~7-9月期は高成長も20年度は大幅な落ち込みに。コロナ前の水準への早期回復は困難~
目次
要旨
○民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、11月24日までに集計した民間調査機関20 社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2020年度は前年度比▲5.4%(8月時点見通し:同▲6.0%)、2021 年度は同+3.4%(8月時点見通し:同+3.4%)である。
○2020 年度は、引き続き大幅なマイナス成長が予想されている。緊急事態宣言の解除や海外経済の持ち直しを受け、8月時点の見通しからは上方修正されたものの、7-9月期の高成長は一時的なものとみられている。先行きについては、今後も感染防止措置など一定の措置が取られることや企業業績の悪化に伴う個人消費や設備投資への下押し圧力は続くことから、回復は緩やかなものにとどまる見通しだ。また、世界各国での新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、それに伴う経済活動制限の実施などが景気の下振れリスクとして挙げられた。
○2021年度は、高い成長率が予想されている。経済活動の制約が徐々に薄らぎ、世界経済が持ち直すことで、景気回復が続く見込みだ。とはいえ、回復はあくまで緩やかなものにとどまり、20年度の大幅な落ち込みを取り戻すには至らないとの見方が多い。実質GDPの水準が新型コロナウイルス感染拡大前のものに回復するには、長い時間がかかる見通しである。
○消費者物価指数(生鮮食品を除く、消費税含む)の見通しは、20年度は同▲0.5%、21年度は同+0.2%となった。景気の大幅悪化に伴う需給の悪化や景気の持ち直しが緩やかにとどまることなどから、消費者物価は低調な推移が続く見通しである。引き続き20年度の物価上昇率は前年比マイナスの予想となり、今後も日銀の2%の物価上昇率目標達成は引き続き困難であるとの見方がコンセンサスだ。
コンセンサスは2020年度:▲5.4%、2021年度:+3.4%
民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、11月24日までに集計した民間調査機関20社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2020年度は前年度比▲5.4%(8月時点見通し:同▲6.0%)、2021 年度は同+3.4%(8月時点見通し:同+3.4%)である。世界経済の回復ペースが速いことなどから、20年度の成長率見通しは8月時点から上方修正されたものの、20 年度の大幅な落ち込みは避けられない見通しだ。
20年7-9月期は前期比年率+21.4%、世界各国での経済活動再開を受け大幅プラス成長に
11月16日に公表された2020年7-9月期実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率+21.4%(前期比+5.0%)となった。7-9月期は世界各国での経済活動再開を受け、4-6月期の記録的な落ち込みから大幅に反発、現行基準で過去最大のプラス成長となった。需要項目別にみると、個人消費が前期比+4.7%(4-6月期:同▲8.1%)、輸出が同+7.0%(4-6月期:同▲17.4%)と大幅に増加し、成長をけん引した。また、輸入が同▲9.8%(4-6月期:同+2.0%)と急減したことも成長率の押し上げに寄与している。一方、設備投資が同▲3.4%(4-6月期:同▲4.5%)と2四半期連続の大幅なマイナスとなった。7-9月期は大幅なプラス成長となったものの、4-6月期の落ち込みの6割以下しか取り戻せておらず、依然として水準は低いままである。
項目別にみると、個人消費は「① 外出自粛の緩和に伴う繰り延べ需要(ペントアップ・ディマンド)の顕在化や、②特別定額給付金などの政策効果」(浜銀総合研究所)により大幅な増加となった。また、輸出については、「インバウンド需要が消失した状態が続いているものの、海外経済の持ち直しにより自動車を中心に財輸出が急回復している」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)ことなどから、中国や米国向けを中心に前期比で大幅な増加となった。一方、2四半期連続で減少した設備投資については、「コロナ禍におけるテレワークの拡大などでIT関連投資は堅調だったが、企業収益の下振れや先行き不透明感の高まりから、設備投資を先送りする動きが続いた」(信金中央金庫 地域・中小企業研究所)とみられている。
7-9月期の成長率は高い伸びとなったものの、「政策的に経済活動を止めていた状態からのリバウンドにより実現したもので、持続可能ではない」(東レ経営研究所)との見方が多数派だ。
○20年度の見通しは上方修正、21年度は高成長予想も20年度の落ち込みは取り戻せない見通し
2020年度の成長率予想は、前年度比▲5.4%(8月時点見通し:同▲6.0%)と、7-9月期の成長率が8月時点の想定以上の伸びとなったことから、20年度の成長率は上方修正された。もっとも、「新型コロナの収束が見通せないなか、10-12 月期以降の成長率は減速が避けられず」(日本総合研究所)との見方が多数派だ。先行きについても、「新しい生活様式(ソーシャルディスタンスの確保等)が引き続き対面型サービス消費を抑制することに加え、コロナ禍における倒産、失業、企業収益の悪化が先行きの需要の下押し圧力となる」(ニッセイ基礎研究所)ことから、4-6月期の大幅な落ち込み後としては、景気の持ち直しのペースは緩やかなものにとどまるとの見通しだ。
2021年度の成長率予想は、同+3.4%(8月時点見通し:+3.4%)となった。21年度は新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の制約が徐々に薄らいでくることを前提に、「5Gの本格的普及が進むこと、世界経済の回復が続くことなどを背景に、年度を通じて景気の持ち直しは維持されよう」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)と、20年度の落ち込みからの回復が見込まれている。また、「延期された東京オリンピック・パラリンピック(五輪パラ)の開催効果も期待され、21年夏場には成長ペースが一旦加速」(農林中金総合研究所)など、東京オリンピック、パラリンピックの開催が、景気の押し上げになるとの見方もあった。
このように、世界経済の持ち直しに伴う7-9月期の高成長を受け、20年度の見通しは上方修正された。もっとも、「景気は財政・金融政策によって下支えされるとみられるものの、国内外で感染拡大のリスクが払拭されず一定の感染症対策が継続されることで、企業の積極的な事業展開や個人消費の本格回復を見込みにくい」(大和総研)との見方や「ウィズ・コロナ期の各国の政策は、「感染拡大の抑制」と「経済活動の正常化」の両立を図りつつ、行動制限や自粛のレベルを強めたり緩めたりする微調整を模索する展開が続くことになる」(東レ経営研究所)など、新型コロナウイルスの感染収束が見通せないなか、景気回復の足取りは重いものとなる見通しだ。2021年度末においても、景気が感染拡大前の水準に回復するのは困難との見方がコンセンサスである。
今後のリスクとして、引き続き新型コロナウイルスの感染動向が挙げられた。「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急事態宣言が再発令されるようなことがあれば、経済成長率は再びマイナスとなり、景気の失速は不可避となる」(ニッセイ基礎研究所)とみられている。一方、「ワクチン開発が予想以上のスピ-ドで進んでいるのは朗報で、見通しのアップサイド要因である」(明治安田総合研究所)など、足もとのワクチン開発動向についての言及もみられた。そのほか、米国の新大統領誕生について、「政権交代に伴う経済への短期的な影響は大きくはないとみているが、新政権の政策運営を注視する必要がある」(富国生命保険)と、今後の動向に注意が必要だとの見方があった。
以下では需要項目別に、エコノミストの見方を概観していく。
① 個人消費
20年7-9月期の個人消費は前期比+4.7%となった。緊急事態宣言の解除や特別定額給付金の効果などにより4-6月期から反発、財・サービスの消費ともに持ち直し、高い伸びとなった。もっとも、前期の大幅な落ち込みから比較すると回復は鈍く、水準は依然として低いものにとどまっている。
10-12月期については、「GoTo キャンペーンなどの需要喚起策に支えられてサービス消費の伸びが高まる一方で、ペントアップ需要の一巡などから財の消費が伸び悩む」(ニッセイ基礎研究所)とみられる。また、「所定外給与・夏季賞与も減少したが、企業業績の悪化により冬季賞与も減少する見込み」(農林中金総合研究所)であるなど、所得環境の厳しい状況は続く見通しだ。先行きは、「所得環境の低迷が見込まれるほか、外出を控える傾向が残ることもあって、個人消費は2021年度にかけても停滞が見込まれる」(明治安田総合研究所)など、個人消費の持ち直しは鈍いものにとどまるとの見方が多い。
② 設備投資
20年7-9月期の設備投資は前期比▲3.4%と2四半期連続の減少となった。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、企業収益が大幅に悪化したことや世界経済の先行き不透明感から設備投資を見送る動きが広がり、前期比での減少が続いた。
先行きについては、「在宅勤務の広がりを 受けて、IT機器の大規模導入やITインフラの整備を進める企業も少なくないが、新型コロナの感染収束の兆しが見えるまで、企業は慎重な投資スタンスを維持する」(信金中央金庫 地域・中小企業研究所)とみられている。「設備投資の好調を支えていた潤沢なキャッシュフローという前提が崩れたこと、需要の急激な落ち込みを経験したことで企業の投資抑制姿勢が一段と強まることから、設備投資は底打ち時期が遅れることに加え、底打ち後の回復ペースも緩やかにとどまる可能性が高い」(ニッセイ基礎研究所)との見方など、設備投資は低調な動きが続く見通しだ。
③ 輸出
20年7-9月期の輸出は前期比+7.0%と高い伸びとなり、個人消費とともに7-9月期の高成長をけん引した。サービスの輸出は前期比での落ち込みが続いたものの、世界各国での経済活動再開に伴い、中国、米国向けの輸出を中心に財の輸出が大幅に増加した。
先行きについては、「先進国を中心とした新型コロナの流行再拡大も重石となるため、輸出の回復ペースは次第に鈍化する見通し」(日本総合研究所)や「20年度後半は、冬場の感染拡大ペースの強まりなどから、欧米を中心に世界経済の回復ペースが鈍る可能性が高く、輸出の回復ペースは弱いものにとどまるだろう」(三菱総合研究所)など、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、輸出は緩やかな回復にとどまる見通しだ。また、「今後さらに感染状況が深刻化し、ロックダウンが恒常化するようになると、所得や利益の減少による家計や企業の需要消失、国際的な人やモノの流れの停滞の慢性化などを通じて、日本の輸出入の底割れを招く恐れがある」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)との見方など、先行き不透明感は強い状況である。
④ 公共投資
20年7-9月期の公共投資は前期比+0.4%と2四半期連続の増加となった。災害復旧や国土強靭化関連の事業が進捗したことなどにより、公共投資は増加傾向が続いた。
先行きについては、「2020 年度第3次補正予算では公共事業関係費の予算が積み増され、その多くは2021年度に執行されると見込まれる」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)ことから、引き続きプラスでの推移が見込まれている。「2021年度は、次第に増勢が鈍化していくと見込んでいるものの、高めの水準を維持し、景気の一定の下支えとなろう」(富国生命保険)と、今後も公共投資は底堅い推移が見込まれている。
20年度の消費者物価上昇率はマイナスの見通し、先行きも低迷が続く見通し
消費者物価指数(生鮮食品除く総合、消費税含む)の予測の平均値は、2020年度が前年度比▲0.5%(8月時点見通し:同▲0.3%)、2021年度が同+0.2%(8月時点見通し:同+0.3%)となった。見通しについては、20年度、21年度ともに予想は下方修正され、20年度の物価上昇率は引き続きマイナスの予想となった。
20年度については、「原油価格の下落がタイムラグ(時間差)を伴って引き続き電力・ガス料金の引下げ要因となることや、「GoTo トラベル」事業の影響などを受けて、年度下期は前年比で1%弱程度の下落が続く見通しである」(信金中央金庫 地域・中小企業研究所)と、様々な要因が重なる中で、物価上昇率は前年比でマイナスが見込まれている。先行きについても、「今後の個人消費の持ち直しは緩慢なものにとどまると見込んでおり、需給面からのデフレ圧力がかかりやすい状況が続く」(富国生命保険)との見方が多い。今後も、「日銀が目標とする前年比2%は見通せない状況」(農林中金総合研究所)が続く見通しである。
第一生命経済研究所の見通しについては、Economic Trends「日本経済見通し(2020・2021年度)」(11月16日発表)をご参照ください。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 エコノミスト 奥脇 健史