コロナ感染が広がって、緊急事態宣言が行われた4月頃の時期は、多くの就業者が、休業を余儀なくされた。当時、失業率は低かったが、そうした休業者を含めれば完全失業率は11.4%だったことになる。しかし、非常に心配された状況は、その後、急速に改善しつつある。現在の失業率は、3.0%(8月)である。日本企業のダメージ・コントロールは意外に進んでいると思わせる。

失業
(画像=PIXTA)

「隠れた失業」としての休業増

コロナ危機が始まった当初、日本の失業率はかなり大きく上昇することが懸念された。リーマンショックの後は、一時5.5%まで完全失業率が上昇した。金融不安のときもはやり5%台の失業率が高止まりした。従って、今後、これと同じくらいになってもおかしくないと思わせた。

しかし、最近になってそうした懸念は大きく後退している。日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査では、2021年1~3月の完全失業率は3.36%とピークを迎えることが見込まれている(2020年10月7日調査)。

それに対して、2020年8月時点の失業率は3.0%に止まっている。一頃の失業増加の懸念は、今のところかなり落ち着きを取り戻しているのが実情だ。以前は、実際の失業率だけではなく、「隠れた失業」の存在を指摘する声が大きかった。例えば、総務省「労働力調査」で追加参考表として発表されている休業者数の人数は2020年4月には597万人も居た。この休業者とは、仕事を持ちながら、調査週間中に仕事をしなかった者で、賃金支払いを受けている人などを指す。休業者の中には、企業が雇用調整助成金を受け取りながら休んでいる者も多く含まれていた。逆に言えば、雇用調整助成金がなければ、強い失業リスクにさらされていた人達でもある。仮に、この人数は、失業者数にカウントされていれば、失業率がどのくらいまで高まっていたのかを計算すると、休業者数がピークになった2020年4月は、実際の2.6%(失業者数178 万人)に対して、+8.8%も増えた11.4%の失業率(潜在失業者数775 万人)になっていたと見込まれる。

実は、この時期は世界的にロックダウンが実施されていて、各国で失業率が高まった時期でもあった。特に、米国では完全失業率が14.7%まで上がった(図表1)。日本も、休業者を失業率にカウントしたならば、米国の失業率とかなり似た状況になっていたことがわかる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

米国では、労働市場における調整スピードが速く、余剰人員をレイオフ(一時解雇)することが広く行われる。レイオフでは、会社との雇用関係は解消される点で休業、一時帰休とは異なる。米企業では、優秀な人材の給与をカットすることを好まず、余剰人員を雇用調整する選択を採る。日本企業はそうした考え方は採らず、既存社員の人件費を削減して、極力、解雇を避けようとする。日米で労 働市場の慣行に大きな違いがあるとはいえ、コロナ危機が労働市場に与えたインパクトは同様だったことが、このグラフから鮮明にわかる。

割と早い雇用改善

今、注目したいのは、そうした休業者数が急激に減少していることである。直近の8 月のデータは、216万人と、コロナ以前の前年同期(2019年8月202万人)に比べて+14万人多いに過ぎない。失業率に換算して、+0.20%と少ない。つまり、隠れ失業は現状ではかなり少なくなっているのである。その影響は、コロナ危機の後遺症に変化を与えることだろう。日本企業は、伝統的に雇用調整を行わない代わりに、不況時には大量の余剰人員を抱えて、それが後年まで長く人件費圧縮の圧力として残存すると考えられてきた。負の遺産のように人件費が重いままだと、新規・中途採用にも企業は消極的になり、労働市場の改善が大きく遅れることになる。

その点、休業者が意外に早く少なくなったことは、人件費圧縮の圧力が割に早く減圧していることが確認される点で良い傾向だとみられる。確かに、コロナ感染自体はまだ予断を許さない。それでも、現時点では日本企業はダメージ・コントロールが意外にできていたという評価ができるだろう。

もうひとつの「隠れ失業」

コロナ感染が広がったとき、すぐに失業率が上がらなかった理由として、離職した人がすぐには求職活動をしなかったことが挙げられた。求職活動をしない人達は、就業する意思がないとして、非労働力の扱いになってしまう。例えば、パートとして働いていた人が離職した後、コロナ下で職探しは難しそうだと思えば、休職活動をせずに非労働力化するケースは十分にあっただろう。労働力調査の中で、2020年4月には2019年末に比べて+116万人もの非労働力人口が増えた。この人数が仮に求職活動をしていれば、失業率は4月+1.7%も上がっていた計算になる。先の休業者の分を含めた失業率は13.1%まで上がっていたことになる。まさに、当時は米国並みの業率が、「隠れ失業」を含めた場合には発生ていたことになるのである。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

しかし、こちらの「隠れ失業」も、5~8月にかけて減少している。2019年末と比べると、2020年8月は非労働力人口は+45万人と、4月時点の+116万人から▲71万人も改善している(図表2)。5~8月にかけて労働参加した人達は、現在は就職できたか、もしくは職探しを継続して失業中になっている。それを調べると、約半分の48%が就業している。もうひとつの「隠れ失業」も、意外に改善していることがわかる。雇用環境は、引き続き厳しいとは思うが、離職した人々は強かに活動して、意外に早く職を得られたのだろう。この非労働力から就業者への転換は、マクロでみると、家計の総所得を増やすことになるので、需要押し上げにつながる。こうした需要改善は、経済全体の回復力を高める点で歓迎される。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生