平均寿命が延びるにともない、老後資金の問題がマスコミをにぎわしています。そんな老後資金の重要な資金源となりうるのが「老齢年金」です。繰り下げ受給によって年金額を増やすことが可能ですが、制度改正によって75歳まで繰り下げられるようになります。この記事は初心者に向けて、「繰下げ受給」のメリット、活用する際の注意点について解説します。
目次
意外と説明できない?老齢年金とは何か
公的年金とは、公的年金制度に支えられた年金を指し、若いときに加入して、保険料を納め続けることで、経済的なサポートが必要な状態になったときに支給される仕組みをいいます。
また、年金には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」があります。まずは老齢年金とほかの年金の違いを説明できるように、違いを確認してみましょう
▽支給する年金の内容に基づく年金の種類
種類 | 内容 |
---|---|
老齢年金 | 高齢になり働けなくなくなったときのために支給される年金で、原則65歳以上の年齢になった場合に支給されます。 |
障害年金 | 病気やケガで障害が残ったときに支給される年金です。 |
遺族年金 | 家族の働き手が亡くなったときに、その配偶者や未成年の子に対して支給される年金です。 |
年金の種別によって加入義務のある対象者が異なる
公的年金は民間の保険会社が運営する“個人年金”とは異なり、一定の条件を満たした人には加入義務があります。年金の種別による分類、および加入義務のある対象者は次のとおりとなります。
▽種別による年金の分類
年金 | 内容 |
---|---|
国民年金(基礎年金) | 国民年金(基礎年金)は、国内に居住する20 歳以上60 歳未満のすべての人に加入の義務があります。65歳になれば加入期間や支払った保険料に応じて国民年金(基礎年金)を受け取ることができます。 |
厚生年金保険 | 会社員や公務員の人は国民年金に加えて、厚生年金保険に加入する義務があります。 厚生年金保険は、国民年金(基礎年金)の上乗せとして過去の報酬と加入期間に応じた報酬比例年金を受け取ることができます。 |
▽公的年金制度の種別ごとの加入対象者
種別 | 第1号被保険者 | 第2号被保険者 | 第3号被保険者 |
---|---|---|---|
加入する制度 | 国民年金(基礎年金) | 国民年金(基礎年金)および厚生年金保険 | 国民年金(基礎年金) |
対象者 | 学生・自営業者など | 会社員・公務員など | 国内に居住し、第2号被保険者に扶養されている配偶者 |
老齢年金には「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」の2つが存在する
ここまで支給内容による分類、種別による分類を見てきましたが、それらは別々の年金というわけではありません。たとえば老齢年金なら、国民年金の老齢年金と、厚生年金の老齢年金の2つがあります。具体的には次のようになります。
(1) 老齢年金:老齢基礎年金、老齢厚生年金
(2) 障害年金:障害基礎年金、障害厚生年金
(3) 遺族年金:遺族基礎年金、遺族厚生年金
みなさんの想像される“年金”のイメージに最も近いのは、おそらく老齢になってから支給される「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」だと思います。
基本を押さえたところで、本題である「老齢年金」について見ていきたいと思います。
なお、ここでは「国民年金(基礎年金)」といっていますが、自営業者の方の年金のときは「国民年金」といい、会社員・公務員などの方の年金で、厚生年金と対にしていうときは、「基礎年金」ということが多いようです。ここでは慣用に従って、使い分けますが、国民年金も基礎年金も同じものというご理解で読み進めてください。
老齢年金はどのくらい受給できるのか?
老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに、原則65歳になってから支給されます。そのために支払うべき保険料と受け取れる年金額は次のとおりです。
▽老齢年金の種類と保険料・年金額
保険料 | 年金額(年額) | |
---|---|---|
老齢基礎年金 | 年額19万8,480円(第1号被保険者の場合)※1 | 約78万円 (40年加入・満額ベース) |
老齢厚生年金 | 平均標準報酬月額の9.15%(第2号被保険者の場合)※2 | 109万2,000円 (40年加入の標準例ベース) |
年金額の合計年額 | 約187万円 |
※1:第3号被保険者の保険料は無料
※2:平均標準報酬月額の9.15%の中に老齢基礎年金の保険料も含まれる。会社も同額の保険料を負担する
「繰下げ受給」をすると年金額が増額する
老齢年金には、「繰上げ受給」および「繰下げ受給」できる制度があります。繰上げ受給は老齢基礎年金・老齢厚生年金とも、60歳から64歳までの間の任意の年齢で請求することで繰上げ受給をすることが可能です。65歳より早くに年金を受け取れますが、請求時点での年齢に応じて年金額が減額されます。
一方、繰下げ受給については、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともそれぞれ66歳以降70歳までの間の任意の時点まで繰下げて受給することができます。また、2022年4月からは75歳まで繰り下げて受給できるようになることが決定しています。
今回着目したいのは「繰下げ受給」です。繰下げ受給請求を行うと、その時点から年金の支払いが始まりますが、繰下げをした期間に応じて、月当たり0.7%の年金が増額になります。
たとえば、65歳で受け取れば年額78万円であった老齢基礎年金を、67歳まで2年間(24ヵ月)繰下げた場合の年金額は次のとおりとなります。
78万円+78万円×(0.7%×24ヵ月)=91.1万円
2年間繰下げただけですが、年金額は年額で16.8%増額できる計算です。これを最大限の75歳まで10年間(120ヵ月)繰り下げた場合はどうでしょうか。
78万円+78万円×(0.7%×120ヵ月)=143.5万円
75歳まで年金を10年間繰下げると、年額で約84%も増額することができます。また、繰下げには3つの選択肢があり、老齢基礎年金単独、老齢厚生年金単独、そして2つの年金を同時に繰下げることが可能です。
年額で84%も支給額が増えると知ったら、一見、「これはいい、やってみよう」という気になるかもしれません。しかし、選択する前にはきちんとシミュレーションしておくことが肝心です。
繰下げ受給の“元”を取るには?
それでは老齢基礎年金および老齢厚生年金を同時に、65歳から75歳まで繰り下げた場合のシミュレーションをしてみたいと思います。
▽シミュレーション1:繰り下げをしない場合、65歳から74歳までの10年間に受け取れる年金額
(A)老齢基礎年金:78万円(満額の場合の年額)
(B)老齢厚生年金:109万2,000円(標準例の場合の年額)
(C)老齢年金の年額合計:約187万円(A+B)
(D)10年間で受け取る年金額:1870万円(C×10年)
▽シミュレーション2:75歳に繰り下げたことによる1年当たりの年金増加額
(E)75歳以降の年金額:344万円(C+〔C×0.7%×120ヵ月〕)
(F)繰下げによる1年あたり年金増加額: 157万円(E-C)
(G)Dの金額を取り戻すまでの年数:11.9年(D÷F)
すなわち、75歳+11.9年=86.9歳まで生きれば繰下げ受給の元が取れることになり、それ以上生きれば、繰り下げたほうが多くの年金がもらえることになります(86.9歳は損益分岐点とも呼ばれます)。
日本人の65歳時点の平均余命と照らし合わせてみると?
それでは、86.9歳まで生きられる可能性はどのくらいあるのでしょうか。厚生労働省が発表している日本人の平均寿命、また年金を繰り下げるか否かの判断は65歳の時点で行うことになるため65歳時点の平均余命を見てみましょう。
▽日本人の平均寿命と65歳時点における平均余命
男性 | 女性 | |
---|---|---|
65歳時点における平均余命 | 19.83年 | 24.63年 |
65歳+平均余命 | 84.83歳 | 89.63歳 |
※厚生労働省「令和元年 簡易生命表の概況」をもとに筆者作成
上記の表をみると、2019年時点では、65歳の男性は平均84.7歳まで、女性は平均89.5歳まで生きると示されています。損益分岐点の86.9歳と比べると、男性は平均以上に長生きをする必要がありますが、女性は平均で損益分岐点を超えることになります。
繰下げ受給が有利か不利かは計算できない
年金の繰下げ受給をすべきかどうかという議論は、マスコミなどでいろいろなされています。平均余命まで生きれば得するのだから、繰下げたほうがよいのではないかという考えの人もいるようです。
そうした議論は、自分自身が平均余命まで生きられるという前提に基づいています。自分が平均余命まで生きられるかどうかは結局のところ誰にもわからないため、繰下げ受給の選択が有利なのかという問いに答えはありません。
答えを出すことができない以上、拍子抜けするかもしれませんが、基本的にはもらえる年金はもらえるときにもらっておくのがある種の合理的な判断といえると思います。
まとめ:年金はもらえるうちにもらっておくのも合理的な考え方
ここまで、公的年金制度と繰下げ受給制度の概要およびそのメリット、計算方法について説明してきました。要点をまとめると次のようになります。
(1)会社員・公務員の場合、受け取れる老齢年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金
(2)老齢基礎年金と老齢厚生年金はそれぞれ単独または両者とも繰り下げることができ、2022年4月からは、最長10年間、75歳まで繰り下げることができるようになる
(3)86.9歳より長く生きれば、75歳まで年金を繰り下げても得をすることになる
(4)65歳時点の日本人の平均余命は男性84.83歳、女性89.63歳なので、平均余命まで生きると仮定すると男性は損、女性は得ということになる
(5)しかし、自分自身の余命はわからないために、年金繰り下げのメリット計算はできない。年金はもらえるうちに、もらっておくのはある種の合理的な判断と考えられる
(提供:JPRIME)
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