地球温暖化を抑制するために世界では再生可能エネルギーの普及が課題となっています。日本を含めた先進国では、どのような取り組みが行われているのでしょうか。本記事では、主要先進国5ヵ国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本)の導入状況を紹介していきます。

アメリカにおける再生可能エネルギーの導入状況

再生エネルギー
(画像=icruci/stock.adobe.com)

エネルギー自給率

アメリカでは、2006年以降に進められたシェール層の開発によってシェールガスの生産が本格化し(シェール革命)、化石燃料(原油・天然ガス)の生産量が大きく増加しました。再生可能エネルギーも増加したことでエネルギー自給率は2005~2017年の10年間で約20%上昇しています。

再生可能エネルギーの導入状況

2017年のアメリカの発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は16.8%で内訳は水力が7.1%、水力以外が9.8%です。水力以外の再生可能エネルギーの主力は、風力で6.0%となっています。

アメリカの自然条件

アメリカは、アパラチア山脈やロッキー山脈に挟まれた中央平原とその西部にあるグレートプレーンズが平地です。また平均風速が秒速6メートル以上あるため、風力発電事業に取り組みやすい環境にあります。南西部を中心とした地域は、日照時間が長いサンベルト地帯にあたることから太陽エネルギー資源に恵まれており近年では太陽光も伸びている傾向です。

エネルギー政策について

アメリカは、オバマ政権からトランプ政権に移行後、2017年にパリ協定からの離脱を表明します。アメリカ第一主義を掲げて経済を優先し気候変動問題を軽視する傾向にありました。しかし2020年の大統領選挙で再生可能エネルギーの普及を掲げるバイデン氏が当選確実となったことでパリ協定に復帰する見通しです。

このままバイデン政権に移行すればアメリカのエネルギー政策は一変し再生可能エネルギーの普及が進む可能性が高いでしょう。

イギリスにおける再生可能エネルギーの導入状況

エネルギー自給率

イギリスは、かつて北海油田の開発で一次エネルギー自給率が100%を超えるエネルギー輸出国でした。北海油田の枯渇によって原油生産量の減少が続きエネルギー自給率は下がっているものの現在でもエネルギー自給率は約7割程度と先進国の中では高水準です。

再生可能エネルギーの導入状況

2017年のイギリスの発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は29.6%で内訳は水力が1.8%、水力以外が27.8%です。水力以外の再生可能エネルギーの主力は、風力で14.9%となっています。

イギリスの自然条件

イギリスは、大半が丘陵地帯および平地からなっており丘陵地帯も標高はそれほど高くありません。風況も欧州の中では恵まれているため、風力発電に適した地域が多い傾向です。また洋上での風況も良好なため、洋上風力発電の潜在能力も高く開発事業が進められています。イギリスの洋上風力発電開発事業には、日本企業も参画しています。

エネルギー政策について

イギリスは、2019年6月に「温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」と発表しました。これまでは、1990年比で80%以上削減することを長期目標としてきましたが気候変動への取り組みを強化する方針です。イギリスは、2020年1月にEU(欧州連合)を離脱し離脱を円滑に実現するための移行期間に入っています。

EU離脱(ブレグジット)が洋上風力発電事業をはじめとするイギリスのエネルギー政策にどのような影響を与えるのか注目されます。

ドイツにおける再生可能エネルギーの導入状況

エネルギー自給率

ドイツのエネルギー自給率は、国内で産出される石炭と原子力により4割程度でした。近年では、再生可能エネルギーによる発電量が増加して自給率向上に寄与しています。一方で原子力発電所の稼働停止を進めているため、全体の自給率は低下傾向にあります。

再生可能エネルギーの導入状況

2017年のドイツの発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は33.4%で内訳は水力が3.1%、水力以外が30.3%です。水力以外の再生可能エネルギーの主力は、風力で16.3%となっています。

ドイツの自然条件

ドイツは、北部に平野部、中部・南部には山岳地帯が広がっています。北部は、風況が良好のため風力発電に適した環境です。一方でイタリアやフランスといった他の主要先進国に比べると太陽光については、日照量などの観点から有利な自然条件とはいえません。

エネルギー政策について

EUは、2019年12月に「2050年までに域内で排出される温暖化ガスを実質ゼロにする」目標を発表しました。EU加盟国であるドイツでは、2019年に発電量に占める再生可能エネルギーの比率が初めて化石燃料を逆転するなど再生可能エネルギーの普及が進んでいます。

フランスにおける再生可能エネルギーの導入状況

エネルギー自給率

フランスでは、電力供給の約8割を原子力が占めています。海外からのエネルギー調達が途絶えたとしても数年にわたって国内保有の燃料だけで生産維持が可能です。エネルギー自給率は、50%前後で安定しています。

再生可能エネルギーの導入状況

2017年のフランスの発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は16.6%で、内訳は水力が9.0%、水力以外が7.7%です。水力以外の再生可能エネルギーの主力は、風力で4.4%となっています。

フランスの自然条件

フランスの大部分は、ヨーロッパ中央平原にかかっており穏やかな起伏の平野です。平野部の北部分と南フランス沿岸は風況が良好で風力発電に適した地域と考えられます。南部においては、太陽エネルギー資源の潜在能力が高い傾向です。

エネルギー政策について

フランスでは、非化石電源比率が約9割とすでに高い水準を達成。2017年時点で71.5%の原子力電源比率を2035年までに50%まで引き下げる方針です。一方で再生可能エネルギーの電源比率を2030年までに40%まで引き上げる目標を掲げています。目標が実現すれば現状の非化石電源比率約9割の維持が可能です。

日本における再生可能エネルギーの導入状況

エネルギー自給率

日本のエネルギー自給率は、東日本大震災前は20%前後でしたが震災以降は原子力の発電量が減少したため、一時は6%まで悪化しました。近年では、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の導入や原子力発電所の再稼働などにより増加傾向です。しかし現状では10%程度にとどまっており今回比較する主要先進国5ヵ国の中では最も低くなっています。

再生可能エネルギーの導入状況

2017年の日本の発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は16.0%で内訳は水力が7.9%、水力以外が8.1%です。水力以外の再生可能エネルギーの主力は、太陽光が5.2%と最も高くその他は地熱0.2%、バイオマス2.1%、風力0.6%となっています。

日本の現状と課題

日本では、エネルギー自給率の改善が課題となっています。石油や石炭といった化石燃料が8割以上を占めておりそのほとんどを海外に依存しているため、地球温暖化対策はもちろんエネルギー供給の観点からも改善が必要です。資源が乏しい日本においては、国産のエネルギー源である再生可能エネルギーの比率を高めることがエネルギー自給率の改善につながります。

再生可能エネルギーの主力電源化に向けては、固定価格買取制度(FIT)や技術開発などによって世界に比べて高い発電コストの低減を図らなくてはなりません。また再生可能エネルギーを長期的に安定した電源とするには、電力系統の見直しも必要です。2020年10月には、菅義偉首相が所信表明演説で「温暖化ガスの排出量を2050年までに実施ゼロにする」という目標を表明しました。

再生可能エネルギーの比率を大幅に高めるなどエネルギー政策について抜本的な見直しを進める方針です。

世界の再生可能エネルギーへの取り組みを理解しておこう

地球温暖化問題への関心は高まっており世界的に再生可能エネルギーの普及が進んでいますが課題や取り組みは国によって大きく異なります。日本の状況や課題はもちろん主要先進国の取り組みについても理解しておきましょう。(提供:Renergy Online