コロナ禍において、私たちの生活スタイルや心理状態は大きく変化しています。マーケティング支援のヴァリューズが2020年8月に行った調査では、新型コロナウイルス感染拡大前(2020年2月頃)と比べ、約7割の人が「在宅時間が増えた」と回答しました。
こうした社会の変化が“巣ごもり需要”といった新しい需要を喚起しましたが、「ペット需要の増加」もその表れのひとつといえるでしょう。新型コロナウイルス感染拡大後、犬や猫などのペットを求める人が世界的に増えており、日本も例外ではありません。中には「品薄」状態にまでなっているペットショップもあることが報じられており、ペット関連サービスや商品の売れ行きも好調に推移しています。
にわかに注目を集め始めているペット業界。今回は、業界の現状とトレンドについて紹介したいと思います。
犬・猫の飼育頭数が15歳未満人口を超える、日本のペット業界の現状
総務省統計局「人口推計(2020年10月報)」によると、日本の15歳未満人口は1,510万5,000人とされています。一方、一般社団法人 ペットフード協会が2019年12月に発表した「2019年 全国犬猫飼育実態調査 結果」を見ると、犬と猫の推計飼育頭数の全国合計は1,857万5,000頭。いまや日本は、15歳未満の子どもの数よりも犬や猫の飼育頭数の方が多い「ペット大国」となっているのです。
飼育頭数自体は、犬がやや減少傾向にあるものの猫が緩やかな増加傾向を見せており、2017年には犬の飼育頭数を抜いています。ペット関連市場も、矢野経済研究所調べによると順調に成長し続けており、2018年は1兆5,442億円の市場だったといいます。
冒頭でも紹介した通り、2020年はこの傾向に少し変化が見られます。その一例として、ペット保険大手のアニコム ホールディングスの4~6月の新規契約件数は、四半期として過去最多の5万3,456件(前年同期比33%増)を達成しました。このことからも、ペット市場のさらなる拡大の可能性を感じさせます。
そんななか、ペットテックスタートアップのシロップが開発した「PETOKOTO FOODS」というドッグフードが、2020年のグッドデザイン賞にドッグフードとしてはじめて選出され、注目を浴びました。「PETOKOTO FOODS」は犬種や年齢、運動量などのデータを登録するだけで、個々の犬に応じたメニュー、分量のペットフードを定期配送する、D2C(Direct to Consumer)モデルのサービスです。
革新的なサービスである点だけでなく、同社がフードロスや保護犬猫マッチングサービスといったSDGsにもかかわる社会的課題に取り組んでいる点が受賞理由となっているようです。ペット市場の拡大にともない、こうした“ペットテック”がさらに発展していきそうです。
ペットの供給側に“規制強化”のメスが入った
コロナ禍における在宅の長時間化や心理的なストレス緩和ニーズの高まりなどから、ペットを飼い始める人が増えていますが、これらの「需要」の増加に対し、「供給」側にも大きな変化が起き始めています。
キーワードは、2020年6月から施行されている「改正動物愛護法」です。今回の改正法により、悪質なブリーダーやペットショップへの規制が強化され、ペットの虐待や殺傷に対する罰則が引き上げられたのです。また、環境省は今後さらなる規制強化にも乗り出す方針で、たとえば犬や猫を飼育するためのケージの大きさに関する数値基準や従業員ひとり当たりの飼育可能数、また繁殖回数の上限設定などが検討されています。
これらの基準をすべて遵守するとなると、経営を左右する事態となる事業者も少なくありません。業界団体などが7月に、全国の犬や猫のブリーダーを対象に行ったアンケート調査では、1,100余りの回答事業者の半数以上が「廃業を検討する」と回答したということです。今後、議論がどのように進むかまだはっきりとはわかりませんが、「供給側」の事情で、需給バランスがさらに崩れる可能性も否定できないでしょう。
ペットの“家族化”で今後注目されるビジネス
ペットを飼育する家庭が増加するとともに、ペットなど飼育動物の診療施設も年々開設数が伸びています。農林水産省が発表している「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」によると、診療施設の開設届数は2004年の13,231件だったのが、2019年には16,096件にまで増加しています。ペットにも医療が行き届き始めていることは、家族におけるペットの存在が以前にも増して大きくなっていることを示唆しています。
こうした意識変化をビジネスにつなげようという動きも出ています。そのひとつが「ペットツーリズム」です。ペットと一緒に旅に出かけ、楽しい時間を共有することをコンセプトとした旅行が提案されています。以前はペットと一緒に宿泊ができ、楽しめるような施設は少数でしたが、飼い主の潜在的なニーズをくみ取り、積極的に設備投資を行う事業者も出てきています。また、山梨県や栃木県那須町では地域をあげてペットツーリズムの振興に取り組んでいます。
また、感染防止対策と社会経済活動の両立が叫ばれるなか、国土交通省は飲食店などが公道にテラス席を設置しやすくなるよう、2020年6月から11月にかけて路上利用の占用許可基準の緩和策を打ち出していました。
こうした機運を受けて、都心においても、ペットと同席可能なオープンテラスの店舗が展開しやすくなるよう、地域の人や事業者が一体となって街づくりに参画するような動きが出てくるかもしれません。コロナ禍で、自宅だけでなく街中でもペットと生活を共にできるような「新しい生活様式」を可能にするビジネスが生まれるきっかけとなるかもしれません。(提供:JPRIME)
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