(本記事は、佐藤 祐一郎氏の著書『小さくても勝てる!』の中から一部を抜粋・編集しています)

働きやすさが組織を安定させる

小さくても勝てる!
(画像=fizkes/stock.adobe.com)

●中小企業だから危ない、は間違い

「当社はつぶれない経営を行っています」と宣言しても、若い人、特に就職活動をしている学生は口には出さなくても「そうは言っても、大手のほうが安全だ。中小企業って、すぐつぶれそう」と思っています。

たとえば面接で学生から「なぜ、つぶれない経営と言えるんですか?」と質問を受けたとき、私はまず現預金の月商倍率の話をします。

私が「うちは月商がだいたい1億円やけど、商売やっていくのに、手元にお金がいくらあったら安心と思う?」と聞くと、学生はお金の桁が大きすぎて答えられません。

学生「毎月1億円の売上だから1億円ですか?」
私 「そう思うやろ。普通は月商の3倍あったら、まずつぶれないと言われてるよ」
学生「じゃあ、3億円」
私 「んー、うちはその3倍はあるよ」

学生は絶句します。

そこですかさず、こう言います。

「じゃあ、ホントかどうか、今度一緒に銀行の支店長さんに会いに行くか?」

これで勝負あった!

さらに言うと、月次の決算書類を見せて、学生に数字でチェックまでさせます。

「超クリアな会社という印象です」

と学生に言われています。

●安定的に伸びている市場が主戦場

会社説明会などにおいて、まず当社の位置づけをどう説明するか。通常は建設業界の市場を「公共」「民間」「新築」「改修」の4つに分けて説明します。

このうち、公共の新築は「公共投資」の言葉どおり国や地方公共団体の投資によって存在する市場で、基本的に人口の減少によって予算が減っていき、市場は小さくなっていきます。また、公共の改修は橋やトンネルを改修して利用するので、微増傾向にある。

一方の、民間です。民間の新築は景気に大きく影響され、市場は拡大縮小を繰り返します。民間の改修工事(193 ページ図④)の部分については、もはや高度成長のころのスクラップ&ビルドの時代はとうの昔になくなり、「100 年住宅」といった言葉に象徴されるように、民間の住宅も公共の構築物も改修して長く使い続けることに重点が移っています。すなわち安定的に伸びている。

「このなかで阪神佐藤興産は、『民間の改修』をメインとする建設業、総合リフォーム業であり、図④の市場が生存領域です」

と説明するわけです。

「そんなに見込みのある市場なら、ライバルも多いのでは?」と聞かれることもあります。そのときは「うちのライバルはゼネコン。当社を年商15億円とすると、ゼネコンの年商は1兆5000億円。1000倍の差がある。でも、大手ゼネコンにこれまで勝ってきたよ」と説明し、どうして勝てるのかについてもキングファイルの説明などを加えていきます。

最近は「お給料はどれくらいですか」と質問されることはほとんどなくなりました。この点は、入社3年目くらいで月額給与が30万円くらいにはなり、賞与を含めると年収400 万円くらいになるといった実績の説明をします。

むしろ聞かれることが増えたのが、残業のこと。ここ数年で残業は確実に減ってきました。これも社員が増えるとともに、経営が安定してきたことが奏功しています。社員のほとんどが17時半には退社します。メリハリのある仕事ができるようになってきたと感じています。私は、夜9時、10時まで必死になって働き続けるより、決められた時間内に成果を出し、あとは定期的に同僚や仲間と飲みに行ってコミュニケーションを深めたり、自分のやりたいことに取り組んでくれたほうがありがたいと考えています。

なお、当社では2年前に「ほほえみ休暇」という制度を導入しました。家族の誕生日でも結婚記念日でもかまいませんが、年に1日、自分がニッコリできる記念日に休暇をとろう! という制度です。

●組織が安定するとつぶれにくくなる

「阪神佐藤興産が変わった」。会社が組織として安定してくるにつれて、この3年ほど前から、取引先、銀行、経営者仲間などいろいろな方から言われるようになりました。経営計画発表会に列席いただく銀行の支店長からも、「若い方が定着して、活気が出てきましたね。頼もしい」と言っていただけるようになった。

経営者仲間の会社からベンチマークを受ける機会も年に数回ありますが、当社の場合は現場見学会にご参加いただき、その場でも「現場が整理整頓されてキレイで、社員も生き生き・テキパキとしている」と評価をいただいています。

入社37年の西原伸一はじめ、ベテラン社員たちもそう感じているようです。

「ここ数年、人が定着してきたと感じます。社員が定着し始めたのはやはり、当社が組織として成長してきたことが大きいのではないかと思います」

社長の私自身も社員を見ていて、活気と落ち着きを持って着実にステップアップしているという実感が持てるようになりました。

小さくても勝てる!
佐藤祐一郎(さとう・ゆういちろう)
阪神佐藤興産株式会社 代表取締役社長
1957 年、兵庫県尼崎市出身。大阪府立寝屋川高校、関西大学を経て、清水建設に入社。日本ペイントを経て、1984 年、父が創業した阪神佐藤興産に入社。 1996 年より現職。同社は、大手ゼネコンが競合にもかかわらず、ほぼ負け知らずと話題。整理・整頓・清潔が徹底された明るい雰囲気の現場見学会も好評。

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