(本記事は、株式会社フェイスネットワーク蜂谷二郎氏の著書『不動産活用で資産を守る 相続対策50の新常識』税理士法人チェスター監修の中から一部を抜粋・編集しています)
Q日頃から仲がいいし、特に資産家でもないから、相続で揉める心配はないですよね?
むしろ、ごく一般的な家庭でも、遺産相続で揉めるケースが増えている!
●10ヵ月という決められた期限の中で分割について協議する
故人の遺産を巡って家族が骨肉の争いを繰り広げるというのは、小説の中や超富裕層だけに限った話ではありません。しかも、その多くは日頃から家族の関係が険悪だったわけではなく、むしろ良好だったケースも少なくなさそうです。
事前に協議や対策を済ませておかないと、争族という造語も生まれているように、相続はいさかいの火種となりやすいのです。相続税の申告にはシビアなタイムリミットが定められていることも、その一因となっているかもしれません。
税制では、財産を遺す人(被相続人)が亡くなったことを知ってから10カ月以内に相続税の申告手続きを済ませるというルールが設けられています。いずれ相続人となることがわかっている人たちがあらかじめ話し合いを進め、具体的な分割方法や納税プランなどについて意見がまとまっていなければ、その限られた時間内で「遺産分割協議」を行い、結論を導き出すことになります。
10ヵ月の期限を延長することも可能だが、様々なデメリットが…
実は、相続税の申告・納税には10カ月以内というタイムリミットがありますが、必ずしも遺産分割をそれまでに完了させなければならないわけではありません。しかしながら、申告・納税時に分割協議が決着していないと、様々なデメリットが生じます。
まず、「配偶者の税額軽減の特例」や「小規模宅地等の特例」などといった税額控除の適用が受けられず、その分だけ納税額が増えてしまいます。また、納税の際に物納を選べません。
物納とは、相続した不動産などの財産を現金の代わりに納めるといものです。相続税は現金で支払うのが原則となっていますが、延納さえも難しいケースでは、例外的に物納が認められます。
分割協議がまとまっていない場合、遺産の不動産は相続人の共有財産とみなされます。したがって、その一部を物納するということはできません。
なお、10カ月の期限を迎えても協議がこじれているケースでは、相続人が「法定相続分」に従って分割したとみなして申告書を作成します。そのうえで、申告書の提出時に「申告期限後3年以内の分割見込み書」という書類を添付します。
そして、遺産分割を終えてから「更正の請求(実際の分割に基づいた再申告)」を済ませると、払いすぎていた場合には相続税が還付されます。「更正の請求」には、遺産分割を終えてから4カ月以内という期限が定められています。
3年が過ぎても決着がつかない場合はどうなる?
一方で、「申告期限後3年以内の分割見込み書」という書類を提出して延長戦にもつれ込んだものの、それでも話し合いがこじれて期限までに決着がつかないケースも出てくるでしょう。そのような場合には、申告期限から3年以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出します。
「やむを得ない事由」の具体例として挙げられるのが裁判沙汰になっているケースです。税務署から承認が得られると、「やむを得ない事由」が解消されるまで期限を延長できます。
そして、「やむを得ない事由」が解消してから4カ月以内に「更正の請求」を行います。「やむを得ない事由」に該当することがない状況で3年が経過してしまったケースでは、「配偶者の税額軽減の特例」や「小規模宅地の特例」が適用されなくなります。
社会の高齢化ともに、遺産分割の揉め事も増えている
それぞれの相続人にとって、自分がどれだけの遺産を受け継ぐことになるのかは、けっしていい加減に考えられることではないでしょう。誰もがそう簡単には妥協できない状況下で、なかなか話が進展せず、時間ばかりが悪戯に過ぎ去っていけば、相続人の間でストレスも蓄積されていくはずです。
そうなると、感情的な主張が飛び交って、いっそう協議がまとまらないという悪循環に陥りがちです。どうにか申告期限までに合意に至ったとしても、不満を抱えたまま仕方なく同調した相続人が存在すれば、その後の関係にヒビが入りかねません。
どうしても合意に至らなかった場合には、先述したように司法を交えての協議(裁判沙汰)となるケースも出てきます。家庭裁判所の調停や審判に持ち込み、遺産分割事件として扱ってもらうのです。
最高裁判所の調査によれば、遺産分割事件で家庭裁判所が審判および調停を行った件数はおおむね増加傾向を示してきているそうです。2012(平成24)年における遺産分割調停の件数は1万2697件に上り、2001(平成13)年(9109件)の約1.4倍に達していました[図1-4]。
そして、遺産分割事件と年間死亡者数の長期的な推移[図1-5]を見比べてみると、両者がほぼ比例関係を示していることが確認できます。社会の高齢化が進んで死亡者(相続の発生件数)が増えていくと、それに連動して遺産分割における争いも増えているのです。
約8割が遺産5000万円以下で裁判沙汰になっている!
しかも、協議に決着がついた遺産分割事件を最高裁判所が遺産の規模別に区分けしてみたところ、2012(平成24)年には遺産1000 万円以下のケースが全体の約32%を占めていました。1000万円以下も含めて5000万円以下で区切ると、実に全体の約76%を占めていたのです([図1-6])。
2001(平成13)年における5000万円以下のケースは約61%で、それでも過半数に達していますが、着実に増加基調を示していることを確認できます。遺産争いと言えば億を超える金額を想像しがちですが、現実は大きく異なっているわけです。
このように、数百万円の遺産であっても複数の相続人が存在すれば、話がこじれてしまうことが少なくないのが相続です。さらに言えば、遺産分割協議で揉めている人たちのすべてが家庭裁判所に駆け込んでいるわけではありません。
ここまで見てきた事例の件数は、相続を巡る争いの一部にすぎないのです。第三者が間に入らず、身内の間だけで泥沼状態の揉め事が続いていくという光景は、誰しも想像したくないはずです。
知人が離婚したという話を聞くと、「あんなに仲のよかった夫婦がなぜ?」と思うことがあるでしょう。それと同じように、どんなに円満だった家族、親族との関係も、相続がきっかけに修復不能な状態まで関係が悪化することは珍しくありません。
そのような事態を避けたいなら、できるだけ早いうちに話し合いの場を設け、的確な対策を講じておくことです。
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