不動産投資の選択肢がどんどん拡がっている昨今ですが、そのなかのひとつに「サテライトオフィス」があります。サテライトオフィスを整備することによって企業は、多様な働き方へのニーズやコスト削減、リスク管理など多くのメリットが得られます。

サテライトオフィスの普及・拡大については国も地方創生の観点から積極的に支援をしており、税制面だけでなく誘致する支援制度を総務省が設けるなど、こうした動きが今後大きな潮流になる可能性があります。

そこで当記事では、今後さらに広がりを見せる可能性が高いサテライトオフィスについて、その概要と国の支援策、さらに不動産投資家としてサテライトオフィスとどのように向き合うべきかを解説していきます。

サテライトオフィスの概要

サテライトオフィスを政府も後押し!サテライトオフィス開業で活用できる導入支援とは
(画像=victor zastol'skiy/stock.adobe.com)

サテライトオフィスに関する明確な定義はありませんが、本社や支社とは別にある企業の業務拠点のことを指します。本社以外の業務拠点ということで、「支社との区別が難しい」との声もあります。

支社は企業にとっての顧客・市場が存在する場所に設けるものであり、サテライトオフィスは通勤時間の短縮や自然のなかで仕事ができる環境づくりなど、「人」の利便性や満足度の向上を目的として設けられるものです。そのためサテライトオフィスは数人程度の規模で設けられることが多く、小規模な不動産であっても活用しやすい側面があります。

働き方改革による影響や価値観の多様化もあり、サテライトオフィスだけでなくテレワークなど働く場所にこだわらない価値観が広がりを見せています。さらにコロナ禍の影響もあってテレワークが一気に拡大したため、人の密集や接触を避けるといった感染対策の意味でもサテライトオフィスへの注目度が高まりました。

国によるサテライトオフィスの支援策

働き方改革を推進してきた国としてもサテライトオフィスの普及を推進していきたいとの思惑があるので、コロナ禍による感染対策の意味もあって積極的に支援に乗り出しています。ここでは国によるサテライトオフィスへの支援策についてご紹介します。

税制面での支援

総務省は2021(令和3)年度の税制改正に向けて、「サテライトオフィス整備に係る軽減措置の創設」という要望を財務省に提出しています。サテライトオフィスの設置を促進するための要望であり、サテライトオフィスを設置した企業に対して法人税の軽減を求めるものです。

この要望の特徴として挙げられるのは、東京都特別区と大阪市を除外している点です。この点からも、サテライトオフィスが地方創生に資するものとしてあるべきで、大都市ではなく地方に分散して設けられる形を想定していることがわかります。

サテライトオフィスの誘致支援

地方自治体が地元経済の活性化を目的にサテライトオフィスを誘致する動きが拡がっている中で、総務省が後押しする形で「おためしサテライトオフィス」という支援制度が行われています。

「おためし」と名づけられているのは、都市部にある企業が地方にサテライトオフィスを設置する際のハードルを下げるためです。まずはお試しで、手軽に使用できる地方のサテライトオフィス向け拠点を使うことができるからです。お試しでサテライトオフィスを使った企業がそのサテライトオフィスを恒久的な拠点とする場合のさまざまな支援もセットになっているため、サテライトオフィスを推進したいという国の本気度が伝わってきます。

サテライトオフィスを導入する企業のメリットと課題

サテライトオフィスを設ける側の企業には、どのようなメリットが考えられるのでしょうか。併せて課題とされている点も列挙します。

サテライトオフィスを設置するメリット

以下の4つがサテライトオフィスを設置する企業側のメリットです。

  1. 物価の安い地方に拠点の一部を移すことで固定費を削減できる
  2. 働き方を多様化することで多様な人材、優秀な人材の確保につながる
  3. 社員の通勤時間短縮や満足度向上により生産性が向上する
  4. BCP対策の一環として拠点が集中するリスクを分散できる

4つ目のBCPとは、災害や感染症のパンデミックなどによって社員が出社できないような状況になっても業務を継続するための危機管理のことです。大都市圏の本社に機能を集中させずに地方に分散することによって、リスク回避が可能になります。

サテライトオフィスを設置する際の課題点

次に、企業がサテライトオフィスを設置するときに注意すべき課題についてです。

  1. 他拠点とのコミュニケーション不足が起きやすい
  2. 情報漏洩などセキュリティ上のリスクが高くなる
  3. サテライトオフィスという価値観の浸透に時間がかかる可能性がある

サテライトオフィスに関する課題を総合すると、いずれもまだまだサテライトオフィスという仕組み自体が広く浸透していないことによる「未熟さ」の問題に集約されます。こうした問題はサテライトオフィスが今後さらに普及していくにつれて解決していくことが期待されます。

不動産オーナーとしてサテライトオフィスとどう向き合うか

不動産オーナーにとってのサテライトオフィスとは、どのような存在になり得るのでしょうか。サテライトオフィスと名づけられているとはいえ、その用途はオフィスであり、これまでオフィス物件経営をしてきたオーナーにとってはそれほど特別なものではありません。既存のオフィス物件に「サテライトオフィスとして利用したい」というニーズが増える可能性があるので、特に地方に有効活用できていない物件を所有している人や、地方での不動産投資に関心を持っている人にとっては、有望なマーケットとなります。

さらに、サテライトオフィスが持つ新たな可能性についても考えてみましょう。サテライトオフィスは職住近接など社員の満足度向上を目的としている意味合いが強いので、これまでオフィス向きとされてきた物件とは違って住宅地に近い場所などが有利になる可能性があります。住宅地もしくはそれに近い場所にある物件でありながら住宅としては不人気な物件にとっては、サテライトオフィスが新たな顧客層となるかもしれません。

築古物件や居住に不向きな物件にもサテライトオフィスの「光」

日当たりがよくない、近所に学校や公園がないといったハンディはいずれも住居向けの物件にいえることであり、オフィス物件ではあまり考慮しなくてもよいことです。築古物件についても同様です。住むことが目的であれば築年数を気にする入居者が多くなるのは当然ですが、オフィスとして使用する物件であれば住むことが前提としていないため、むしろ築古であってもコストを重視する企業側の価値観で選ばれる物件になりやすいでしょう。

アパートやマンションの経営だけが不動産投資ではありません。サテライトオフィスやシェアオフィスなど、今後は働き方がどんどん多様化して新たな不動産需要が掘り起こされていくことでしょう。そんな時代に向けて、不動産オーナーやこれから不動産投資を始めようと検討している方は、これからの時代に何が必要とされるのか、何が選ばれるのかといった視点をしっかりと持っておきたいものです。

(提供:Spacible