小売統計の販売水準は、コロナ以前に戻ってきた。モノの消費は、特別定額給付金の効果もあって、底上げに成功している。サービス消費は、旅行・娯楽など個人サービスが依然として厳しい。Go To キャンペーンなどがサービス消費を持ち上げると期待するが、そうした支援が届かない消費分野も残りそうだ。
モノとサービス
コロナ感染の収束が見えない中、小売業の販売額はコロナ以前の水準に戻ってきている。経済産業省「商業動態統計」の小売業は、2020年8月は販売額指数が103.2と、2019年10~12月、2020年1~2月を上回っている(図表1)。これは、個人消費のうちモノ(財、商品)の消費が回復しているためである。
しかし、同じ個人消費統計であっても、総務省「家計調査」(2人以上世帯)は未だコロナ以前の消費水準を回復できていない。こちらの統計は、モノだけではなく、サービスを含んでいる分、下押しの圧力が強い。
サービス消費は人と人との接触が多いため、消費者からは敬遠される。街中の人出がかなり回復しているように見えて、やはり低調なのである。「家計調査」(2人以上世帯)の実質・前年同月比の寄与度でみると、ほぼ一貫して中分類の3項目のマイナス寄与度が全体の大きな部分を占めている。それは、外食、交通、教養娯楽サービスの3項目である(図表2)。例えば、2020 年8月の全体のマイナス幅は、実質で▲6.9%であるが、そのうち3項目の寄与度は計▲6.35%と約9割を占めている。象徴的なのは、食料の分野で、外食のマイナス寄与がなければ、それ以外はプラスに転じる。2020年8月では、外食以外の食料品の前年比は3.8%増となっている。
交通の内訳をみると、鉄道運賃と航空運賃のマイナス寄与が目立つ。これは、鉄道・旅客機を使った遠出をしなくなったことを反映している。教養娯楽サービスでは、国内パック旅行費と宿泊料のマイナス寄与が目立っている。これも遠出の旅行が控えられ、交通費の支出が大きく減っていることの表れだ。
巣籠もり傾向は続く
4・5月は緊急事態宣言が発令されて、広い分野の消費活動が落ち込んだ。人々は外出を手控えて、家の中で過ごす時間を増やした。いわゆる巣籠もり状態である。
街中に出歩く人数は、4・5月に比べて著しく改善したように見えるが、6~8月にかけてサービス消費が絞られる傾向は変わっていない。交通の内訳で先の鉄道運賃、航空運賃以外にもバス代、タクシー代、有料道路代などのマイナス幅が比較的大きいことは、巣籠もり傾向が高齢者などを中心に外出を手控えていることを示している。
外食・交通・教養サービス以外では、洋服代、理美容サービス、交際費の減少が目立つ(図表3)。教養娯楽サービスの中では、旅行以外で月謝類、他の教養娯楽サービスのマイナスが大きい。
経済産業省「第三次産業活動指数」の内訳では、映画、スポーツ興業、遊園地・テーマパーク、音楽・芸術興行の回復が鈍い。交際費に絡むところでは、結婚式など行事が減少したままである。単に感染リスクが恐いというだけでなく、人が集まる行事が依然として再開されないことが響いているのだ。モノの消費であっても、洋服代が減少しているのは、行事が激減していることが大きい。テレワークを選択する人が多くなると、洋服代や理美容サービスが減ることも連想できる。
もっとも、筆者の周辺では10月頃から少しず つ行事が再開しているので、そうした変化がマクロの消費動向でも衣料品や各種サービス消費の改善に寄与することを願いたい。
大型給付金はモノの消費を梃入れ
「家計調査」では、不安定さがあるが、モノの消費はプラスに浮上している。モノの消費が回復してきていることは、最近の消費動向をみて歓迎できるところである。家庭用耐久財、家事用品、保健・医療、教養娯楽用耐久財などの伸びが目立つ(図表4)。これらの支出は、主に巣篭もり消費とみられているが、5・6月に特別定額給付金が支給されて嵩上げされた経緯がある。7月の消費は、前月比で反落したが、8月は需要が底上げされたかたちになって堅調である。
逆に、旅行などサービス支出は特別定額給付金が支出増にはつながりにくかった。むしろ7月22日からスタートしたGo To キャンペーンの方が需要持ち直しに貢献している。
そうした変化をみると、5・6月に大型給付金、7月以降に旅行等割引を実施する政策対応は成功していると思える。この点は、より細かくみていく必要があって、それらの恩恵が届かないサービス分野が多く残っている。例えば、月謝や理美容サービス、交際費の支出が減少している状況は、多数の人が集まることが制約されていて、人と人との接触に多くの消費者が消極的だからだろう。一方、10月下旬からは、チケット代の2割を割り引くGoTo イベントが開始され、大きく出遅れていた映画・スポーツ興業・音楽・芸術分野の活動にも人々が足を運ぶようになると期待される。
サービス消費の回復は、感染リスクの収束が大前提になるが、感染対策が長期化する中ではもう一段の需要反転のための支援が必要になるかもしれない。
消費の二極化シフト
経済全般に言えることは、様々な区分でみて、コロナ感染の悪影響が残る分野と、徐々に回復する分野に二極化する動きがあることだ。家計調査について、消費項目の変動がどのくらいばらついているかを調べてみた(図表5)。分類中の10大費目について分散値を計算したところ、コロナ下の分散値は、消費増税前の駆け込みと反動が生じた2014年と2019年を除くと、最近には大きなバラツキ(二極化)が発生していた。個別に消費分野の変化を捉えてみると、サービス業であっても、B to B の事業サービスは回復が進む一方、旅行・娯楽などB to C の個人サービスは低調だ。感染リスクが当面残るとするならば、個人サービスの事業者には廃業・倒産リスクが高まるだろう。今のところは、大胆な金融支援措置が効いているが、それがいつまでも効果を上げるとは限らない。
歓迎できる変化として、雇用面では、大手航空会社の人員を製造業で取り入れることを決めたという報道があった。こうした民間同士の人員融通は効果的だと評価できる。おそらく、経済が全面悪化から二極化にシフトしていく中では、雇用の受け皿になれる会社は増えていくはずだ。民間企業の間で、人員・人材の融通が行える余地も今後はさらに広がるだろうから、そうした雇用のマッチング政策に政策支援を加えていくことは、ひとつの妙案になると考えられる。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生