コロナ禍に終始した2020年も、いよいよボーナス・シーズンがやってきます。また、12月は年末調整により還付金が入り、給与も増える人もいるでしょう。一方で気がかりなのは、近年、年収1,000万円前後からそれ以上の高所得サラリーマンに対して増税の傾向がみられることです。そこで今回は年収と所得税をとりまく最新情勢について解説してみたいと思います。
目次
12月が、収入の多いリッチな月になる理由
サラリーマンにとって、ボーナスや年末調整による還付金のおかげで12月は他の月に比べ収入が増えることが多いでしょう。所得税について解説するまえに、年収と関わりの深いボーナス、還付金がどのように計算されているのかをおさらいしましょう。
ボーナスの手取り額はどうやって決まっている?
ボーナスは、額面から「所得税」「厚生年金保険料」「健康保険料」「介護保険料」「雇用保険料」が引かれた手取り額を受け取ることになります。月々の給与からはこれらに加え住民税も引かれますが、住民税は“後払い”の税金である性質上、直接ボーナスからは引かれません。
年末調整の還付金はどうやって決まっている?
自営業者の方は毎年、確定申告をして税金を納めています。それに対し、サラリーマンの場合、給与およびボーナスから税金・社会保険料が引かれ、その後、年末調整によって配偶者控除、生命保険料控除などの所得控除が反映され、税額が確定するというステップをとります。また、医療費控除など年末調整では反映できない所得控除については、翌年、還付申告をすることにより、税金が還付されます。
少しでも収入を増やすために、ボーナスの引去額を少なくしようと考える人も多いでしょう。しかし実際は、ボーナスからの引去額は、給与からの引去額と同様、ある仮定のもとに計算されているため、「今年のボーナスの引去額が額面の何%だったか?」という計算自体にはあまり意味がありません。
つまり所得税を考える上では、ボーナスだけでなく一年全体で考える必要があるのです。ただ、所得税に関してはたびたび制度が改正され、その時々によって講じるべき対策は異なります。そのため、近年の所得税をとりまくトレンドもぜひ理解しておきましょう。
高所得サラリーマンの所得税をとりまくトレンド
ここまでの話を要約すると、自分がいくら税金を支払っているのか、また、どんな節税対策があるのかについては、月々の給与やボーナスから引かれる税額を見るのではなく、年間の収入、所得、所得控除額、所得税額、住民税額を見て判断する必要があるということです。
なかでも所得税は最も身近であるにもかかわらず、意外と年間でどれだけ引かれているのか知らない人も多いのではないでしょうか。年間のサラリーマンの手取り額は次のような計算によって求められます。
(1)年間収入
(2)総所得金額((1)- 給与所得控除額)
(3)課税所得金額((2)-所得控除額(配偶者控除、生命保険料控除など計14種))
(4)支給額(手取り額)((3)-[税額計])
[税額計] = 所得税額((3)×所得税率(超過累進税率))+住民税額((3)×住民税率(一律10%))
この数年の所得税の傾向としては、超過累進税率による、年収1,000万円前後からそれ以上の高所得サラリーマンの方に対して増税が挙げられます。下記、国税庁のホームページに載っている所得税の「速算表」を見ても、高所得者ほど税率が高くなることが分かるはずです。
▽表1. 平成27年以降の所得税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁「所得税の税率」
しかし、所得税の計算方法や増税のトレンドを理解できても、日々の仕事に忙しいサラリーマンの方は、給与からの引去額がいつもより多いのか、少ないのか、いちいち詳細まで確認している時間はないかもしれません。
そこで、ここからは高所得サラリーマンの方が注目すべき増税の項目をピックアップし、その内容を解説しながら、肝心の節税対策について説明したいと思います。
配偶者控除:税制改正により、世帯主年収が1,195万円を超えると受けられない
配偶者がいれば、当然、所得控除のひとつである配偶者控除または配偶者特別控除(これらを一緒に表記する場合は「配偶者(特別)控除」とします)が受けられると思っている方も多いかもしれません。ところが、2018年から合計所得金額が1,000万円を超える高所得サラリーマンの方は、配偶者がたとえ専業主婦/専業主夫で収入がまったくなくとも、配偶者控除が受けられなくなりました。
2020年現在では、年収が850万円より多い場合の所得控除が最大195万円であることから、「年収1,195万円」が配偶者控除を受けられなくなるラインとなっています。
そもそも配偶者(特別)控除とは、配偶者のある方に対する所得控除で、その所得控除額が世帯主の所得から引かれます。控除額は最大38万円で、その金額分、課税所得金額が減り、減税となります(表2)。
▽表2 世帯主年収と配偶者控除・配偶者特別控除 2020年以降適用分
控除種類 | 配偶者控除 | 配偶者特別控除 | ||
---|---|---|---|---|
配偶者年収 | 103万円以下 | 103万円超から150万円以下 | 150万円超から201.6万円以下 | |
世帯主年収 (合計所得金額) | 1,095万円以下(900万円以下) | 38万円 | 38万円 | 36万円から3万円 |
1,095万円超から1,145万円以下(900万円超から950万円以下) | 26万円 | 26万円 | 24万円から2万円 | |
1,145万円超から1,195万円以下(950万円超から1,000万円以下) | 13万円 | 13万円 | 12万円から1万円 | |
1,195万円超(1000万円超) | ゼロ | ゼロ | ゼロ |
引用:国税庁「平成 30 年分以降の配偶者控除及び配偶者特別控除の取扱いについて」/「No.1410 給与所得控除」をベースに筆者が作成
所得控除:2020年から、年収850万円を超えると増税
2020年から施行される税制改正により、給与所得者の年間収入から引かれる給与所得控除と基礎控除の金額が変わります。(表3)。
2020年度以降の控除額(2019年以前との比較) | |||
---|---|---|---|
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | 基礎控除額 | 控除額計 |
850万円未満 | -10万円 | +10万円 | 0 |
850万円 | -10万円 | +10万円 | 0 |
851万円 | -10.1万円 | +10万円 | -0.1万円 |
900万円 | -15万円 | +10万円 | -5万円 |
950万円 | -20万円 | +10万円 | -10万円 |
1000万円以上2595万円未満 | -25万円 | +10万円 | -15万円 |
年収850万円以下の方は、2019年以前と比較して、給与所得控除が10万円下がり、基礎控除が10万円上がるため控除額計は±ゼロで、増減税なしです。
ところが年収850万円以上の方は、基礎控除は10万円上がるものの、給与所得控除が年収増加とともに減りだし、2019年以前と比較すると控除額は最大で25万円も下がります。すなわち、2020年から年収850万円以上の方は、所得控除額が減るために増税となっているのです。
児童手当:年収960万円前後から減額。新型コロナ子育て支援金も受けられない
所得税ではありませんが、所得税と同様、家計に直接影響をおよぼすものとして、児童手当があります。
児童手当制度は2012年に現行の姿になりましたが、その際、扶養親族などの数によって定められている「所得制限限度額」を超えると児童手当が減額される特例給付制度が導入されました。
たとえば、専業主婦/専業主夫を含む扶養親族が3人の場合(専業主婦と児童2人などの場合)、所得制限限度額は年収960万円に設定されています。
▽表4.児童手当所得制限による減額分の試算(扶養親族が3人の場合)
年収960万円以下の場合 | 年収960万円超(特例給付)の場合 | 減額分 | |
---|---|---|---|
0歳-2歳 | 15,000円×12ヵ月×3年=54万円 | 5,000円×12ヵ月×15年=90万円 | - |
3歳~15歳 | 10,000円×12ヵ月×12年=144万円 | ||
子ども1人計 | 198万円 | 90万円 | 108万円 |
子ども2人の場合 | 396万円 | 180万円 | 216万円 |
子ども2人での、年収960万円超と以下での違いは、15年で計216万円。年14.4万円も差が出ることになります。
2020年に新型コロナ子育て支援金として、15歳以下の児童1人あたり1万円給付されることになりましたが、児童手当の特例給付区分に該当する方の場合は対象外となっています。
ここ数年の増税分を金額換算すると、年間37.2万円の試算も
ここまで所得税、配偶者控除、所得控除、児童手当と様々な制度を見てきました。制度改正の時期はそれぞれ異なるものの、ここ数年での増税額を具体的なケースで試算すると、次のようになります。
▽試算の前提:
・専業主婦世帯:子ども2人
・年収:1,300万円
・課税所得:950万円
・所得税率:33%
・住民税率:10%
▽年間の増税額と、児童手当減額分の試算
(1)配偶者控除:38万円→ゼロ(控除されない)
(2)給与所得控除+基礎控除:15万円→ゼロ(控除されない)
・所得控除額の減少分計((1)+(2)):53万円
・増税額試算:53万円×43%(所得税率33%+住民税率10%)=22.8万円
これに加えて、児童手当も14.4万円が減額されています。これを加えると、結果、以下の金額となります。
▽計:37.2万円
つまり、年収1,300万円の高所得サラリーマンは、ここ数年の間に、年間で37.2万円出費が増加したことになります。
まとめ:高所得サラリーマンの節税対策は?
年間40万円近い出費増は、高所得サラリーマンといえ、無視できる数字ではありません。この出費増を補う節税対策はあるのでしょうか?この問いに答えるのは簡単ではありませんが、当面の対応策としては次のものがあげられます。
iDeCoへの加入
iDeCoは、掛金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になるので、毎年iDeCo掛金×税率(概算43%)の税額還付が受けられます。
ふるさと納税の活用
毎年、実質2,000円でふるさとの特産品をもらえる制度です。年収1,300万円であれば、年間30万円程度の寄付が可能で、その30~40%相当の特産品がもらえます。節税ではありませんが、毎年10万円程度の食料品などの節約が可能です。
不動産投資
キャッシュフローに余裕があれば、投資用住宅ローンを組み、賃貸用不動産を購入して貸し付ける方法があります。ポイントは住宅ローンの利子、建物の減価償却費が経費となることです。不動産所得が赤字になれば、給与所得と合算して税額の還付を受けられます。
また、賃貸額などの収入が住宅ローンの返済額などの支出を少しでも上回れば、キャッシュフローはプラスで、賃貸しているうちに、住宅ローンの残額を減らし、家を実質自分のものにすることができます。
高所得サラリーマンに対する近年の増税傾向とその対策について解説してみました。皆様のご参考になれば幸いです。(提供:JPRIME)
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