コロナ感染の第三波が予感され、さらにサービス産業に打撃が大きくなることが心配される。その中で、観光業に次いで打撃が深刻とみられるのが、エンタメ業界である。芸能人、スポーツ選手、芸術家と言われるカテゴリーの人々だ。彼らの実態を表す統計データはほとんどないが、僅かに国税庁の確定申告から平均所得などが導き出せる。2020 年は娯楽業の活動が約3割減少しているので、その悪影響が表れそうだ。

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目次

  1. 緊急事態宣言時は活動指数ゼロ
  2. 芸能人・スポーツ選手・芸術家の年収状況
  3. コロナの影響は長引く

緊急事態宣言時は活動指数ゼロ

コロナ禍による経済打撃は、サービス業で大きい。個人消費もモノの消費水準が、コロナ以前に復調してきたが、サービスは依然として厳しい。また、第三波の悪影響も心配される。経済産業省「第三次産業活動指数」では、対個人サービスの回復が遅れていることがわかる。その中では、旅行・宿泊といった観光関連で特に打撃が深刻になっている。これは衆知の事実だろう。

本稿で注目したいのは、観光業の次に悪化しているエンタメ業界の状況である。エンタメ業界=エンターテイメント業界は正式な呼称ではない。日本標準産業分類では、娯楽業(中分類)に相当する業種となるだろう。パチンコ、劇場・興行団、遊園地・テーマパークなどがその内訳である(図表1)。その中でも、プロスポーツ興行、音楽・芸術等興行は、7~9月にかけて他の業種よりも活動指数が悪化している(図表2)。特に、プロスポーツ興行は、3~6月には緊急事態宣言もあって、活動指数がゼロに落ちたが、ここにきて多少戻っている。映画館は、緊急事態宣言下の4・5月はゼロではないが、4月2.3、5月1.3とゼロに近かった。9月は64.6に戻っている。最近の映画館では、洋画の再開はまだ少ないが、邦画の上映は増えている。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
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日本生産性本部のレジャー白書では、2019年の余暇市場の規模は72.3兆円にもなると試算している。これが2020年は▲3割になると予想している。確かに、第三次産業活動指数の娯楽でみても、2020年1~9月の平均は、2019年平均に比べて▲28.9%であり、エンタメ業界が3割減になるという見通しはおおむね正しいと考えられる。

政府はすでに、これに対してもいくつかの支援を行っている。最近になってGoToトラベルとイートの効果が効いてきている。10月後半になってGoToイベント事業も立ち上がりつつあり、ようやくエンタメ業界の支援も始まったところだ。GoToイベントでは、イベント(映画を含む)のチケット1枚当たり2割引き(上限2,000円、クーポン券の場合もある)を10月29日から開始した。一部のテーマパークでは、10月30日に売り出す入場券から、この割引支援を利用できるようになっている。このGoToイベントは、予算1,200億円(事務委託費280億円)だから、これが呼び水になれば最大4,600億円のエンタメ消費の押し上げに寄与する計算になる。

そのほかに、政府は、5月の補正予算で文化芸術支援として560億円を計上している(スポーツ支援は別に20億円)。7月から文化芸術活動への継続支援では、20人以下の小規模団体には最大150万円、フリーランスには最大20万円の給付金の支援を開始している。

芸能人・スポーツ選手・芸術家の年収状況

芸能人やスポーツ選手と言えば、派手なイメージが強い。テレビ番組などに出演して高額のギャラを得ている姿を思い浮かべる。ただ、彼らの実際の生活実態は、一般の私達にはほとんど知られていない。コロナ禍の打撃が深刻だという連想しか働かず、実際の生活への悪影響はよくわからないのが実情だろう。

そこで、まず、コロナ以前の年収状況から調べてみた。参考にするのは、国税庁統計年報(2018年度)である。ここでは、確定申告をしている芸能人、スポーツ選手、芸術家の人数、平均所得、所得分布がわかる(図表3)。統計上の分類は、「芸能関係者」、「職業選手、競技関係者、職業棋士」、「文筆、作曲、美術家」となっている。本稿では、この分類を便宜上、芸能人、スポーツ選手、芸術家と呼ぶことにする。スポーツ選手の中に、職業棋士が含まれている。将棋の棋士は150~200人、囲碁は400人以上とされる。

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まず、確定申告をした人数は、芸能人59,171人、スポーツ選手18,640人、芸術家115,371人である(2018年)。この人数は、時系列でみて増加傾向だが、ほぼ安定している。総所得金額をこの人数で割った平均所得は、芸能人231万円、スポーツ選手661万円、芸術家215万円である。時系列では、スポーツ選手の平均所得が増えているが、芸能人と芸術家は過去10年間は200万円前後で安定している。この数字には、確定申告だけがカウントされており、源泉徴収の給与所得者は入っていない。2006年までは源泉徴収扱いの芸能人の人数も国税庁統計には掲載されていたが、2007年以降は掲載されていない。なお、2006年の源泉徴収のデータをみると、芸能人1人当たりの平均所得は年間69.6万円と確定申告の平均値よりも遙かに少ない。これらの人は報酬が少なすぎて、独立しておらず、芸能の仕事では食べていけない人が多いとみられる。確定申告をしている芸能人などは、独立して芸能所得で食べていく人が多いとみられるが、それでも平均所得は高いとは言えない。

確定申告の所得分布をみると、年間70万円以下の人数が、芸能人41.7%、スポーツ選手15.7%、芸術家34.9%となっている。70~150万円は芸能人19.6%、スポーツ選手11.3%、芸術家19.6%である。分布でみても、スポーツ選手は割と裕福である。芸能人と芸術家は5~6割が年間所得150万円以下とコロナ以前から厳しい。スポーツ選手の平均所得が高いのは、後進や愛好家の育成をするレッスンプロが多いからだろう。

反対に、業界での成功者として1億円超のプレイヤーはどのくらい居るのだろうか。芸能人は0.2%(125人)、スポーツ選手は0.8%(147人)、芸術家は0.07%(82人)とごく少ない。才能を開花して巨万の富を手中に入れる人は、1%未満なのである。

なお、同じ個人事業主として、確定申告をしている弁護士、医師など病院関係者はどうだろうか。これらの中で1億円超の割合は、弁護士1.2%(396人)、医師2.5%(973人)となっている。狭き門であっても、こちらの方が成功確率は高い。

コロナの影響は長引く

2020年のエンタメ業界の平均所得は、コロナ禍の悪影響でどのくらい厳しくなるのだろうか。第三次産業活動指数の娯楽業は、2020年1~9月は前年2019年平均に比べて約3割減(▲28.9%)であった。過去、遡及可能な1988年以降で、これほど娯楽業の指数が悪化したことはない(図表4)。2020年の平均所得を推定してみると、芸能人の場合、2018年の231万円から177万円に▲54万円ほど減少する計算になる。スポーツ選手は、2018年661万円から507万円(▲154万円減少)になる。芸術家は、2018年215万円から165万円(▲50万円減少)になる。非常に深刻な所得減である。

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現在、コロナの第三波が全国を襲っている。さらに感染者が急増して、自主規制などが敷かれると、エンタメ業界はさらに業績が苦しくなるだろう。目下、劇場の観客席は、三密を避けるために顧客同士が一定間隔を開けていて、コロナ前の満席にはならないように配慮している。満席にしない体制では、かつての売上を回復することは到底不可能である。つまり、コロナ感染がたとえ終息しても、顧客同士の間隔を開ける体制が続く限りは、売上・収益は厳しいということだろう。

海外では、ミュージシャンや音楽家に対する寄付などの支援活動が広がっているというニュースをよく聞く。ならば、政府も日本の民間芸能活動の火を消さないために、文化事業への支援金などを追加拡充することを考えてもよいと思える。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生