(本記事は、髙島一夫氏、髙島宏修氏、立石守氏、今吉貴子氏の著書『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

財産を日本円だけで保有するのは危険

ドル円相場,マーケット・カルテ
(画像=PIXTA)

いわゆる金融ビッグバンから20年以上が経過した今、相当数の資産家が資産を海外に置くようになっています。いわゆる「キャピタル・フライト」です。このことは、パナマ文書や、CRSの件数からも裏付けられることです。

資金が海外に流れている理由は、日本の税制などのリスクによる点も大きいと考えられますが、そもそも資産家にとって、「資産の分散」はリスクを抑える上では王道です。

投資の世界では「卵を1つのカゴに盛ってはいけない」という言葉もありますが、いつの時代であっても、同じ国や、同じ投資対象に資産を集中させるのはリスクが高いのです。

例えば、日本の預金だけで資産を保有していた場合、低金利によりリターンが得られないだけでなく、元本さえも失われてしまう危険性があります。なぜなら、銀行そのものが破綻してしまうかもしれないからです。事実、地方銀行から再編の波が立ち上っています。

日本では、金融機関に預けた預金などは、預金保険制度の対象になっています。いわゆる「ペイオフ」です。万が一、預金を預けた金融機関が破綻しても、預金保険機構により預金の保護を受けることができます。

しかし、ペイオフにより保護される預金の基準は「1金融機関1預金者あたり、元本1000万円までと、その利息など」と定められています。

この保護基準を超える金額を預金していた場合、破綻した金融機関の財産状況によっては払い戻しを受けられる可能性はありますが、最低限保証されるのは、1000万円と利息だけなのです。

しかも、外貨預金など一定の預金はペイオフの対象外なので、銀行が破綻したときは払い戻されません。これは非常に大きなリスクです。

日本の銀行の安全性は、日本政府の財政状況と密接に関連しています。金利が上がるなどすれば銀行が大量に購入している日本の国債の買収価格が下落し、急速な財政状況の悪化にともない、経営破綻を起こす可能性もゼロではありません。

さらに、日本政府の財政状況が極めて悪化した場合には、「預金封鎖」という最終手段に打って出られる可能性もあります。

事実として、日本でも過去に預金封鎖が実行に移されたことがあります。

1946年2月のことでした。戦後、食料や物資が非常に乏しい日本は、猛烈なインフレに悩まされており、国策として預金封鎖を行い、預金の引き出しが制限されることになったのです。

今や生活必需品となったクレジットカードも、決済口座を日本の金融機関にしていると、ある日突然使えなくなる可能性があります。特に地震などにより金融機関が麻痺し、日本円に対する信頼性がなくなれば、そのような事態も起こりえます。

こうして国民の預金を動かせないようにして、資産税をかけて財政補填を試みるかもしれません。

このような事態は、最悪のシナリオですから、もちろん起きない可能性もあるでしょう。

しかし、「何も起こりませんように」と願いながら日本の銀行にお金を預けておくよりも、「何があってもいいように」と海外に資産の一部を移転したほうが、安心ではないでしょうか。

資産は「ドル」を基軸にするのが安全

仮に最悪のシナリオを免れるとしても、日本円のみを保有しておくことはやはりオススメできません。

なぜなら、日本円そのものの信頼が今後も担保される保証はどこにもないからです。

海外での資産保全・資産運用が望ましいのは、「日本国内だけに資産を置いておくのは危険」ということに加えて、「日本円だけで資産を持つのは危険」という意味もあります。

もちろん、日本国内で生活している私たちは、日本円なしに暮らすことはできませんから、一定の日本円を持っておく必要はあるでしょう。しかし、それは最低限でいいのです。ここで言いたいのは、資産の全てを日本円だけで持つことのリスクなのです。

世界の国々は、自国通貨の価値を高めようと必死になっています。自国通貨の価値が向上すれば、輸入産業が潤い、国民の生活も豊かになるからです。

しかし、円安になれば、自動車関連など、一部の輸出企業は恩恵を受けますが、そのことにより日本人が豊かになるわけではありません。輸出産業にしても、主要な企業はすでに生産拠点を海外に移しているわけですから、経済成長にとってはマイナスに働く可能性が高いのです。

円安になるということは、日本人がそれだけ貧乏になると考えられます。もう誰も言わなくなってしまいましたが、中国のGDPは今や日本の2倍にまで成長しています。2009年に中国に抜かれたときは大騒ぎしていましたが、気が付けばもう、日本のGDPは中国の2分の1になっているのが現実です。

現在の為替相場では、1ドル110円ほどです。東日本大震災のあった2011年には1ドル75円程度でしたから、10年を待たず40%ほど円安が進んだことになります。GDPはドルベースで発表されるため、中国とこれだけ差を付けられたのも納得がいきます。

政府が円安を歓迎している限り、この動きにしばらく変化はないでしょう。今や円は世界の負け組通貨になりつつあるのです。

富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
髙島一夫(たかしま・かずお)
株式会社T&T FPコンサルティング代表取締役社長CFP。早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSA にて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
髙島宏修(たかしま・ひろのぶ)
株式会社T&T FPコンサルティング取締役CFP。1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBT グローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、 資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
立石守(たていし・まもる)
みらいウェルス株式会社代表取締役税理士。専門学校講師、税理士法人を経てみらいコンサルティンググループへ入社。事業承継・組織再編を中心に、法人ソリューション業務としてタックスプランニング・人事労務を含めたチームコンサルティング案件に多数関与。長年の経営支援の経験から、将来の資産形成・活用の重要性を痛感し、資産形成サービスを展開している。これまで以上に幅広いサポートを行うため、みらいウェルス株式会社を設立した。
今吉貴子(いまよし・たかこ)
みらいウェルス株式会社税理士。2002年に税理士試験合格後、個人税理士事務所・大手テーマパーク運営会社にて会計・税務業務に従事し、その後、みらいコンサルティンググループに入社。中小企業から大企業まで幅広く法人税務に関与し、中堅企業を対象とした組織再編や、事業承継に纏わる資産税など多数の案件に関与している。

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