日本においてはこれまでハンコや公証制度によって情報の非改竄性を保証してきた歴史があり、それらは社会の「信頼(Trust)」を担保する役割を果たしてきました。

一方、デジタル技術の活用によって人々は膨大な情報を迅速に処理することが求められ、手作業によって行われる業務など、第三者機関を介した従来の非改竄性保証の仕組みは変革の時を迎えています。

STOnlineより
(画像=STOnlineより)

現在社会は、デジタル化に対応した新たな「信頼(Trust)」の担保機能を必要としており、ブロックチェーン技術は情報の非改竄性を証明するデジタルな社会基盤(公証制度)として利活用が見込まれています。

すでに物流業界では、書類のやり取りによって行われていた業務をブロックチェーンプラットフォームを活用してデジタル化し、効率的なサプライチェーンの構築が図られています。

非改竄性をリアルタイムな形で検証するデジタルな「信頼(Trust)」の担保機能を各産業が導入することで、社会全体の複雑性は「縮減」されることが期待されます。

本稿では、中国経済のデジタル化について解説し、ブロックチェーン技術の可能性について考察いきます。

目次

  1. デジタル人民元による内需拡大
  2. 証券市場におけるブロックチェーン技術の採用
  3. 中国上場企業 R&Dの活性化による社会実装を促進
  4. まとめ

デジタル人民元による内需拡大

米ドルに替わる新たな基軸通貨として人民元が普及することは時期尚早と言えますが、香港がデジタル人民元のパイロットテストへの参加を予定。

香港金融管理局はタイ銀行と共同で、国際貿易におけるCBDCの国際間取引の実現を目指す「プロジェクト・インタノン-ライオンロック(Project Inthanon-LionRock)」を実施しており、将来的な東南アジアでのデジタル人民元エコシステムの拡大なども予想されます。

デジタル人民元へのブロックチェーン技術の導入は研究の範囲にとどまるとされており、スケーラビリティの課題などから集中型の技術構造を採用し、中央銀行によるデータ収集/管理といった特性を有することも想定されます。

この点に関しては監視社会の形成を助長させるといったデメリットも考えられ、自己主権型アイデンティティの実現を目指すデジタル社会の通貨制度としては検討が必要であるでしょう。

中国深センでは、内需拡大に向けて1億5,700万円分(1人200元)のデジタル人民元が抽選で配布され、95%の人々が実際に使用したとされています。

また、各省におけるデジタル人民元パイロットプログラムは1億6200万ドル以上の決済が行われています。

米国による中国企業の締め出しは中国経済にとっても大きな影響を及ぼしており、これまで主に米国で行われていた成長企業によるIPOが、香港や上海の証券取引所で行われる傾向にあります。

そのことから今後は、中国国内における経済活性化への取り組みが重要になるとされ、デジタル人民元の利活用や銀行の不良債権問題への対応なども含め、新たな中国経済の形成が進むことでしょう。

証券市場におけるブロックチェーン技術の採用

中国証券規制委員会は、北京、上海、江蘇、浙江、深センをはじめとして各証券取引所におけるブロックチェーン技術のパイロットテストを実施することを目指しています。

北京証券取引所においては、深セン証券取引所と共同でブロックチェーン技術を活用した非上場企業株式の登録/カストディシステムを開発。

証券取引所でのブロックチェーン技術の採用は、資本市場のデジタル化を促進し、信頼性の向上や情報の非対称性のコストの削減など、より高度な市場機能を構築することでしょう。

すでに2つの巨大な証券取引所がブロックチェーンシステムの開発を行う中国ですが、証券取引所におけるインフラの構築は日本でも大きな課題とされています。

証券市場の持続的で安全な運用体制の構築に向けてブロックチェーン技術の有用性を検証する取り組みは各国で実施されており、ユースケースの創出が見込まれます。

中国上場企業 R&Dの活性化による社会実装を促進

中国政府はブロックチェーン技術の調査/研究を奨励しており、国際競争力の強化とともに従来のインターネットビジネスではなしえなかったビジネスモデルの構築によるデジタル経済の発展が期待されています。

上場企業によるブロックチェーン技術のR&D(研究開発)への投資が中国では増加傾向にあり、今後はブロックチェーンビジネスを単なる「コンセプト(概念股)」から「バリュー株(价值股)」へと成長させることが重要です。

Yuanguang Software社は、ブロックチェーンなどの最新技術の研究開発費に162,493,600元(前年比6.27%増)を投資。

アプリケーション管理や教育、エネルギー金融サービスプラットフォームの開発にブロックチェーン技術を活用しています。

2016年以来、多くの企業がブロックチェーン技術の研究に取り組んでおり、国家戦略の推進と同時により多くの産業分野での利活用が見込まれます。

デジタルな「信頼(Trust)」の担保機能をブロックチェーン技術は提供することから新たなデジタル経済の構築に向けては、中長期的かつ段階的なプロセスによって、その普及を目指すべきであると考えられます。

まとめ

日本では、データ社会における「信頼」を構築する上で、トレサビリティやガバナンスの面でブロックチェーン技術を活用したデータ・ガバナンスレイヤーの構築が検討されています。

従来のインターネットビジネスは中央集権的で個人情報の利活用が不透明であることからデジタル技術の活用した第三者機関を介さない社会システムの形成が期待されています。

ブロックチェーン技術はデジタル社会の構築に向けても重要な技術要素であるとされ、中国においてもデジタル化の推進を担っている一方、社会実装には中長期的な取り組みが必要です。

日本でもR&Dの活性化によるブロックチェーン技術を活用したユースケースの創出が期待され、より幅のある議論によって社会実装を推進することが望まれます。(提供:STOnline