相続発生後に起こる事象や、必要となる手続きについて皆様はどの程度知識をお持ちでしょうか。例えば、「亡くなった親の銀行口座は凍結される」ということはご存知でしょうか。では、死亡後、どの段階で凍結されるのでしょう。また、その預金を相続するための相続手続きはどうしたらいいのでしょう。本記事では亡くなった親の預金に関する手続きについて解説します。
亡くなった親の口座はすぐに凍結されるのか
「親が死亡すると口座はすぐ凍結される」とよくいわれます。
しかし実際には、口座は持ち主が亡くなってもすぐに凍結されるわけではありません。親が亡くなったら、まずその死を市区町村に届け出る必要がありますが、その死を地方自治体が金融機関に伝えるわけではありません。
凍結されるのは相続人が親の死亡を金融機関に伝えた後です。それから遺言の確認や遺産分割協議を行います。また、銀行の預金は、その相続人が決まってから、相続手続きを開始するのが原則です。
親が亡くなったときの預金の手続き
ここからは、亡くなった親の預金の相続手続きについて見ていきましょう。
親の死亡を金融機関に伝える
口座名義人である親の死亡を金融機関に伝え、口座を凍結してもらいます。この凍結には2つの目的があります。1つは死亡した時点での相続財産を確定させるため、もう1つは勝手な預金引き出しによる相続トラブルを防ぐためです。
なお、預金口座のお金は、口座名義人の死後、一時的に相続人全員の共有財産として扱われます。
遺言か遺産分割協議で承継者を決める
口座凍結が行われた後、遺言書を捜索・確認します。遺言書の不在や預金の承継に関する記載がないことが確認された場合、遺産分割協議にて預金の承継者を決めます。
親の預金の相続手続きをする
親の預金の承継者が決まったら、相続手続きを金融機関で行います。金融機関ごとに形式は異なりますが、おおむね次のような書類が求められます。
▽親の預金を相続するため必要となる主な書類
・亡くなった親の出生時から死亡時までの戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本(実印が押してあるもの)
・相続人全員の印鑑証明書
・遺言書又は遺産分割協議書
・亡くなった親の預金通帳、キャッシュカード、証書など
・金融機関が用意している名義書換依頼書あるいは相続届
なお、2017年から法務局による法定相続情報証明制度が開始されました。金融機関によっては、この法定相続情報一覧図を戸籍謄本の代わりにすることができます。
この他、金融機関ごとに求められる書類が異なります。実際の相続手続きでは、金融機関に必要な書類をその都度確認した方がよいでしょう。
預金の払い戻し
相続手続きに必要な書類を金融機関に提出すると、2週間ほどで親の口座の預金が払い戻されます。ただし、状況によっては1~2か月かかることがあります。
民法改正で遺産分割前でも預貯金が引き出し可能
いったん口座が凍結されると、家族でもお金をおろせません。しかし、名義人の死亡後、葬儀代や未払医療費、税金の支払いをしなくてはいけないのも現実です。また、相続人が亡くなった人からの仕送りを頼りに生活していたという場合もありえます。
そのような事情を鑑み、民法改正により2019年7月以降、預貯金の仮払い制度が始まりました。この制度により、遺産分割協議成立前でも相続人は単独で故人名義の口座から直接お金を引き出せるようになったのです。次のいずれか低い金額が1つの金融機関での出金上限額になります。
▽名義人死亡後の預貯金の仮払い上限額 ※以下のいずれかの低い金額
・死亡時の預貯金残高×1/3×引き出す人の法定相続分
・150万円
ただ、世帯によっては「これでもお金が足りない」ということもあるかもしれません。そんなときは、金融機関に直接出金を依頼するのではなく、家庭裁判所の保全処分を利用するとよいでしょう。裁判所に申立を行い、権利保全の必要性を説明するという手間はかかりますが、申立が認められれば法定相続分まで引き出すことができます。
なお、この仮払い制度で金融機関から直接お金を引き出すと、その出金は「遺産分割が済んだもの」として扱われます。また、仮払い制度の利用でも申請書と本人確認書類の他、故人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本か法定相続情報一覧図、引き出す本人の印鑑証明書が必要です。
勝手な引出は遺産分割のトラブルになるので注意
「書類を揃えて手続きを踏むのは面倒。親の死亡を伝えずにキャッシュカードで引き出せばいい」と考える人もいるかもしれません。しかしながら、こういった行為は後々のトラブルにつながる可能性があり、おすすめできません。
遺産分割の段階で預金を勝手に引き出したことがわかると「着服」を疑われ、相続人同士の争いの原因になるかもしれません。
仮払い制度で引き出すときも、事前にほかの相続人に了解を得てから引き出すようにしましょう。(提供:相続MEMO)
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