ESG投資とは環境、社会、ガバナンスといった要素から、企業の持続可能性や社会的意義を評価し、投資判断をする手法のことだ。近年話題になっているESG投資について、どのような銘柄がそれに値するのか、ESG投資の始め方などを紹介しよう。

1,ESG投資とは何か?評価基準や注目されている理由

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(画像=Elnur/stock.adobe.com)

ESG投資とは、投資を行う際に従来の財務情報だけの情報に頼るのではなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)といった要素も考慮して総合的に投資判断を行う手法を指す。それぞれの頭文字を取ってESG投資と呼ばれている。

ESG投資とは?従来の投資手法と何が違うのか?

従来の財務情報のみに頼った投資手法では、企業のサステナビリティ(持続可能性)や社会的意義を正しく判断できず、短期的な目線に立った投資となってしまう。ESG投資は、そうした反省に基づいて生まれた概念である。

投資評価にこれらの観点を加えることにより、環境規制によって企業活動が困難となるケースや不祥事によって株主が大きな不利益を被るといった事態を未然に防ぎ、長期的な投資リスクを下げられる点がESG投資の本質だ。

各観点で考慮する具体的な評価基準は以下の通りである。

評価基準 内容
環境(Environment) 地球温暖化防止対策として二酸化炭素排出量の
削減や再生可能エネルギーの活用といった
企業の取り組みなど
社会(Social) 社会に対する貢献として地域活動への
貢献や労働環境の改善、女性活躍の推進
といった取り組みなど
ガバナンス(Governance) 不祥事を防ぐための社外取締役の
登用や少数株主の保護に関する姿勢
(※筆者作成)

ESG投資が注目されている理由

ESG投資の概念が叫ばれるようになったのは、2006年に国連が投資にESGの視点を組み入れることなどからなる機関投資家の投資原則「責任投資原則」(PRI)を提唱したことがきっかけだ。PRIに賛同する機関投資家は署名を行い、順守状況を開示・報告することとなる。

その後2008年のリーマン・ショックを受け、短期的な利益を追求するような投資手法への批判が高まったことも重なり、PRIに署名する機関投資家の数は増加傾向にある。

2020年3月末時点で3,000を超える年金基金や運用会社の署名を集めており、そのうち年金基金などのアセットオーナーの署名は521を数える。署名を行ったアセットオーナーの運用資産残高は23.5兆ドル(約2,467億円)にも達している。われわれの年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も2015年にPRIに署名した。

このようにESG投資は機関投資家に広がっており、長期投資を行う上でESG投資という概念は押さえておく必要のあるキーワードとなりつつある。

2,ESG投資の3つのメリット

上記のような特徴、注目されている理由があるESG投資だがどのようなメリットがあるのだろうか。

メリット1,安定した運用を行うことができる

環境問題への国際的な関心が高まる中、二酸化炭素の排出量削減などの対策が企業にも求められるようになっている。こうした変化に対応できない企業は、環境問題に対応するための規制によって業績が極端に悪化する可能性がある。

粉飾決算などにより投資家の信頼を失い、株価が急落した事例は数多くある。ガバナンス強化に注力している企業では、こういった事例が発生する可能性が低いといえる。

上記の例からも、ESG投資を行うことは、企業の事業内容や姿勢に起因する問題による業績・株価急落を回避できる可能性が高まり、安定的な運用を行えるのだ。

メリット2,長期投資との相性が良い

ESG投資は、企業のサステナビリティ(持続可能性)を判断するという概念を持つため、長期投資とも相性が良い。

仮に現在好調な企業であったとしても、環境対策や社会への貢献に欠ける企業は、環境規制の影響を大きく受けたり、消費者離れが起きたりする可能性もある。特に近年は海外の機関投資家を中心に、ESG投資にそぐわない企業や業界から資金を引き上げる「ダイベストメント(投資撤退)」といった動きも顕著である。

ESG投資を行うことにより、企業のサステナビリティを投資判断に盛り込み、長期的に保有できる銘柄を選別することにつながるのだ。

メリット3,投資による社会貢献ができる

投資とは、投資先に資金を供給する行為である。ESG投資を行うことは、環境や社会貢献に配慮した企業へ資金供給し、そうした企業活動を支援することにつながる。

リーマン・ショックでは、機関投資家が社会的なゆがみを無視して利益を追求したため、経済の大きな停滞を招いた。多くの資金を投じる者は、その投資による社会への影響も考慮する必要があるという考えでESG投資は広まっている。

個人の投資家でもESG投資を行うことにより、環境や社会貢献に配慮した企業の活動を手助けすることが可能となる。

3,ESG投資銘柄の3つの選び方

こうしたメリットがあるESG投資だが、個人が始める場合、どのように投資銘柄を選べば良いのだろうか。

選び方1,自分で個別銘柄を選ぶ

ESG投資を始める方法の一つが自身で個別銘柄を分析し、ESG投資の観点から銘柄を選別する方法だ。この選び方の特徴を整理しよう。

メリット 低コストで実現可能
デメリット 情報収集に手間が掛かる
比較検討の難易度が高い
情報収集手段 企業のIR情報、サステナビリティレポート
代表的銘柄 ・東レ<3402>
・伊藤忠商事<8001>
・住友化学<4005>
(※筆者作成)

個別銘柄を自身で比較・選別するため、情報収集に手間が掛かる。また投資知識も必要となるが、個別銘柄へ直接投資を行うため、原則として最も低コストでのESG投資が可能だ。

個別銘柄をESG投資の観点から分析するためには、各企業の投資家向けホームページ(IR情報)が参考となる。

近年では持続可能な社会の実現に向けた企業活動の報告書であるサステナビリティレポートも、多くの企業で発行されている。個別銘柄を選ぶ際は必ず確認しておきたい。

ただし、ESGの観点は数値による評価が難しく、各企業が取り組みを積極的にPRしているため、ある程度の知識がなければ、比較検討点が難しいことに注意が必要だ。

選び方2,ESG銘柄を対象とした投資信託へ投資をする

気軽にESG投資を始めたいなら、ESG銘柄を投資対象とした投資信託へ投資をするのが良いだろう。

メリット 手間が掛からない
個別銘柄投資の参考にもなる
デメリット コストが高い
情報収集手段 販売会社ホームページ、目論見書・運用レポート
代表的銘柄 ・eMAXIS ジャパンESGセレクト・リーダーズインデックス
(三菱UFJ国際投信)
・グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド
(為替ヘッジなS)(アセットマネジメントOne)
・BIグローバルESGバランス・ファンド
(為替ヘッジなし)(SBIアセットマネジメント)
(※筆者作成)

現在のESG投資の広がりを受け、国内株式のみに投資を行うものから海外株式も対象としたものまで、ESG投資をテーマとした投資信託が数多く販売されている。

注意したいのは個別銘柄と異なり、投資信託には運用管理に関わる費用(信託報酬)が発生する点だ。特にアクティブファンドは、信託報酬が高くなる商品もある。

なお、ESG観点の投資信託の運用報告書や月次レポートを読んで、ファンドがどのような銘柄に投資をしているかを確認すれば、個別銘柄選定の参考にもなる。組み入れ上位の銘柄へ投資を行うこともESG投資の一つの方法だ。

選び方3,GPIFが採用するESG指数のETFで投資をする

ESG投資を始める3つ目の方法はETFの購入だ。GPIFはESG投資の観点に沿ったESG指数を選定しており、GPIFが採用するESG指数のETFを購入すれば、簡単にESG投資を行うことができる。

メリット 比較的低コストで手間も少ない
デメリット 個別銘柄選定と比較すると運用コストが掛かる
海外銘柄への投資はハードルが高い
情報収集手段 運用会社ホームページ、証券取引所ホームページ
(※筆者作成)

GPIFが採用するESG指数には次の5つがある。

指数 指数適用ETF 特徴
FTSE Blossom
Japan Index
・ダイワ上場投信-
FTSE Blossom
Japan Index<1654>
・One ETF ESG<1498>
英FTSE Russell社が算出。
環境(E)、社会(S)、
ガバナンス(G)について
優れた対応を実践している
日本企業が組み入れられた、
ESG投資の総合的な株価指数
MSCIジャパン
ESGセレクト・
リーダーズ指数
・ダイワ上場投信-
MSCIジャパンESGセレクト・
リーダーズ指数<1653>
米MSCI社が算出するESG指数。
環境(E)、社会(S)、
ガバナンス(G)の全てを
総合的に判断する指数。
S&P/JPX
カーボン・
エフィシェント
指数
・NZAM 上場投信
S&P/JPXカーボン・
エフィシェント指数<2567>
・MAXISカーボン・
エフィシェント
日本株上場投信<2560>
米S&P社と日本取引所グループが
共同で開発し、算出・公表。
ESG投資のうち環境(E)
の部分にピックアップ
S&Pグローバル大中型株
カーボン・エフィシェント
指数(除く日本)
米S&P社が算出。
環境(E)部分にピックアップした
指数であり、投資対象は日本を除く
先進国および新興国の大型・中型株式。
MSCI日本株
女性活躍指数(WIN)
ダイワ上場投信-
MSCI日本株女性活躍指数
(WIN)<1652>
米MSCI社が算出する女性雇用に関する
データで日本企業を選別した指数。
(※筆者作成)

ESG指数のETFへ投資を行うメリットは、投資信託と同様に個別銘柄の選別をETFの運用会社へお任せできる点だ。一般的にETFは、投資信託よりも信託報酬のコストが低い傾向があるといったメリットもある。

当然だが、個別銘柄投資と比較すると運用コストが余計に掛かるので注意したい。また、国内の証券取引所で購入できるESG指数のETFは国内銘柄が対象のETFのみである。海外銘柄も対象とする場合には、投資信託が手軽だろう。

4,ESG投資銘柄9選!どんな特徴があるのか?

具体的にどのような銘柄がESG投資では、投資対象として評価されるのであろうか。具体的な銘柄を個別株式、投資信託、ETFそれぞれ3本ずつ紹介しよう。

東レ<3402>

東レは、サステナビリティ(持続可能性)が21世紀における最重要の共通課題と捉え、その解決に貢献するための製品や技術の拡大を目指している。高品質な水処理膜や炭素繊維などの開発・提供を続け、ESG銘柄としての評価は高い。女性活用にも早くから取り組み、女性役職者数も年々増加している。

英FTSE Russell社が提供するESG投資の観点を重視した投資指標「FTSE4Good Index Series」にも採用されるなど、ESG銘柄として国際的な認知度もある。日本を代表するESG銘柄の一つだろう。

伊藤忠商事<8001>

伊藤忠商事は企業理念である「三方よし」にも表れているように、ESGの考え方を持った経営を続けている。社会的課題の解決に資するビジネスをCSR推進基本方針に掲げ、自然エネルギー分野などへの投資を行っている。また、グローバルな人材育成に注力する姿勢などもESG銘柄として評価されている。

東レと同様、英FTSE Russell社が提供するESG投資の観点を重視した投資指標「FTSE4Good Index Series」にも採用されており、こちらも代表的なESG銘柄といって良いだろう。

住友化学<4005>

住友化学は廃プラスチック削減などの環境対策へ積極的に取り組んでいる。社内にサステナビリティ推進委員会という組織を発足させるなど、具体的な数値目標を設定し、その評価を社内で行う体制を築いた。住友グループの祖業である別子銅山の銅精錬事業は、その副産物として発生する亜硫酸ガスによる煙害問題の解決が不可欠であったように、サステナビリティは住友グループのアイデンティティとして根付いている。

対外的な評価も高く、米MSCI社が算出するESG指数「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ」において、同社のESG格付けは最高評価である「AAA」だ。

eMAXIS ジャパンESGセレクト・リーダーズインデックス(三菱UFJ国際投信)

eMAXIS ジャパンESGセレクト・リーダーズインデックスは、国内銘柄の主要ESG指数である「「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ」をベンチマークとしたインデックスファンドである。

インデックスファンドであるため、信託報酬は年率0.44%(税込)と低コストであり、購入時手数料も掛からない。主要ネット証券などで購入が可能であり、積立投資などにもおすすめの投資信託だ。

ニッセイ日本株ESGフォーカスファンド(資産成長型) 愛称:未来の世界(ESG)(アセットマネジメントOne)

ニッセイ日本株ESGフォーカスファンド(資産成長型)は国内のみならず、新興国を含めた全世界のESG銘柄へ投資を行う投資信託だ。特筆すべきはその純資産総額であり、2020年7月に設定されたものの、わずか半年で8,000億円近くの資金を集めている。国内のESG関連投資信託では圧倒的な規模を誇る。

アクティブファンドであり、信託報酬が年率1.848%(税込)とやや高く、購入時手数料が掛かる場合もある点には注意が必要だ。購入はみずほ銀行、みずほ証券など一部の金融機関に限られる。しかし、海外を含めたESG関連銘柄をまとめて投資できる点は投資信託ならではの利点である。

SBIグローバルESGバランス・ファンド(為替ヘッジなし) 愛称:グリーンインパクト(SBIアセットマネジメント)

SBIグローバルESGバランス・ファンド(為替ヘッジなし)はESG銘柄へ投資を行うバランス・ファンドだ。基本投資比率は株式50%、債券50%であり、国内外の資産が対象となる。

債券投資においても発行体のESG評価を重視する投資信託であり、ESG投資という観点に基づくバランス投資が行える珍しい商品だ。アクティブファンドであるため、信託報酬は年率1.637%(税込)とやや割高である。

One ETF ESG<1498>

One ETF ESGは、英FTSE Russell社が算出する国内銘柄の主要ESG指数「FTSE Blossom Japan Index」をベンチマークとするETFである。

FTSE Blossom Japan Indexは環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)について評価を行うESG投資の総合的な株価指数であり、国内の主要なESG銘柄を網羅できるETFといえる。信託報酬も年率0.143%(税込)と低い点も魅力だ。

ダイワ上場投信-MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数<1653>

ダイワ上場投信-MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数は、米MSCI社が算出する国内銘柄の主要ESG指数「MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数」をベンチマークとするETFである。

MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数も環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を総合的に評価するESG指数だ。信託報酬も年率0.165%(税込)と低く、スタンダードなESG投資のETFである。

NZAM 上場投信 S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数<2567>

NZAM 上場投信 S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数は、米S&P社と日本取引所グループが共同で算出・公表するESG指数「S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数」をベンチマークとするETFである。

S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数は環境(E)にピックアップして評価するESG指数だ。信託報酬も年率0.132%(税込)と低い。このようにESG投資の中で特定の項目に絞って銘柄選別を行う方法もある。

5,ESG投資の2つのデメリット

注目度が高まるESG投資であるが、デメリットもしっかりと確認しておきたい。

デメリット1,短期的な利益は期待しづらい

ESG投資の根幹は環境、社会、そして企業の長期的な持続可能性を評価しようというものである。いくら短期的に利益を上げている企業であっても、環境悪化を気にしない生産活動や社会的に評価されない活動姿勢、不十分な企業統治体制などの問題があると、長期的にその企業が活動を続けるのは難しくなるといった考えである。

一方で、これまでの株式投資の基本的な考え方は利益を上げている企業へ投資を行うことだ。ESG投資の観点を投資評価に含めることによって、短期的に利益を上げている企業を投資対象から外してしまう可能性もある。

デメリット2,ESG投資の判断・評価は非常に難しい

ESG投資は現在では多くの機関投資家が採用しているとはいえ、近年生まれた新しい投資手法だ。そのため、ESG投資という観点で投資銘柄を判断することは非常に難しい。

従来の財務情報に頼った投資手法であれば、個人でも数字という分かりやすい物差しで比較を行うことができた。しかし、ESG投資は数値化しづらい企業の社会的なあり方や姿勢を考慮に入れる必要がある。機関投資家はそのような情報をスコア化してESG投資の銘柄判断につなげているが、個人で分析するとなると非常に手間の掛かる作業となる。

6,ESG投資と従来型投資のハイブリッドが理想

デメリットもあるが、ESG投資の考え方は多くの機関投資家に受け入れられており、今後もその傾向は続くだろう。ESG投資にそぐわない企業には、機関投資家からの資金が回ってこないことも今後ますます生じる可能性がある。

こうした流れから、今後は個人投資家もESG投資観点も踏まえて投資判断を行っていくのが望ましい。

ESG投資はあくまでも投資判断の一つの手法であり、従来の財務情報を重視した銘柄選択と組み合わせて総合的な判断を行うことが重要だ。ESG投資という長期視点に立った新しい投資手法と、財務情報を重視する従来型の投資手法のハイブリッドな投資を目指したい。

執筆・樋口壮一(金融ライター)
新卒で証券会社に入社後、10年間リテール営業、ホールセール営業を経験。現在は事業会社の営業企画部門に努める傍ら、個人として投資を行い、マーケットに携わる。

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