(本記事は、髙島一夫氏、髙島宏修氏、立石守氏、今吉貴子氏の著書『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

歴史的に安定しているスイス

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(画像=スイスのプライベートバンク、J・サフラ・サラシン Denis Linine / shutterstock)

オフショアといわれる国や地域であっても、固有のリスクが存在する。

しかし、その中でもスイスは、香港、シンガポールと比べて、オフショアとしての歴史と実績において格の違いを見せつけます。

「オフショアの元祖」とも呼ばれるスイスですが、そのルーツは17〜18世紀までさかのぼります。現在のスイスについて知る前に、少しだけその歴史をひもといてみましょう。

アルプスの山岳地帯に位置するスイスは、土地は農業に向かず、産業も乏しく、ヨーロッパの中では貧しい地域でした。

日本人にとっては、『アルプスの少女ハイジ』や「永世中立国」といった平和的なイメージがあるかもしれませんが。スイスの数少ない産業の1つが実は「傭兵」でした。屈強な体躯を活かした若者たちが、近隣の国家間の戦争に傭兵として参加し、外貨を稼いでいたのです。自らの生命をかけたこの産業は「血の輸出」と呼ばれました。

スイスは、若者の「血」を差し出さなくてはお金を得られないほどに、貧しい国だったのです。

傭兵の若者たちが命がけで持ち帰った報酬は、生命を危険にさらして手にしたものだけに、かなりの高額でした。しかし、彼らは再び傭兵として戦争に出かけるため、財産をスイスに残しておく必要があります。とはいえ、そのまま家の中に置いておくのは危険です。

こうしたお金を管理する役割を担うべく、「プライベートバンク」が生まれたのです。プライベートバンクは財産を安全に管理するだけではなく、戦地から戻らなかった若者の家族に対し、保障をするといった機能も持っていました。

こうして、スイスのプライベートバンクは資産の保全と運用についてのノウハウを蓄積していったのです。

戦火にさらされていた周辺の国々の資産家たちからもプライベートバンクが注目を集め、スイスへ徐々に資産が集まり始めます。資産を自国に置くよりもスイスのプライベートバンクに預けたほうが安全に管理できる、そう彼らは考えたのです。

スイスのプライベートバンクの歴史は地域によって異なり、ジュネーブのプライベートバンクは、フランス革命のときに王侯貴族が資産を避難させたのが始まりだとされています。

フランスに近いスイス西部のジュネーブでは、フランス国内で迫害されたキリスト教の改革派「ユグノー(新教徒)」のお金を持ってきた人たちの運用を始めて、金融力を高めました。北部に位置するチューリッヒやバーゼルは、東欧不安によって流れてきた資金が集まってきたことがルーツです。一方、イタリア語圏のルガーノは、イタリアから資産が集まったのが始まりとされています。

いずれにせよ、スイスのプライベートバンクは、「資産を守る」ということがルーツといえます。不安定な国の情勢から生まれた「頑固で、何があっても大切なものを守る」という国民性に加え、時を経て金融などのノウハウを蓄積した結果、今日のように世界の富裕層から資金を任せられるようになったのです。

ではスイスは今でも安全なのか

香港からシンガポールに多くの資金が移動しつつあるように、あるオフショアでリスクが高まれば、他のオフショアに資金が流れていくものです。資産家はリスクに敏感に反応するものであり、また、そうあるべきものだと思います。

ですから、スイスに集まっている資金も、資産家が何らかのリスクを感じれば、スイスから移動するはずですが、現在に至るまで、スイスには世界の資産が集まり続けています。そして、世界トップクラスの金融センターとして評価され続けているのが事実です。この実績こそが、資産の保全・運用先としてスイスを選択する最大の根拠なのです。

近年は、世界の資金がこれまで以上の規模でスイスに集まっています。スイスの銀行協会が定期的に作成しているレポートによると、スイスで預かっている資産の額は世界一なのです。さらに、「世界のオフショア資産の3分の1をスイスの金融機関が管理している」というレポートもあり、世界中の富がスイスに集まっていることが分かります。

スイスは世界の金融センターであるとともに、特に「富裕層の資産」を受け入れる金融センターとしての地位を確かなものとしています。今はAIをはじめ、最新のシステム導入も早くなっており、資産を守るだけでなく、運用して積極的に増やす方向にも力を入れています。

アマゾンの創設者であるジェフ・ベゾス氏や、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏のように、ITビジネスを中心に兆単位の資産を持つ資産家の数が増えています。これは今後も続くことでしょう。そうした資金は、自国だけで運用すれば税金などのリスクが高いですから、スイスに預けられることが十分に考えられます。

日本においても、不況が続いているなかでも富裕層と呼ばれる個人は増えているようです。野村総合研究所の調査によると、純金融資産保有額が1億円を超える世帯は126.7万世帯に上り、2000年以降の最多人数を記録しています。

このような資産を、名実ともに世界トップのオフショア金融センターであるスイスへ預ければ、しっかりと守り、増やしていくことができるのです。

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(画像=『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』より)
富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
髙島一夫(たかしま・かずお)
株式会社T&T FPコンサルティング代表取締役社長CFP。早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSA にて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役 として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
髙島宏修(たかしま・ひろのぶ)
株式会社T&T FPコンサルティング取締役CFP。1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBT グローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、 資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
立石守(たていし・まもる)
みらいウェルス株式会社代表取締役税理士。専門学校講師、税理士法人を経てみらいコンサルティンググループへ入社。事業承継・組織再編を中心に、法人ソリューション業務としてタックスプランニング・人事労務を含めたチームコンサルティング案件に多数関与。長年の経営支援の経験から、将来の資産形成・活用の重要性を痛感し、資産形成サービスを展開している。これまで以上に幅広いサポートを行うため、みらいウェルス株式会社を設立した。
今吉貴子(いまよし・たかこ)
みらいウェルス株式会社税理士。2002 年に税理士試験合格後、個人税理士事務所・大手テーマパーク運営会社にて会計・税務業務に従事し、その後、みらいコンサルティンググループに入社。中小企業から大企業まで幅広く法人税務に関与し、中堅企業を対象とした組織再編や、事業承継に纏わる資産税など多数の案件に関与している。

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