2020年、「自助、共助、公助、そして絆」を掲げる菅新内閣がスタートしました。寄付はそのなかの共助にあたる尊い行為です。世界では富裕層ほど寄付活動に熱心といわれます。日本でも助け合いの輪が広がることが期待されますが、寄付は“節税効果”という実益も兼ねています。なぜ寄付をすると税金が安くなるのか。その仕組みや寄付の方法を紹介します。
目次
世界では富裕層ほど寄付に熱心
世界では富裕層ほどチャリティーや寄付活動に熱心という傾向があります。超セレブ級になると、バークシャー・ハサウェイCEOのウォーレン・バフェット氏や、ビル・ゲイツ/メリンダ・ゲイツ夫妻はこれまでに累計で数兆円規模の寄付を行っています。
また、著名な映画俳優や歌手などのセレブ芸能人もさまざまなチャリティー活動に熱心です。女優のアンジェリーナ・ジョリーは難民問題に強い関心を持っていることで知られ、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)特使としての顔も持っています。彼女は数十回にわたって人道支援の現場を赴いているだけでなく、総額500万ドル以上もの寄付を行っています。
また、地球環境保護に取り組むレオナルド・ディカプリオは2019年、自身のレオナルド・ディカプリオ財団を中心に環境保護団体「アース・アライアンス」を設立。同年には、同団体を通してアマゾンで森林火災に取り組む組織へ500万ドルを寄付しています。
世界のなかでも米国は寄付大国として知られています。日本経済新聞によれば、2018年の米国人の寄付総額は4,277億ドルという巨額に達しています。前年比+0.7%、4年連続の増加となったといい、日米での意識の違いがうかがえます。これも名だたる大実業家や超セレブが米国に多いという事情が影響しているものと思われます。
対して、日本における寄付の現状はどうなっているのでしょうか。日本ファンドレイジング協会の『寄付白書2017』によると、日本における2016年の個人寄付推計総額は7,756億円となっています。2016年度の日本の名目GDP(国内総生産)の0.14%にあたる数字です。推定寄付実施者数は4,571万人で、寄付金額の平均値は2万7,013円、中央値が4,000円という結果になっています。
米国に比べてまだ寄付金総額は大きな差が開いていますが、2011年の東日本大震災時には、孫正義氏(ソフトバンクグループ)が100億円、柳井正氏(ファーストリテイリング)、三木谷浩史氏(楽天)がそれぞれ10億円の寄付を即座に表明して社会から賞賛を浴びました。日本でもセレブ実業家たちが寄付においてリーダーシップを執ったことは心強いものがあります。
日本における寄付の税制優遇制度は?
次に日本における寄付による税制優遇制度の仕組みについて確認しておきましょう。寄付は善意で行うものですが、節税になればそれに越したことはありません。利用できる制度は利用したほうがよいでしょう。
確定申告する際は、所得からさまざまな控除を受けることができます。そのひとつに「寄附金控除」があります。寄附金控除は、納税者が国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対し、「特定寄附金」を支出した場合に所得控除を受けられる制度です。
特定寄附金の対象になる範囲は、国税庁ホームページに詳しく掲載されているので、確定申告書を作成する際は、自分が寄付した支出が対象になるか確認する必要があります。
寄附金控除額の計算式は、次のとおりです。
寄附金控除額=次のいずれかのうち低い金額-2,000円
(1)その年に支出した特定寄附金の額の合計額
(2)その年の総所得金額等の40%相当額
(1)または(2)から2,000円引いた金額が寄附金控除額となるので、実質、2,000円以上寄付すれば控除を受けられる仕組みになっています。1万円を寄付した場合は、2,000円を引いて8,000円を所得控除に加算することができます。
また、特定の条件を満たすと寄附金控除の代わりに「税額控除」を選択することもできます。こちらは課税所得計算後に差し引けるので、さらに減税効果が大きくなります。
気軽に寄付をはじめられる4つの寄付方法
寄付をはじめてみたいと思っても、どのように一歩目を踏み出せばよいのかわからない方も多いのではないでしょうか。
現在では、寄付する方法も多様化しているため、自分が寄付したい目的に合わせて寄付先を選ぶことができます。ここでは、気軽にはじめられる寄付の方法を紹介します。なお、どの寄付の方法でも寄附金控除を受けるには、2,000円以上の寄付が必要です。
気軽な寄付方法1:ふるさと納税
近年、寄付する方法として利用者が増えているのが「ふるさと納税」です。2020年8月に総務省が発表した資料によると、2020年における控除適用者数は400万人を超えています。
地元の自治体だけでなく、全国の自治体から寄付先を選ぶことができ、実質2,000円の負担で寄付金控除が受けられます。控除に加えて、その地方ならではの返礼品がもらえる点も人気です。ただし、年収・家族構成によって控除上限額が定められています。控除上限額を超えた額も寄付できますが、超えた分は自己負担となります。
気軽な寄付方法2:24時間テレビ 愛は地球を救う
日本テレビ系列が例年8月に放送している「24時間テレビ 愛は地球を救う」に参加して寄付する人も多いでしょう。イベント的な色彩が濃いため、参加意識が強くなるというメリットがあります。
近年、募金と寄付を混同する傾向がありますが、“募金する”とは「お金を募る」という意味ですので、本来は主催者側が使う言葉です。参加者からみれば、24時間テレビも募金ではなく寄付をしていることになります。
寄付金額が2,000円以上であれば税制上の優遇措置を受けられますが、確定申告の際は24時間テレビチャリティ委員会に「寄付金領収書」の発行を依頼する必要があります。公式サイトで詳細な手順が、寄付方法別に説明されているので確認するとよいでしょう。
気軽な寄付方法3:赤い羽根共同募金
地域の福祉施設などを支援する目的で行われている「赤い羽根共同募金」。昔は街頭募金が主流でしたが、現在はインターネット上で寄付できるようになっています。寄付の方法は「毎月」と「今回のみ」から選べます。共同募金会への寄付は「寄附金控除」と「税額控除」の希望するほうを選択できます。申し込み時に領収書の発行も依頼できるので便利です。同じサイトから「NHK歳末たすけあい」(受付期間内のみ)にも寄付できます。
気軽な寄付方法4:寄付型クラウドファンディング
近年広まってきた寄付の形で、さまざまな活動のために立ち上げられたプロジェクトに対して、賛同する人が支援する仕組みです。基本的に返礼品などはなく、お礼のメッセージや活動内容の報告があるくらいです。寄付先が公益的な団体であれば、寄附金控除の対象になります。活動内容に賛同できる団体に寄付するという精神的なメリットが大きい寄付の形といえます。プロジェクトによっては数百円から寄付が可能です。
「寄附金控除」と「税額控除」のモデルケース
ここまで解説してきたように、寄付先によっては寄附金控除と税額控除のいずれかを選択できる場合があります。いったい、どちらのほうが節税効果を得られるのでしょうか。具体的に所得税額を計算して、比較してみましょう。
【モデルケース】
共働きの妻、16歳の子どもが1人の3人家族で暮らす男性
年収:1,000万円
寄付金額:10万円
寄附金控除以外の所得控除額:281万円(給与所得控除195万円+基礎控除48万円+扶養控除38万円)
寄附金控除額:9万8,000円(10万円-2,000円)
▽所得税の計算例
(1)年収1,000万円 -(281万円+9万8,000円)=709万2,000円が課税所得となる。
(2)所得税は国税庁の速算表から税率23%、控除額63万6,000円で求められるため、709万2,000円×23%-63万6,000円=99万5,160円が所得税となる。
寄附金控除がなかった場合は課税所得が719万円となり、所得税は719万円×23%-63万6,000円=101万7,700円です。寄附金控除を活用した場合は、所得税額が2万2,540円低くなっていることがわかります。また、高収入者ほど所得税率が高く設定されているため、寄附金控除による減税効果を受けることができます。
同じモデルケースで、公益社団法人などに寄付をし「税額控除」を選択した場合は次のようになります。なお、寄付先が限定される点と、寄付先によって控除額の計算式が異なる点に注意が必要です。
▽税額控除の計算例(公益社団法人などに寄付を行った場合)
(1)(10万円-2,000円)×40%=3万9,200円が税額控除額となる。
(2)上記の例で、寄附金控除を選ばなかった場合の所得税は101万7,700円。そこから税額控除額が差し引かれるので、101万7,700円-3万9,200円=97万8,500円が実際の所得税額となる。
(3)寄附金控除の場合(99万5,160円)よりも、所得税を1万6,000円ほど低く抑えられる。
以上の比較から、よほど多額の寄付をしない限りは、一般的には税額控除を選択したほうが節税になると考えられます。
コロナ禍の今こそ助け合いの精神で
2020年から世界で大流行している新型コロナウイルスは、まだ収束の見通しがたっていません。さまざまな営業自粛要請やイベントの中止、収容人数の制限、海外出入国の禁止などで日本経済は低迷を余儀なくされました。コロナ禍による企業倒産や店の閉店が相次ぎ、仕事はあっても収入の減少した人は相当な数に上るでしょう。コロナ禍の今こそ助け合いの精神が大事になってきます。
2020年に発足した菅内閣が「自助、共助、公助、そして絆」を理想の社会像として掲げたことは話題になりました。「自助」としては2020年、収入源を補おうと副業を始める人が増加。また、政府も国民1人あたり一律10万円の定額給付金や各種の給付金・支援金を支給する、「公助」とも呼べる経済対策を実施しました。
それらに加え、もうひとつの柱として社会に根付くことが期待されるのが「共助」の精神です。富裕層をはじめ生活にゆとりのある人が寄付を通して困っている人を助けることができれば、ノブレス・オブリージュ(身分の高い者が果たすべき社会的責任と義務)の精神にも合致します。
共助の精神がとりわけ発揮されるのが大きな災害が起きたときです。先に紹介した『寄付白書2017』によると、東日本大震災が起きた2011年には、個人から実に1兆182億円もの寄付が寄せられたと推計されています。
これからも大きな災害や新たな感染症が起こる可能性は常にあります。日本にも寄付文化が根付き、共助の精神で助け合っていくことが望ましい社会といえるのではないでしょうか。(提供:JPRIME)
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