要旨

●コロナ危機以降、妊娠届出数が前年を大きく下回っており、2021年の出生数は70万人台に突入する公算が大きくなっている。

●出生数の減少が一時的であれば、将来人口を見据えるうえでも深刻な問題にはならない。しかし、仮に2021年の落ち込みからリバウンドが生じない場合、2065年時点の人口は8353万人になると推計される。これは社人研の出生死亡中位仮定の推計値を454万人下回る値。日本の人口が1億人を割るタイミングは2053年(社人研)から2049年(筆者推計)に4年早まる。

●新型コロナウイルス自体はいずれ収束すると考えられる。しかし、収束後に出生数が元に戻るかどうかは不透明な部分が大きい。コロナ拡大を契機に普及したリモートワーク、オンライン授業などは収束後も残ると考えられるが、これらは人同士が直接交流する機会を減らす側面がある。交流機会の減少が婚姻減や出生減を招く形で出生数への影響が長期にわたるリスクがある。

感染症
(画像=PIXTA)

昨年を大きく下回る妊娠届出数

厚生労働省は24日に2020年10月までの妊娠届出数を公表した(資料1)。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、2020年の妊娠届け出数は減少している。特に緊急事態宣言下の2020年5月は前年比▲17.6%と2割近い減少となった。その後推移をみても、6月▲5.7%、7月▲10.9%、8月▲6.0%、9月▲1.0%、10月▲6.6%。緊急事態宣言解除後も前年割れの状態が続いている。 妊娠の届出はその多くが妊娠11週までに行われる(※1)。そのため、7~8か月後の出生数の目安となる。11月以降の届け出数に一定の仮定を置き、2020年と2021年の出生数を推計したものが資料2である。2019年の86.5万人から、2020年は84.8万人、2021年は77.6万人と80万人を割れる結果となった。国立社会保障人口問題研究所の公表する将来推計人口(出生・死亡中位仮定)では、日本人の出生数が77万人台になるのは2033年と想定されていた(77.6万人)。新型コロナウイルスの感染拡大によって、2021年の出生数は急減少することが予想される。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

影響長期化なら2065年人口は450万人下振れ

出生数の減少が一時的なものにとどまれば、将来人口への影響もさほど大きくはならない。しかし仮に、この下押し圧力が継続する場合、つまり2022年以降に出生数のリバウンドがなかった場合に、将来人口はどうなっていくのか。資料3はシミュレーションの結果である。

資料3のグラフの通り、総人口の値は社人研推計における出生中位の値から下振れし、バッドシナリオである出生低位の値に近くなっていることがわかる(いずれも死亡中位仮定)。2065年時点の人口のシミュレーション値は8,353万人で、出生死亡中位仮定の8,808万人を450万人程度下回る。また、日本の人口が1億人を割れるタイミングは2049年。社人研中位仮定の2053年から、4年早まるという結果となった。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

コロナが収束したときに出生数は元に戻るのだろうか?

先のシミュレーションの仮定は、コロナ禍に伴う押し下げが長期に亘って続くとするものであり、一見悲観的過ぎるように見えるかもしれない。新型コロナウイルス感染症自体は、いずれ収束すると考えられるためだ。しかし、新型コロナウイルスの感染そのものが収束したとしても、出生数がコロナ前の水準に戻れるかどうかに関しては不透明な部分が大きい。コロナ拡大を契機に普及したリモートワーク、オンライン授業などは収束後も残ると考えられるが、これらは人同士が直接交流する機会を減らす側面がある。交流機会の減少が婚姻減や出生減を招く形で出生数への影響が長期にわたるリスクがあるだろう。

2021年の出生数減はほぼ確実な情勢だが、その後の出生数をしっかりとコロナ前に戻し、筆者シミュレーションの実現を回避することが、将来の人口減を深刻化させないために極めて重要な課題となる。少子化対策の手を緩めてはいけない。(提供:第一生命経済研究所


(※1) 2018年度には93.3%の妊婦が妊娠11週までに届け出を行っている(厚生労働省)。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也