近年、不動産小口化商品による相続対策が注目されています。不動産小口化商品を用いると、贈与による相続対策の効果を劇的に変化させることができます。
不動産小口化商品は比較的新しい投資商品なので、まだその効果を十分に知らない方も多いのではないでしょうか。そこで今回の記事は「不動産小口化商品の相続対策における活用方法と選び方の注意点」について解説します。
目次
相続対策における贈与の重要性
贈与が生み出す2つの相続対策効果
贈与については、昔から相続対策としての効果が知られており、贈与を上手く活用することで効果的な相続対策ができるようになります。贈与が効果的な相続対策となる理由としては、贈与には「節税」の対策と「納税」の準備の2つができるからです。
贈与すると、親から子へ生前に財産を移転させることで親の相続財産そのものを減少させることができます。贈与は相続財産を減らす行為であることから、相続税の節税対策となります。
また、相続税は現金納付が原則であるため、相続税を納付するには子に納税するための現金が必要です。贈与によって、現金や収益物件を生前に子供へ移転させておけば、子に納税用の現金が溜まっていくため、相続税の納税の準備もできます。
よって、相続対策では「節税」と「納税」の2つを目的として、現金や収益物件を子へ贈与していくことが多いのです。
贈与の課題
贈与には「節税」と「納税」という大きな効果があるものの、課題もあります。贈与の課題は、贈与税の負担が大きいため、一度に大きな財産を子へ贈与できないという点です。
贈与には、年間110万円までなら贈与税が非課税となる「暦年贈与」という制度があります。暦年贈与の非課税枠の範囲内で贈与を行うと、1,100万円を贈与するだけでも10年もかかります。そのため、暦年贈与で財産を子へ移転するには多くの時間を要するという点がデメリットです。
また、2,500万円までなら贈与税を非課税にできる相続時精算課税制度というものもあります。相続時精算課税制度を使えば、アパートの建物だけのようなまとまった金額の財産を一気に贈与することができます。
ただし、相続時精算課税制度を適用して贈与を受けた財産は、相続時に被相続人の財産に加算されて税金が計算されます。よって、相続時精算課税制度は、基本的に相続財産を減らして相続税を節税するような効果はありません。
このように、暦年贈与では多額の資産を贈与するのに時間がかかり、相続時精算課税制度では相続税の節税効果はないことから、贈与で相続対策を行うことは実は簡単ではないのです。
劇的に変わる不動産小口化商品による贈与
不動産小口化商品を利用すると、財産を移転させる速度を劇的にアップさせることができます。この章では、劇的に変わる不動産小口化商品による贈与について解説します。
圧縮した資産を贈与できる
不動産小口化商品とは、特定の不動産を1口当たり数万円~1,000万円程度の金額に小口化して販売されている金融商品のことです。購入者は収益物件から得られる収益から配当を受けることができます。
不動産小口化商品のうち、「任意組合型」と呼ばれるタイプのものは、賃貸マンションと同様の収益物件としての相続税評価額の計算ルールが適用されます。収益物件の相続税評価額は、都市部の物件では時価の3割程度で評価されることもあります。
収益物件のような不動産を贈与する場合、贈与額は相続税評価額となる点がポイントです。任意組合型の不動産小口化商品は、相続税評価額が収益物件と同じルールで計算されるため、現金を不動産小口化商品に変えてから贈与すると、贈与額を大幅に圧縮することができます。
不動産小口化商品にしてから贈与をすれば、親は贈与によって財産を減らせるため相続税が節税できますし、子は不動産小口化商品からの配当によって現金を貯めていけるため納税の準備もできます。
例えば、相続税評価額が時価の3割となる不動産小口化商品を1,100万円分購入してから贈与するケースを考えます。現金を不動産小口化商品とすることで、評価額が1,100万円から330万円へと変わります。暦年贈与によって110万円ずつの小口で贈与をしていけば、実質1,100万円の資産をたった3年で贈与することができます。
不動産小口化商品は、実体としては収益物件ではありますが、財産を少額の単位で切り分けられるというメリットがあります。そのため、相続時精算課税制度を利用しなくても、暦年贈与を使って短期間のうちに収益物件を移転することができるのです。
REITとの違い
不動産小口化商品の類似の商品として、REITもあります。REITも小額な単位の金融商品であることから、少しずつ暦年贈与をしていくことが可能です。
ただし、REITの相続税評価額は時価であるため、現金と同様に相続税評価額の圧縮効果がありません。よって、REITを暦年贈与しても財産移転のスピードアップをすることはできず、REITでは贈与の財産移転に時間がかかるというデメリットは解消できないのです。
不動産小口化商品の選び方の3つの注意点
優良物件を選ぶこと
不動産小口化商品は、不動産そのものですので空室リスクや価格下落リスクを避けるためにも、優良物件を選ぶことがポイントとなります。特に、都市部にある優良物件は、土地価格に時価と相続税評価額との乖離が大きく見られるため、購入するなら都市部の優良物件がおすすめです。
ただし、優良物件といってもオフィスは景気によって賃料や空室が大きく変動することから、賃貸マンションよりも収益が安定しません。また、今後はリモートワークが普及する可能性が高いことから、オフィスの賃貸需要は全体的に弱含みになっていくことも危惧されます。
一方で、賃貸マンションは賃貸需要が安定しており、不動産小口化商品市場にも都内の多くの優良物件が出回っています。不動産小口化商品における優良物件は、オフィスよりも賃貸マンションの方が選びやすいことから、購入するなら賃貸マンションを狙った方が安全です。
相続税路線価に着目して選ぶこと
収益物件の土地の評価額は相続税路線価によって決まりますので、物件は相続税路線価に着目して選ぶことがポイントとなります。
収益物件は、賃料が表通りと裏通りの物件でほぼ変わらないため、時価も表通りと裏通りの物件ではほとんど変わりません。ただし、相続税路線価は表通りと裏通りの物件では大きく変わるため、裏通りの物件を購入した方が相続税評価額は安くなり、時価と相続税評価額とのギャップを大きくすることができます。
以下に、東京都世田谷区の三軒茶屋付近の路線価図を示します。表通りの路線価には「2,370千円/平米」という単価も見られますが、すぐ裏通りには「560千円/平米」といった4分の1程度の路線価も見られます。
裏通りの相続税路線価が安い物件の方が時価と相続税評価額のギャップは大きくなる可能性が高いため、暦年贈与のスピードアップ効果を一段と高めることができるのです。
築年数の浅い物件を選ぶこと
不動産小口化商品は賃貸物件が生み出す収益から配当を受けるため、なるべく築年数の浅い物件を選ぶことがポイントとなります。
築年数が浅い物件は、賃料も高く、空室が少ないことに加え、修繕費も少ないことから収益が高くなります。立地の良い物件は賃料下落や空室は生まれにくいですが、それでも修繕費は築年数を追うごとに増えてしまいます。そのため、高い配当を長期間維持していくには、なるべく新築に近い物件を選ぶ必要があるのです。
まとめ
以上、不動産小口化商品の相続対策における活用方法と選び方の注意点について解説してきました。
任意組合型の不動産小口化商品は、財産を移転する速度を圧倒的に向上させ、続時精算課税制度を利用しなくても短期間のうちに収益物件を贈与できるというメリットがあります。特に、都市部の不動産小口化商品は評価額の圧縮効果が高く、スピードアップの効果が高いです。
不動産小口化商品は、贈与による相続対策を劇的に変えてくれますので、不動産投資の選択肢の一つとして検討してみてください。(提供:税理士が教える相続税の知識)