOそのものに対する見方が逆転したこともブームの背景にある。この10年余り、新興企業はIPOを避ける傾向にあった。未上場にとどまることで、株式公開に伴う煩わしい規制を回避でき、一般の株主に対する義務からも逃れることができたからだ。また、ソフトバンク傘下の「ビジョンファンド」に代表される、大型ファンドの存在により、未上場企業が資金調達にそれほど苦労しなかったことも影響した。
しかし、昨年は配車サービス大手のウーバーとリフトのIPOが相次いで不調で終わったことで潮目が変わったと言われている。満を持しての大型IPOではあったが、非公開企業に長くとどまり過ぎたことが不利益に働いたようで、事業がまだ成熟せず、成長が維持されているタイミングを逃すことが警戒されるようになった。
また、新型コロナによるロックダウン(封鎖措置)で未公開市場での資金調達が行いにくくなり、新興企業の資金調達では株価に基づくバリュエーションが前回ラウンドを下回る「ダウンラウンド」が急増したこともIPOに拍車をかけた。