(本記事は、株式会社フェイスネットワーク蜂谷二郎氏の著書『不動産活用で資産を守る 相続対策50の新常識』税理士法人チェスター監修の中から一部を抜粋・編集しています)
Q遺言書をちゃんと用意しておけば、自分の思い通りに相続が進みますか?
正式な遺言書であることが大前提。遺留分にも注意を!
●「自筆証書遺言」は手軽に作成できるが、不備が発生しがち
相続の際に有効となる遺言書には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」という3つの種類があります。
まず「自筆証書遺言」とは、財産を遺す人(被相続人)がその本文・氏名・日付のすべてを自書で記して作成するものです。
自分で書けるという点は手軽ですし、コストもかかりません。2019年から財産目録に限っては、自筆ではなくパソコンで作成したものでも認められるようになりましたし、2020年7月から作成した自筆証書遺言を法務局で保管する制度も始まっています。
気が変わったらすぐに書き直せるのもメリットですが、難点は不備が発生しがちで、その内容が有効と認められないケースが出てくることです。
また、その存在を知った人間によって改ざんされるリスクがありますし、逆にその存在を遺族が知らないまま相続の手続きが進められる可能性も考えられるでしょう。
そこで、これらを防ぐ意味で先述の法務局での保管制度が導入されました。遺言者の住所地・本籍地・遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所で保管の申請手続き(要事前予約)を行うと、「自筆証書遺言」を預かってもらえ、代わりに保管証が発行されます。
こうしておけば紛失・改ざんの心配がありませんし、相続が発生した際に、遺族はその保管証を手掛かりに「自筆証書遺言」の存在を知り、その内容を確認できます。なお、保管の申請時には遺言書と申請書(法務局のホームページでダウンロード可能)に加えて、本籍の記載のある住民票の写し等、本人確認書類、手数料(遺言書1通につき3900円の収入印紙を納付用紙に貼付)が必要です。
●「公正証書遺言」はコストと手間がかかるも、効力が明確
一方、公証役場の公証人が作成に関与し、公正証書として保管されるのが「公正証書遺言」です。まず、財産を遺す人は相続に関する自分の意向を公証人に伝えます。
すると、公証人はその内容をもとに公正証書としての遺言を作成します。無効となる恐れがまず考えられないことは一番のメリットで、公証役場で厳格に保管されるため、改ざんなどのリスクも発生しません。反面、そのデメリットは手間と時間がかかることと、数万円の作成費用がかかることです。
●「秘密証書遺言」は遺言内容を誰にも知られないが、不備があれば無効にも
遺言の存在やその内容を誰にも知られたくない場合には、「秘密証書遺言」を作成します。財産を遺す人または第三者が記載した遺言に署名・押印したうえで、遺言に押印したものと同じ印鑑で封印し、公証人役場に持ち込みます。
そして、公証人および証人2名以上に遺言を入れた封筒を提出し、自己の遺言であることと、氏名・住所を申述します。公証人は提出した日付と遺言に関する申述を封筒に記載し、公証人、証人、遺言作成者本人が封筒に署名・押印すれば、遺言の存在が証明されます。
ただ、「秘密証書遺言」は自分で保管するので紛失・盗難の恐れがありますし、遺言内容について専門家のチェックを受けていなければ、不備が見つかって無効となるケースも出てきます。さらに、費用がかかります。
●相続後に複数の遺言書が見使った場合
相続発生後に種類の異なる複数の遺言書が見つかった場合、必ずしも「公正証書遺言」に書かれた内容のほうが尊重されるというわけではありません。 遺言の優劣は、作成した日時によって決まります。
もしも、「公正証書遺言」よりも作成日が後で、その内容に不備がない「自筆証書遺言」であれば、こちらが優先されます。
とにかく、効力のある遺言書を作成しておけば、相続時に揉め事が発生することを防止できるだけでなく、手続きも円滑に進められます。ただし、「遺留分」のことをきちんと考慮したうえで作成しておくことが重要です。
●遺言書で「相続させない」と書かれていても、「遺留分」は保障される
「遺留分」とは、民法によって兄弟姉妹(甥・姪)以外の法定相続人に保障されている相続財産の最低限の取り分のことです。たとえば、遺言書に特定の法定相続人に遺産をまったく相続させない旨が記されていたとします。
しかし、その人が兄弟姉妹(甥・姪)以外の法定相続人なら、遺言書の内容にかかわらず、「遺留分」として定められている割合のお金の支払いを請求できます。それぞれの「遺留分」の割合については、下段の[図1-10]の通りです。
遺言書によって自分の「遺留分」を侵害されたかたちで相続が進められている場合、その法定相続人は「遺留分侵害額請求」という手続きを行う必要があります。相続の開始から(もしくは贈与・遺贈があったことを知ってから)1年以内にその手続きを済ませないと、時効によって権利が消滅してしまいます。
財産を遺す人としては、「遺留分」のことを踏まえたうえで遺言書を作成しておかなければ、いったん進みかけていた相続の手続きに変更が生じるハメになります。
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