事業をやりたいと考えた場合、個人事業主よりも法人を作った方が、規模、税制、雇用の面から有利でしょう。法人の中にも、利益を追求する株式会社と、非営利法人としての「社団法人」や「財団法人」があります。この記事では、社団法人そして財団法人について、それぞれの目的や特徴、仕組みについて解説します。

目次
法人格の意味と法人格を得る理由とは?
営利法人と非営利法人の違い
非営利法人としての社団法人・財団法人と公益認定
社団法人と財団法人。それぞれの目的とその活用
財団法人を企業承継のスキームに組み込むケースもある
財団法人設立は、富裕層の社会貢献の手段として有効

法人格の意味と法人格を得る理由とは?

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(画像=asdf/stock.adobe.com)

事業をやりたいと考えたとき、大きく分けて2つの方法があります。1つは、個人事業主として事業を行う方法、もう1つは、法人を作って事業を行う方法です。

法人とは自然人である人間に対し、法律が人として認めた法律上の人のことを指します。会社を設立すると「法人」ができるわけです。

では事業を始めるとき、個人事業主の場合と法人の場合では、どちらが有利なのでしょうか。要約すると次の通りで、事業を発展させるためには法人にした方が有利となります。

(1)事業開始:費用が掛からず、開業も早いので個人事業主の方がメリットは多い。
(2)事業規模:事業規模が大きくなると、法人は信用があるので、資金調達、雇用面で有利
(3)税金:個人事業主が超過累進課税であるのに対し、法人は基本的に一律税率なので法人が有利
(4)リスク:個人事業主が無限責任であるのに対し、法人は法人の財産の範囲内で責任を負う有限責任なので法人の方が有利。

営利法人と非営利法人の違い

事業規模が大きくなると、法人の方が有利になることがわかりました。ただ、法人といっても営利法人と非営利法人が存在します。ここからは、営利法人と非営利法人について解説していきます。

営利法人と非営利法人

法人は営利法人と非営利法人に区分されます。営利法人は営利を得ることを目的する法人のことをいいます。具体的には株式会社、合同会社、合資会社等があります。

これに対し、非営利法人とは、「必ずしも営利を追求しない」法人のことをいい、社団法人、財団法人、NPO法人などが含まれます。社団法人、財団法人には非営利法人でないものもありますが、ここでは、非営利法人と認定を受けたものについて解説します。

非営利法人とは?

公共の目的のためではない、私法人でありながら「必ずしも利益を追求しない」のが非営利法人です。いったいどういうことなのか、解説していきます。

利益の分配・解散時の取り扱いに関する制限

「必ずしも利益を追求しない」というのは、利益を上げる事業活動をしてはいけないということではありません。事業活動で得た利益を、営利団体と同じように団体の構成員=社員(株主と同義)に分配してはいけないということです。利益はその団体本来の事業活動のために再投資して、その目的のために使う義務があります。

例えば、「がん撲滅学会」という社団法人を作った場合は、上げた利益はがん撲滅のための研究に使う義務があります。利益を株主等法人の外部に分配することはできず、将来にわたり法人の内部に留保し、非営利法人が解散した場合には国・地方公共団体・公益的な団体に贈与しなければいけません。ただし、営利法人と同様、役員の報酬や従業員の給与を支払うことは何ら問題がありません。

課税

非営利法人の場合は事業の範囲に制限はないので、収益事業でも、そうでない事業でも行うことができます。収益事業は課税対象となりますが、それ以外の事業については非課税で、税率は営利法人とほぼ同じです。

▽表1:営利法人と非営利法人の違い

営利法人非営利法人
設立の目的事業活動によって得た利益を団体の構成員=株主に分配することを目的とする団体の構成員=社員(株主と同義)に収益を分配せず、利益は主たる事業活動に再投資することを目的とする。ただし、商業活動を行う等の収益を得る行為を制限するものではない
事業の制限なし
組織の形態株式会社、合同会社、合資会社、合名会社等一般社団法人、一般財団法人、NPO法人、NGO法人等
利益の分配不可
解散清算の方法は自由残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与する義務あり
役員等の選任制約なし理事とその親族である理事の数の合計が理事総数の1/3以下であること
課税の対象全所得収益事業のみ

非営利法人としての社団法人・財団法人と公益認定

ここからは今回のテーマである、社団法人・財団法人について説明していきます。

社団法人と財団法人の違い

一般社団法人と一般財団法人の違いは表2の通りです。

▽表2:一般社団法人と一般財団法人の違い

一般社団法人一般財団法人
特徴人の集合体に法人格を付与財産の集合体に法人格を付与
財産の拠出不要300万円以上
最高意思決定機関
(目的の変更)
社員総会
(法人の事業目的を変更可能)
評議員会
(設立者が決めた財産の運用目的変更は不可。具体案を決めるのみ)

社団法人は人の集合体で、事業の目的変更は社員総会の決議で可能です。そして設立時の拠出金も不要なので、設立する際のハードルは低いといえます。

これに対し、財団法人は、財産の集合体で、設立者の決めた財産の運用目的を変更することはできず、評議会は設立者が決めた財産の運用目的に沿った具体案を決めるにとどまります。

財団法人の場合に設立者の目的は、財団が存続する限り保持されることになります。ですが、設立には300万円の拠出金が必要であり、設立のハードルは社団法人に比べやや高いということになります。

公益認定を受けるための条件

非営利法人としての社団法人・財団法人は公益認定法に基づく公益認定を受けると、一般社団法人、一般財団法人から、公益社団法人、公益財団法人となり、税制上の優遇処置が受けられます。

公益法人となるための認定基準は18項目あり、かなり厳しいものです。そのうち主なものを列挙します。

(1)収支相償
その法人の公益目的事業を行うために必要な費用がありますが、これを大幅に超える収入を長期間に渡り得続けてはいけないという原則です。それだけの収入があるのなら、公益事業の拡大や、受益者の範囲を広げなくてはいけません。

(2)公益目的事業比率
公益目的事業比率とは、学術、技芸、慈善その他の公益に関する23項目の「公益目的事業」の費用が、法人全体の費用の50%以上でなくてはならないということです。

公益法人となった場合の税制上の優遇措置とは

税制上の優遇措置にはいくつかのものがありますが、主なものを列記します。

・法人税法上の優遇措置
公益法人の場合、収益事業課税となります。非営利性を否認される可能性がなく、確実に収益事業以外の非課税が受けられます。

・寄付金優遇税制
公益法人への寄付を集めやすくするためのものです。以下のような優遇措置があります。

(1)個人・法人の寄付の所得控除・税額控除等:寄付をした個人、法人は寄付金について所得控除・税額控除等が適用されます。
(2)譲渡所得の非課税措置:例えば、オーナー社長が自社の株式を公益法人へ寄付する場合、含み益に対するみなし課税は発生せず、非課税で寄付することができます。
(3)相続税の非課税措置:相続財産を公益法人に寄付した場合、相続税の対象としない特例が受けられます。巨額の相続財産を手にした場合、公益法人に寄付すれば、相続税を払い相続財産を毀損することなく、相続財産は保全されます。ただし、相続財産の所有権は公益法人に移ります。

社団法人と財団法人。それぞれの目的とその活用

社団法人、財団法人ともに、具体的にはどんな団体があるでしょうか?

非営利法人であるため、拠出者や社員(=株主)が金銭的な見返りを求めることができないという大前提に立つと、社団法人には同業者団体や大学のOB団体が多く見られます。

同業者団体やOB団体でも規模が大きくなると、運営のために専任の職員を雇ったり、イベントを主催したりするなど、法人化する必要があることから、社団法人が設立されているようです。

▽表3:日本の社団法人、財団法人の具体例

組織名種類・目的法人形態
日本経団連業界団体一般社団法人
日本医師会業界団体公益社団法人
慶應連合三田会同窓会一般財団法人
サントリー芸術財団芸術振興公益財団法人

これに対し、財団法人には芸術学術等の振興を目的としたものが多いようです。

オーナー経営者等の富裕層が自分自身の財産や自分の所有する企業の株式を拠出して、財団法人を創設するという形態が多く見られます。財団法人の設立目的は変更できないので、学術芸術等の振興による社会貢献を、財団の続く限り行うことができます。

財団法人を企業承継のスキームに組み込むケースもある

自分のお金を使って社会貢献を行うだけでなく、財団設立をオーナー経営者の相続税対策、株式分散防止や安定株主対策にも役立てることができます。

財団を公益法人化すれば、税制優遇が受けられると説明しました。自分の企業に株式の寄付を非課税で行えば、相続税の対象から逃れられるので、相続税の支払いによる相続財産の毀損をしなくて済みます。かつ、財団を自分の企業の株主にすることにより、安定株主とすることができ、企業の経営の安定化につながります。

ただしこれは、次の条件付きであることを忘れてはなりません。

(1)自社株の所有権を手放すこと
自社株を財団に寄付した時点で自分の所有ではなくなります。その代わり、自分の相続時には相続税の対象から免れ、財産は保全されます。

(2)長期所有をもたらす安定株主対策の見返りに、長期にわたって社会貢献活動を続けること
公益法人認定を長期に継続しようとすれば、公益法人には公益事業比率を50%以上に保つ等、厳しい基準を満し続ける必要があります。

それゆえ、長期にわたって公益事業を続けていく覚悟が必要となります。

財団法人設立は、富裕層の社会貢献の手段として有効

社団法人、財団法人の位置づけを、株式会社などの営利法人との比較をしつつ、社団法人・財団法人の特徴を解説してきました。また、財団法人設立は富裕層の社会貢献の手段として有効です。何か事業を始めたいと思ったときに検討してみてはいかがでしょうか。

執筆:浦上 登
東京築地生まれ。大手重工業メーカーで海外営業を担当後、保険部門に勤務。現在、サマーアロー・コンサルティング代表。ファイナンシャル・プランナー、証券外務員第一種。ライフプラン等の個人相談および講演・記事執筆を行う。

(提供:JPRIME


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