退職金を支払う余裕がない中小企業の経営者にとって、退職金を準備できる「中小企業退職金共済制度(中退共)」は加入を検討する価値のある制度です。概要やメリット・デメリットを解説します。
中小企業のための退職金制度
中小企業退職金共済制度(中退共)は、日本における中小企業対策の一環として1959年に制定された「中小企業退職金共済法」に基づき、中小企業の退職金制度の導入を促進する目的で設けられた制度です。
中退共の目的としくみ
中小企業の中には、単独で退職金制度をもつことが困難な企業も少なくないでしょう。このような事情を考慮して、中小企業の相互扶助と国の援助で退職金制度を確立し、加入企業における従業員の福祉の増進と雇用の安定を図り、ひいては中小企業の振興と発展に寄与することが、中退共制度の目的です。
中退共制度は共済制度であり、中小企業が拠出する掛金とその運用利息を財源としています。短期加入者に給付される退職金は掛金を下回る一方で、その差額と運用利息を財源とし、長期加入者には掛金の元利合計額を上回る手厚い退職金が給付されるしくみです。
初めて加入する企業には、掛金の一部が国から助成されます。退職金は、中退共本部より、退職した従業員の口座へ直接振り込まれるため、振り込み事務の手間が掛かりません。掛金の月額は従業員ごとに16種類から選べる上、短時間労働者には一般従業員より低い特例掛金月額も用意されています。
加入できる企業の条件
業種 | 資本金または 出資の総額 | 常時使用する 従業員の数 |
①製造業・建設業・運輸業・その他の業種(②~④を除く) | 3億円以下 | 300人以下 |
②卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
③サービス業 | 5千万円以下 | 100人以下 |
④小売業 | 5千万円以下 | 50人以下 |
中退共に加入するには?
銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・商工中金などの金融機関で「新規申込書」を入手し、必要事項を記入・押印し金融機関に提出すれば、加入の手続きは完了です。労働保険事務組合・中小企業団体中央会・商工会議所などの委託事業主団体や委託保険会社でも加入申込できます。新規申込書がない場合は、中退共本部からの取り寄せが可能です。
中退共に加入するメリットとデメリット
メリット、デメリットについてそれぞれ確認していきましょう。
メリット
・初めて中退共に加入する場合は掛金の半分を、加入後4ヵ月目から1年間、国が助成します。掛金を増額する場合も、増額分の1/3を、国が1年間助成します。
・法人の場合、掛金は損金計上できます。
・一定の要件を満たす従業員には、通算制度でまとまった退職金を給付できます。中退共に加入している企業間で転職した従業員がいる場合に活用できるでしょう。
・加入期間が一定期間を超えると、運用利息が加算され、掛金を上回る退職金が給付されます。
・中退共と提携しているホテルやレジャー施設などを、割引料金で利用できます。従業員への福利厚生として活用できるでしょう。
デメリット
・掛金の納付開始後、1年未満で退職した従業員には、退職金が全く支給されず、納付済みの掛金も返金されません。また、1年以上2年未満で退職した場合は、支給額が掛金を下回ります。短期間で退職する従業員が多い企業は、掛金を回収できないリスクがあることに注意が必要です。
・毎月の掛金が固定されるため、経営を圧迫します。掛金を減額する場合は従業員の同意が必要となるなど、掛金の減額や中退共の脱退は簡単ではありません。
・退職理由がどのようなものであろうとも、退職者には退職金が支給されます。懲戒解雇など特別に認められた場合は支給を止めることもできますが、掛金は戻ってきません。
退職金が準備できる制度を活用しよう
中小企業退職金共済制度(中退共)は、しくみがシンプルで加入や管理も楽にできる、確定拠出型の退職金制度です。従業員の福利厚生に利用できる提携サービスが用意されており、税制上のメリットもあります。掛金の内容などについてしっかりと理解し、利用を検討してみましょう。(提供:企業オーナーonline)
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