LVMH 、ケリング(Kering group)、リシュモン(Swiss group Richemont)。過去数年、M&Aが相次いでいる3大ラグジュアリー帝国)の勢力図が、新型コロナの影響やデジタル化、そして162億ドル規模の超大型買収として注目されていたLVHMとTiffany & Coの合意破たんにより、大きく変化する可能性が浮上しています。激動のラグジュアリー業界について、その動向を見てみます。

M&A全盛期から一転、市場の不安材料が向風となった2019年

ラグジュアリー3強,M&A
(画像=florence-piot/stock.adobe.com)

近年のラグジュアリー市場におけるM&Aは、ファッションからホテル、化粧品、フレグランス、アクセサリーまで広範囲な領域に拡大しており、特に2018年の全取引は前年から22%増の265件と、まさにラグジュアリーM&A全盛期といった勢いでした。

しかし2019年は一転、世界経済の減速や反グローバリゼーションへの動きが、ラグジュアリー市場の向い風となりました。

IMF(国際通貨基金)の報告によると、世界経済の成長率は2007~10年の金融危機以来、最低水準を記録。また世界各地でグローバリゼーションに対抗する、ナショナリズム(国家主義)が拡大傾向にあり、「自国優占主義」「自国の名誉や利益を守る」という思想が、ラグジュアリー市場にも飛び火しています。

不安定な状況が続く中、ラグジュアリー消費が冷え込むことへの懸念から、アパレルや時計などを含む多数の領域では取引数が減少しました。しかし前年比2%増の271件とわずかながら数字を伸ばした点が、今後の希望材料となっています。

コロナ時代こそM&Aのチャンス?

2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的な影響で、売上、M&Aともに著しく縮小することは確実ですが、国際市場での競争力やブランド価値の強化の原動力となる、成長の可能性をもったM&Aへの関心は、今後も尽きることがないと推測されています。

企業にとってポートフォリオの増加がリスク分散戦略の1つでもある点を考慮すると、多数の企業の市場価値が低下している現状は、M&Aに踏み切るチャンスでもあります。実際、英金融アドバイザリーサービス「Savigny Partners」の分析によると、1月以降、ラグジュアリー株の価値は20~25%下落しています。

ラグジュアリー産業に限らず、今後は生き残る余力をもった企業が、コロナ渦により事業の継続困難なポジションに追い込まれた企業を買収するケースが増えるのではないでしょうか。

Tiffany 買収撤回が裁判に発展。コロナ禍の影響が争点に

こうした中、ラグジュアリー市場に君臨するLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、守備の姿勢に徹する決断を下しました。

LVMHは過去にジバンシー(Givenchy)、セリーヌ(Céline)、フェンディ(Fendi)、エルメス(Hermès)などを次々と買収し、現在は75のラグジュアリーブランドを傘下に置く、ラグジュアリー・ファッション業界最大規模のコングロマリットです。新たにTiffany をポートフォリオに加えることで、ライバルであるリシュモン(Richemont)とケリング(Kering)を、さらに引き離すと予想されていました。

ところが9月に入り、LVMHが買収撤回を発表したことを受け、ティファニー(Tiffany)が提訴に踏み切るとう泥沼劇の幕が切って落とされました。

LVMHの声明によると、EU(欧州連合)が推進している米IT企業へのデジタル課税の報復として、米政府が仏製品に追加関税を課す懸念が生じたことを理由に、仏政府から取引延期の要請を受けたといいます。

また買収の合意が成立した2019年11月と現在では、状況がまったく異なる点についても示唆しています。LVMHの2020年上半期の売上高は27%減、Tiffanyは36%減と需要が落ち込んだほか、Bain & Companyは第2四半期のラグジュアリー市場全体の売上高が、最大60%減少すると分析しています。

これに対しTiffanyは「パンデミックや社会情勢の不安定さによる、市場への影響を理由に、値引き交渉に持ち込む意図だ」と、LVMHを批判。契約の履行を求めて米裁判所に提訴したことから、今後熾烈な戦いが繰り広げられると予想されます。

コロナ時代のM&A。ケリングが英老舗バーバリー買収に動く?

LVMHの闘争を尻目に、ケリングが英国の伝統的ブランド、バーバリー(Burberry)の買収に踏み切る可能性が依然として濃厚です。

ケリングは2019年にイタリアのファッションブランド、モンクレール(Moncler)の買収に失敗しており、それに代わる同等規模の買収先を物色していると、一部のアナリストは推測しています。

グッチ(Gucci) やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen) など15ブランドを保有するケリングは、時価総額ではリシュモンを上回っているものの、ラグジュアリー3強中、保有ブランド数が最下位です。買収が実現した場合、バーバリーのブランド力や中国市場力を武器に、合併破たんを巡る裁判沙汰に翻弄するLVMHをじわじわと追い上げ、勢力を拡大するというシナリオも想定できるでしょう。

2010年に中国市場に進出を果たしたバーバリーは、現在同国内で57店舗を運営しており、コロナ渦にも関わらず、すでに5月の時点で衣料品やバッグ、アクセサリーの売上高が前年を上回る劇的な回復基調にあります。

以前は120億ドルを突破していたバーバリーの時価総額が、9月10日現在76億ドルへと急落している現在、ケリングにとっては絶好の買収となるかも知れません。

リシュモンのターゲットは英老舗レザー・ブランドのマルベリー?

同じく英老舗レザー・ブランドMulberry(マルベリー)の買収も、M&Aに積極的な企業の関心を惹きつけています。

同ブランドは高級ブランド目的の観光客の関心が、ロンドンからミラノ、パリへ移行したことで、過去数年にわたり売上が低迷していましたが、2018年、直営店以外での独占営業権を所有していた英高級デパートのHouse of Fraser(ハウス・オブ・フレーザー)が破産申請を行ったことで、300万ポンドもの損失を出しました。

マルベリーにとって、ハウス・オブ・フレーザーは極めて重要なパートナーでした。ロンドン以外のマルベリー商品の殆どは、ハウス・オブ・フレーザーの店舗販売によるもので、国内のマルベリーのアウトレットの40%を占めていました。

同デパート破産申請後、英スポーツ用品チェーン、スポーツ・ダイレクト(Sports Direct)に買収され、マルベリーの販売契約は引き継がれたものの、販売規模は縮小されています。

近年はバッグやアクセサリーの売上が順調に伸びていることから、M&Aによって海外市場で成長する可能性が期待されています。

カルティエ(Cartier)やモンブラン(Montblanc)など17のラグジュアリーブランドを傘下に置くリシュモンは、ブランド力という点ではLVMH とケリングに引けを取っており、ライバルに対抗できる競争力を得、コロナ時代を生き抜く戦略として、成長のポテンシャルをもったブランドをポートフォリオに加える可能性は十分に考えられます。

すでに2016年、カナダの不動産投資企業Oxford Properties Groupと共同で、マルベリーのロンドンの旗艦店があるオフィスビルを共同買収していることから、マルベリーが買収候補に挙がっていても不思議ではないでしょう。

このようなラグジュアリー3強の動向が、その勢力図に何らかの変化を与える可能性は高いと思われます。そしてその変化が、コロナで打撃を受けたラグジュアリー市場にとって吉となるか凶となるか?今後の動きを注視することで市場の現状を的確に把握し、来るべき変化を予測できるのではないでしょうか。(提供:JPRIME


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