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足元の預貸金動向はリーマンショック時とは「異次元」

(全国銀行協会「全国銀行預金・貸出金速報」)

トリグラフ・リサーチ 代表 / 大久保 清和
週刊金融財政事情 2020年10月19日号

 全国銀行協会が公表する「全国銀行預金・貸出金速報」は、わが国銀行業界の国内業務における預貸金動向を把握する上で最も速報性に優れた統計である。

 図表は、2007年度以降の全国銀行の実質預金(以下、預金)と貸出金の前年同月比増減率および「預貸金増減率ギャップ」の推移を示している。最新統計である9月の増加率は、預金9.4%、貸出金6.1%であり、その差である増加率ギャップは3.3%だ。グラフが示すように今年4月以降、預貸金共に増加率が一気に上昇。コロナ禍による国内経済の失速・混乱に対応するかたちで、企業の手元流動性積み増しの動きが起こり、さらに各種補助・資金繰り対策が本格的に機能し始めたことが主因と推察される。

 図表を07年度以降の長期推移としたのには理由がある。08年9月に起こったリーマンショック前後の預貸金動向と足元の状況を比較するためだ。リーマンショック前数カ月の貸出金増加率は2%前後であったが、08年10月に3.6%へと一気に上昇し、09年5月まで8カ月間にわたって3%超の増加となった。増加率のピークは08年12月の4.6%だ。一方、預金増加率にほぼ変動はなく、平均2%台前半で推移。その結果、預貸金増減率ギャップはリーマンショックを境に急速に縮小し、ボトムの09年1月には2.7%減(貸出金増加率超過)となった。

 リーマンショック時と、現在進行中であるコロナ禍の下での預貸金動向には、二つの明確な相違点がある。第一は、貸出金増加率が今年5月以降5カ月連続で6%超の水準で推移し、すでにリーマンショック時の水準を大きく上回っていることだ。第二は、足元、貸出金以上に預金が高い増加率を維持している点にある。進行している「預貸金増減率ギャップの急拡大」はリーマンショック時とは逆の現象であり、「異次元」とも表現し得る状況だ。

 9月末の全国銀行の預金は825.7兆円、貸出金は534.2兆円である。預金の増加率が貸出金を上回っているため預貸金の差額である預貸ギャップは291.5兆円へと急拡大し、過去最高水準の更新が続いている。リーマンショック時に貸出金増加率ピークとなった08年12月の預貸金差額109.1兆円の実に2.7倍の水準だ。未曾有の水準に拡大した「預貸ギャップ」が今後いかなる推移を示し、それをどう生かす(運用する)かは、銀行経営のみでなく、わが国経済においても極めて重要なテーマである。その方向性を予測する上で、足元の預貸金動向について、より詳細な分析が必要となる。

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(提供:きんざいOnlineより)