要旨

● コロナショック以降の就業者数を見ると、女性の方が依然として減少幅が大きいままとなっている。特に、対人関係の希薄化に関連する業種で大きく減っていることが推察される。

● 医療福祉はコロナ禍によって人のニーズが強まっているにもかかわらず、労働市場から女性を中心に退出をしている。逆に、情報通信は男性を中心に増えている。いわゆる技術関連、情報通信関連技術の職で増えていることが推察され、女性の雇用は増えてない。

● こうした中では、リーマンショックの後の雇用対策が応用して使える。リーマンショック後は、雇用調整助成金以外にも、研究人材育成・就業支援基金を実施している。具体的には、無償職業訓練の大幅拡充、ITスキル修得の訓練、新規成長や雇用吸収分野に関わる能力を修得するための長期訓練、訓練期間中の生活保障や中小企業等の実習型雇用などが行われた。リーマンショック時にはその後2~3年間で100万人に職業訓練が実施された。

● 3次補正では、既に職を失った人をどう職に就かせるかや、デジタル化に対応できる人材をいかに育成するかという政策も中長期的な視点で重要。

● リーマンショック後には基金による雇用創出も実施した。具体的には、自治体独自の様々な雇用創出が期待される事業に対して支援する動きがあった。今回のケースでは、コロナショックで産業構造が変わり、全ての業種が元に戻ることは厳しいため、国や各自治体などが前向きな事業転換などの支援をすることも一つの策としてありうる。

● 九州のある企業では、打撃を受けている観光・飲食業界の従事者を期間限定のアルバイトで、通常よりも時給を増やして受け入れるという取り組みをしており、元の仕事が戻ったら無条件で戻ることができる制度となっている。こうした取組を全国的に国や自治体などがある程度支援できるような仕組みも重要になる。

(*)本稿は内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」でのプレゼンを基に作成。

女性雇用
(画像=PIXTA)

対人価値を希薄化させたコロナショック

コロナショック以降の就業者、雇用者数を見ると、今年3月から9月にかけての減少人数は、雇用者では女性で縮小傾向にあるが、就業者で見ると女性のほうが依然として減少幅が大きいままとなっている。特に、対人関係の希薄化というところに関連する業種で大きく減っていることが推察される。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

こういった女性の就業環境の悪化の背景として、主に3つの要因がある。1つ目が、いわゆる非接触化の進展で、サービス関連や卸小売といった、女性比率が高い職場で雇用が減ったことである。

2つ目が、女性の非正規比率が高いことである。非正社員の方が雇用調整を行いやすいため、より雇用が減少しやすかったと考えられる。

そして3つ目が、コロナ下でオンライン化やEC化が進展したため、配送業や情報通信業などの雇用が増えており、男性雇用には部分的にはプラスに作用した一方で、女性の雇用にはあまりプラスに作用しなかったことがある。

女性雇用が激減した背景

次に、就業者数の男女別変化を業種別に見てみよう。今年の3月から9月までの変化幅で見ると、宿泊・飲食サービスや生活関連サービスなどは既に今年の33までにかなり減っており、3月からの減少幅という意味ではむしろ卸小売のほうがマイナス幅が大きいことがわかる。

また、医療福祉は、コロナ禍によって人のニーズが強まっているにもかかわらず、労働市場から女性を中心に退出をしていることが垣間見れる。

逆に、10万人以上増えている分野がとして情報通信があり、男性を中心に増えている。いわゆる技術関連、情報通信関連技術の職でかなり人が増えていることが推察され、残念ながら女性の雇用は増えてない。

また、非正規雇用比率を男女別に見てみると、男性は2割強に対して女性が2019年時点でも55%以上あり、こうした要因も女性雇用が大きく減りやすい背景になっている。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
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減り続ける卸小売業の雇用

さらに、これはコロナ以前からの問題であったが、3月以降の減少が大きい卸小売、特に小売の現場ではネット通販が一段と拡大しており、対面による販売のニーズは減っている。小売業での女性比率は高いことから、女性の雇用はこうした分野で減りやすかった。経産省の「電子商取引に関する市場調査」によれば、2019年時点でBtoCのEC 化率は6.76%まで上昇しており、コロナショック後の2020年は劇的に上昇していることが予想される。

なお、最近では所有から利用・使用への流れが強まっており、物を買わないで借りるという形で、サブスクリプションの市場も進展している。対面販売のビジネスの縮小、さらにはこれに加えて無人レジの導入も進んでいるため、今後、これまで担ってきた女性雇用の受皿としては厳しい状況になっていることも背景にある。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
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男性の職場が増えた背景

一方、男性雇用の比率を見ると、男性雇用の割合が高いのが第二次産業と情報通信と運輸郵便となっている。今後は、デジタル化の推進なども含めて情報通信関連の雇用が増えていく可能性が高いが、ここは男性の割合が高いため、いかにこうした業種が女性の雇用の受皿となっていくかということが一つ鍵を握ることになろう。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

求められる女性雇用創出

こうした中で、リーマンショックの後の雇用対策が参考になると考えられる。次ページの図表は、内閣府がリーマンショック後にどのような雇用対策を実施し、どの程度効果が出たかをまとめたものである。

今回のコロナショックでは、上段の雇用調整助成金中心の策にとどまっているが、リーマンショック後は、中段にある通り、研究人材育成・就業支援基金を実施している。具体的には、無償職業訓練の大幅拡充、ITスキル修得の訓練、新規成長や雇用吸収分野に関わる能力を修得するための長期訓練、さらには訓練期間中の生活保障や中小企業等の実習型雇用などが行われた。リーマンショックの時にはその後2~3年間で100 万人に職業訓練が実施された。

今回も、今後策定される3次補正において、既に職を失った人をどう職に就かせるかや、デジタル化に対応できる人材をいかに育成するかという政策も中長期的な視点でも重要と考えられる。

また、下段にあるとおり、リーマンショック後には基金による雇用創出を実施した。具体的には、自治体独自の様々な雇用創出が期待される事業に対して支援する動きがあった。今回のケースは、コロナショックで産業構造が変わり、すべての業種が元に戻ることは厳しいため、国や各自治体などが前向きな事業転換などの支援を行うことも一つの策としてありうると考えられる。

なお、雇用対策に関連し、今年の中小企業白書・小規模企業白書の中の新型コロナウイルス関連部分で、興味深い取組事例が紹介されている。具体的には、九州のある企業が、打撃を受けている観光・飲食業界の従事者を期間限定のアルバイトで、通常よりも時給を増やして受け入れるという取り組みを行っている。重要なポイントとしては、元の仕事が戻れば無条件で戻ることができる制度にしていることであり、実際にホテルなどから要請あったという事例である。

こうした取組を全国的に国や自治体などがある程度支援できる仕組みも重要になると思われる。

第一生命経済研究所
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第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣