要旨
●21日に2021年度の当初予算案が閣議決定。歳出総額は106.6兆円と20年度の102.7兆円から増加、過去最大を更新。新型コロナウイルス対策の予備費5.0兆円が計上されたことが要因だ。一方で、2019・20年度限定で計上された「臨時・特別の措置」が終了したことが▲1.8兆円の減額要因となり、増加幅が抑えられている。それ以外は基本的に例年通りの予算編成で、当初予算単体ではシンプルにまとまった印象。
●もっとも、補正予算を含めれば20年度の歳出規模は例のない大きさとなっており、前例のない規模の財政政策が足元で展開されている点は変わらない。
●社会保障関係費の増加は+0.1兆円と小幅。要因は3点で、ひとつは人口動態の押し上げ(いわゆる自然増)が和らいでいる点、第二に新型コロナウイルス感染拡大によって医療機関へ受診手控えが広がっている点、第三に薬価引き下げの影響だ。
●21年度の税収は20年度補正後見込みから+2.3兆円と緩やかな増加が見込まれている。新型コロナ収束にも時間がかかるとみられるほか、20年度業績悪化に伴う21年度賞与等の所得環境への影響、雇用調整助成金などの経済対策効果剥落や繰越欠損金制度の影響などで、しばらく税収は伸びづらい環境が続く公算が大きい。
●予算案の内容を踏まえ、経済対策のフレームを再整理した。政府資料では30.6兆円の国費が投入されると記載されているが、新規追加の純増分は22兆円強程度と試算される。公表値は既存計上分等も含む点に留意が必要。
21年度当初予算、予備費5.0兆円以外はシンプルにまとまった印象
政府は21日に2021年度の当初予算案を閣議決定した。15日に閣議決定された第三次補正予算案と合わせて、いわゆる“15か月予算(※1)”の体裁をとっている。来年度の当初予算については、シンプルにまとまった印象。新型コロナ対策予備費の5.0兆円が計上されている点以外は、大方例年通りの内容となっている。これは、先般閣議決定した経済対策関連の経費のほとんどが第3次補正予算に計上されているためだ。
予算全体のフレームを確認していくと、歳出総額は106.6兆円と2020年度の102.7兆円から増加。地方交付税交付金や国債費を除いた一般歳出が66.9兆円(2020年度:63.5兆円)に増加している。経済対策で決定したコロナ対策関連の予備費が21年度に5.0兆円計上されている点が歳出増加の最大の要因となっている。一方で、歳出総額の増加幅が+4.0兆円に抑えられているのは、「臨時・特別の措置」が終了したためだ(前年度対比▲1.8兆円の減額要因に)。「臨時・特別の措置」は2019・20年度で計上することとなった消費税率引き上げ対策のための歳出枠だ。2年間限定で計上する取り決めとなっており、これが予定通り終了した形である。
歳入側をみると、税収が57.4 兆円と20 年度当初予算から減少。ただし、これは2019年末に編成された当初見込み額との比較。20年度第3次補正予算でリバイズされた値(55.1兆円)からは+2.3兆円の増加となる。政府経済見通しの21年度予測をベースに、20年度から税収の増加が見込まれている。公債金(新規国債発行額)は43.6兆円で、税収減少と予備費増による歳出増で20年度当初予算から増加している。
財政の現況を見るにあたっては当初予算と補正予算を合わせてみる必要がある。2020年度の補正後予算額は175.7兆円、新規国債発行額は112.6兆円といずれも過去最大。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、前例のない大規模な財政政策が展開されている。
「臨時・特別の措置」を予定通り終了
分類別に歳出の動向を確認していく(20年度の値はいずれも筆者計算の「臨時・特別の措置」を含むベースの値)。社会保障関係費は前年度から0.1兆円の増加。20年度当初予算では+0.4兆円だったので、社会保障関係費の増加は抑えられている形。要因は大きく3点だ。第一に高齢化による増加幅(いわゆる自然増)が縮小している点である。これは、人口動態要因による押し上げ効果が和らいでいるためで、団塊世代の高齢化が一巡したことや総人口そのものが減っていること等が効いている2。第二に新型コロナウイルスの影響だ。足元で医療機関への受診を手控える動きが広がっており、2020年度の医療費が当初の見込みを下回る公算が大きくなっている。これを反映した2020年度の値を土台に2021年度の予算額が作成されているため、2020年度当初見込みからの増加幅は小さくなっている。第三に薬価引き下げの影響だ。これにより国費ベースで▲0.1兆円の減額要因となっている。
国債費は23.8兆円(20年度23.4兆円)から増加。予算編成の際の想定金利(10年債利回り)は1.1%とされ、2020年度予算と同水準だが、コロナ対策の補正予算を中心に債務残高が膨らんだことで、国債費が増加した形である。公共事業関係費は6.1兆円(20年度6.9兆円)で前年度から減少。これは「臨時・特別の措置」として計上されていた部分が剥落したことによるものである。また、主要経費を除いたその他の経費が20年度予算から▲0.7兆円減少。これもキャッシュレスポイント還元などの「臨時・特別の措置」が剥落したことによるものである。先に述べたように、新型コロナウイルス感染症対策予備費として、新規に5.0兆円が計上されていることが今回の予算の最大の特徴である。
税収回復には時間がかかる
2021年度の税収額は57.4兆円と20年度の補正後見込み55.1兆円から+2.3兆円と比較的緩やかな増加が見込まれている。2021年度の税収は20年度からのリバウンドで増加する公算が大きいが、その増加幅は緩やかであろう。新型コロナウイルスの収束そのものに時間がかかると見込まれるほか、今期業績の低迷は賞与をはじめ来年の所得環境にも響く。雇用調整助成金等の財政政策の終了が見込まれている点も、景気回復の頭を抑えることとなろう。また法人税では、繰越欠損金(今年度の赤字分を来年度以降に繰り延べして、来年度以降の法人税を減らすことのできる仕組み)制度の利用のために、企業業績の回復ほどに税収が伸びづらくなる。税収の回復にはしばらく時間がかかろう。
経済対策フレームの再整理
今回の当初予算を踏まえて、16日のレポートで示した政府の経済対策のフレーム(※3)を再整理したものが資料3である。
政府の経済対策資料によれば、経済対策に用いられる国費30.6兆円のうち、第3次補正予算部分が20.1兆円、20年度予備費の残額が5.0兆円程度、21年度予備費が5.0兆円となっている。足し合わせると30.1兆円で30.6兆円にやや届かない。筆者は、この部分が当初予算に載るものと16日レポートで想定していたが、ヒアリングによればこの差額は経済対策の閣議決定(12月9日)後の20年度のコロナ予備費消化分(※4)が対応しているとのこと。したがって、これは今回の経済対策で新規に追加された額ではない(第二次補正予算の予備費の消化にあたるため)。政府公表ベースの経済対策の規模は、すでに計上されている歳出分なども含まれており、経済対策策定に伴って新たに追加された「純増分」ではない点に留意が必要だ。(提供:第一生命経済研究所)
(※1) 年末にt年度の補正予算とt+1年度の当初予算を同時に決定する財政運営。近年は常態化。
(※2) この点は、EconomicTrends「2020年代の社会保障費急増は本当か?」(2018年4月)においてまとめている。
(※3) Economic Trends「2020年度第3次補正予算のポイント」(2020年12月)。資料2。
(※4) Go To トラベルなど
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 副主任エコノミスト 星野 卓也