本Webサイトを読んでいるような方であれば、Filecoin(ファイルコイン)という単語は最近やたらと目にしていることではあるだろう。マイニング商材が先行していて、本質が見えにくくなっているFilecoinについて、そもそもそれがどのいうものであるかというのを解説していこう。
目次
爆発的なデータ容量の増加という21世紀の社会問題
Filecoinを理解するために、その背景を知っておくことは重要だ。あなたが何気なく使っているスマートフォンやパソコン、そしてインターネットサービス。それらのデータはどこで保管されているかを考えたことがあるだろうか?
例えば、iPhoneを利用している人は、気がついたらiCloudの容量がいっぱいになっていて、渋々追加の月額料金を支払っているという人は少なくないことだろう。また、YouTubeは誰でも何時間もある長い動画を気軽にアップロードすることができるようになっている。
これらの共通点は、データがクラウド上に保管されているということだ。
データはどこでどのように保管されているのか?
クラウドとはいえ、結局はどこかにデータが保管されることになる。それらの多くは、データセンターと呼ばれる場所になり、そこには大量のコンピュータが配備されている。そして、コンピュータの中には、ハードディスクやSSDといったデータを記録するための物理的な保管媒体が大量に収められている。
例の写真はGoogleのデータセンターになる。1つのラックに14台のコンピューターが設置され、それが延々と奥まで続いている。このような拠点が世界中に何箇所も存在し、我々が利用するクラウドサービスが支えられているのである。
そして、それぞれのコンピューターの中には、ハードディスク(左)やSSD(右)といったデータを記録するための物理媒体が収められている。コストの関係から、多くの場合はハードディスクが使われる。容量や規格によりその価格はピンきりであるが、1個につき1万~10万円程度になる。
ハードディスク
SSD
クラウドにデータを保管することの当事者リスク
これまで書いてきた通り、結局のところデータはどこかの物理媒体には保管されているということだ。今や、多くの人が気軽にデータをクラウド上に保管するようなってしまっているので、世界レベルで見た場合、データの総量が爆発的に伸びる状況に陥っている。
IDCの調査によると、2018年までに生み出された世界のデータ量は33ゼタバイトになり、2025年には175ゼタバイトに膨らむと予想されている。ゼタとは、よく知られているデータ容量単位であるギガの1兆倍だ。
調査は2018年のものであるが、この時点で世界で生成されたデータ総量の90%が直近2年で生成されたものになる。それくらい、データ容量の爆発的な増加は、驚異的なものであるということだ。
世界で生成されたデータの総容量と成長予測
ここまでご覧いただいたように、データ容量の爆発的な増加は、冒頭で紹介したデータセンターにとっては死活問題になる。設備を永遠に増設し続けなければいけないからだ。仮に資金が潤沢にあったとしても、当然データセンターの用地や電力確保が課題になってくる。データセンターは莫大な電力を必要とするため、用地があってもそこで安定した電力が調達できるとは限らない。
そして、いざデータセンターを稼働できたとしても、それらを維持するためのコストが多くかかるようになる。設備を24時間365日安定稼働させるための、設備構築や人員確保など、やらなければいけないことは山ほど存在している。それらは当然ながら多くのコストがかかり、最終的には利用者に何らかの形で転嫁されることになる。そして、保管するデータが増えるにつれて、ハッキング対象にもなりやすくなるため、セキュリティリスクも増大していく。さらに、万が一サービスが止まった場合に訴訟を起こされるリスクも増えてしまう。
また、データ保管をクラウド業者に頼るということは、利用者にとってもリスクが増えることになる。データ保管がいつまでできるのかというのは、その業者の存続に依存するのは言うまでもない。そして、業者の都合でファイルへのアクセスが凍結される可能性はゼロではない。また、業者を通じて、保管するデータを政府から検閲される可能性もある。つまり、自分のデータを完全に自分のものとして扱うことができなくなってしまうのである。
何が言いたいかというと、従来のクラウドのデータ保存方法はすでに限界が来ているということだ。
データの保存を抜本的に変えるIPFS
そこで新しく登場したのが、Protocol Labs社のJuan Benet氏が考案したIPFS(InterPlanetary File System)という新しいデータ保管方法になる。中央集権的な今までのデータ保管方法に対し、IPFSはファイルをP2Pネットワークを使って分散的に保管するのが特徴だ。あちこちにデータを散りばめて保管し、利用者がデータにアクセスする際に、それらを1つにまとめて取り出すことができるという仕組みだ。
今までの中央集権的な保管方法は、HTTPというプロトコルを使うため、どうしても場所に依存せざるを得なかった。例えばデータが digitalassets-online.jp という場所にある場合、そこにあるデータの安全性やアクセスの高速性は digitalassets-online.jp の設備に大きく依存してしまうことなる。これは次の図の左のような管理形態になる。
今までのデータの保管方法(左)とIPFSによる保管方法(右)
一方で、右側の管理形態でデータを保管するのがIPFSだ。IPFSではデータを保管するコンピュータ同士が対等な関係になるP2Pネットワークでできており、データの保管場所は分散している。そのため、1つのデータを場所に依存することなく保管したり取り出したりすることができるようになっている。
その上、利用者がデータを使いたい時は、高速にデータを取り出せる保管場所から優先してデータを引っ張ることができるようになっているので、利用者はデータへの快適なアクセスが可能だ。しかも、IPFSでは重複したデータを排除して保管することができるようになっているため、データ保管そのものが従来よりも効率的になる。また、ファイルが分散されて保管されることから、検閲でデータへのアクセスが遮断されることもなくなる。
このように、IPFSはメリットが大きいので、世界的なIT企業が積極的に自社のサービス基盤にIPFSを取り入れている。MicrosoftやNetflixなど、誰もが知る企業がIPFSを活用しているのである。
IPFSの世界を拡大させるFilecoin
データの保管方法がIPFSで効率化されたとしても、これでデータ容量の爆発的な増加という社会問題が抑制できるわけではない。そこで、Protocol Labs社がさらに立ち上げたのがFilecoinと呼ばれるブロックチェーンを用いたプロジェクトである。
2017年、Filecoinは適格投資家に向けたトークンセールを実施している。適格投資家は、総資産額1億ドル以上か年間利益20万ドルという条件があり、投資家の中でもプロ中のプロの位置づけだ。Filecoinの投資家の中には、約183兆円を運用する世界最大のベンチャーキャピタル、セコイアが含まれており、この他にも著名な投資家が名を連ねている。最終的に、トークンセールでは約282億円が集まり、ブロックチェーン市場でも歴代トップ5に位置する規模になっている。これは、Filecoinが2017年当時から大きく期待されているという表れでもある。
Filecoinの機関投資家
Filecoinでやることは、データ保管のための世界最大規模のIPFSネットワークを構築することだ。IPFSの仕組みそのものだけでは、IPFSを広げるためのインセンティブがないため、爆発的に広まることは期待できない。そこで、Filecoinではデータ保管場所を提供する人に暗号資産のFILというインセンティブを与え、自律的にデータ保管ネットワークが拡大していく仕組みを作り上げた。
Filecoinのネットワークを主に支えるのは、マイナーと呼ばれる存在である。マイナーはハードディスクが満載されたストレージサーバーを用意し、それをFilecoinのネットワークに接続する。さらにマイナーは、マイニングを開始するために暗号資産のFILを担保入れしてマイニングを開始する。そして、データを保管したい人との取引が成立すると、マイニングが成功してFILを得ることができるようになる。
ストレージサーバーの一例
FILは、他の暗号資産と大きく異なっている側面がある。まずデータ保管という実利用が伴っている点だ。単に期待感だけで価格がつく多くの暗号資産とは根本的に異なっている。そして、マイナーが担保のために必ず確保しなければならず、しかもマイニングできた全量をすぐに売ることができない仕組みになっているため、自ずと売り圧が小さくなるようになっている。
順調な滑り出しをしたFilecoin
Filecoinのネットワークそのものは2020年10月15日に稼働を開始したばかりだ。
にもかかわらず、すでにFilecoinのネットワークにマイナーたちが提供したデータ保管のための容量は 757.23 PiB にのぼっている(2020年11月4日時点)。これは、多くの人が親しんでいる容量単位のギガに換算すると、757,230,000 GiB になる。
そして、Filecoinの際立っているのは容量規模だけではない。暗号資産のFILは、ネットワーク稼働開始直後から50以上の取引所で取り扱いが始まっている。今まで数千もの暗号資産が世に登場したが、世界中の取引所からこのような扱いを受けるのは極めて異例なことだ。ここからも、Filecoinがいかに特別なプロジェクトであるかというのがおわかりいただけることだろう。
一般的に、稼働が始めたばかりのシステムがいきなり爆発的に使われることはない。これはFilecoinも同様である。そのため、これからどれだけFilecoinで構築されたIPFSネットワークが使われていくかが、Filecoin成功の大きなカギを握ることになるだろう。
だが、他のブロックチェーンプロジェクトと異なり、Filecoinはマーケティングにも成功し、コミュニティの支持も得ているので、その未来は明るいに違いない。(提供:月刊暗号資産)