私たちの暮らしは、コロナ禍の中で変わりつつある。そのひとつの代表事例は、消費を対面で行わず、インターネット取引で行うことが増えたことだろう。意外なところでは、出前や公営ギャンブルの非常に高い伸びが発見できる。そこからは、将来的に様々な経済活動がネット・シフトしていくことを感じさせる。

ネットワーク
(画像=月刊暗号資産)

目次

  1. ネット消費の急拡大
  2. 出前サービスの急増
  3. 公営ギャンブルのネット・シフト
  4. ネット消費市場拡大は雇用増につながりにくい

ネット消費の急拡大

ここ数か月間の大きな変化として、デジタル化を挙げることができる。働き方のデジタル化として、テレワークは広く知られるところだろう。デジタル化は、民間ビジネスが加速度をもって進んでいる。菅政権も今になって「デジタル化」を看板に掲げる理由は、急伸する民間ビジネスのデジタル化に対して、役所のサービスのデジタル化が遅れていることに業を煮やしていることが背景にあるだろう。

まず、消費者は、4・5月の緊急事態宣言で外出自粛を余儀なくされた。そのため、何とか在宅でも消費を楽しみたいという新しい需要が高まった。これらが、巣籠もり消費と言われたのは周知の事実である。ゲーム機や、ベッド・布団、また楽器といった消費財が売れた。遊技、快眠、趣味にお金をかけるという消費者心理が強まった。

こうした変化をもっと違う角度からみると、家計は在宅でインターネット・サイトを見ながらネットショッピングをするスタイルがかなり浸透したとみられる。正確には、電子商取引(eコマース、EC)と呼ばれる市場の拡大である。この消費拡大の様子は、総務省「家計消費状況調査」からよくわかる。直近の2020年9月は前年比2.6%と大した伸びには見えないが、これは前年の消費税増税前の駆け込みの反動があるからだ。さらに、ネット取引であっても、宿泊・交通など旅行関連費、そして劇場・興行などのチケット代は、人と人との接触が敬遠されて劇的に減少している。それを除いたネット消費(主にモノの消費)は9月の前年比21.1%と大幅な増加になっている(図表1)。なお、宿泊などネット予約の旅行費とチケット代は、9月は前年比▲48.0%もの大幅減である。

第一生命経済研究所
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家計の消費支出は、モノとサービスに分けたとき、サービスは低迷しているが、モノの消費水準がコロナ以前に戻っている。従って、旅行・チケットを除いたネット消費額が9月21.1%も伸びている様子は、消費形態が実店舗からネット取引にシフトしている部分が予想外に大きいことを物語っている。

出前サービスの急増

さらに、ネットショッピングでどんな品目が増えたのかに注目してみたい。「家計消費状況調査」の内訳の21項目の中では「出前」が7~9月の3か月間では首位である(図表2)。これは外食産業がコロナ禍で店内飲食が制約されて、事業者が一気にテイクアウトを開始したこともある。そして、同時に宅配・デリバリーサービスの事業者の利用者が劇的に増えたこともある。こうした事業では、当初は外資系企業の請負配達人だけが目立っていたが、最近はこの市場に複数社が参入している。先の総務省の調査をみる限りは、デリバリーの市場規模は、前年比約2倍で急成長している計算になる。この統計では、10月のデータはまだ入っていないが、GoToイートが10月1日から開始されていて、飲食店などのネット予約がさらに増えそうだ。

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公営ギャンブルのネット・シフト

コロナ禍の下で最も大きく伸びた消費分野には意外なものがある。経済産業省の「第三次産業活動指数」という統計を使って、コロナ前(2020年1・2月)と最近(2020年7~9月)の伸び率の上位の項目を調べてみた。その結果、オートレース場、競艇場、競馬場といった公営ギャンブルが1~4割も伸びていた(図表3)。旅行・レジャーの消費が軒並みボロボロになっている中で、どうして公営ギャンブルだけが著しく伸びているのだろうか。

理由は、無観客での競技開催を強いられる中で、それぞれがケーブルTVなどの放送を見て、ネット投票するように変わったからだという。いわば利用者をネット取引へとうまく誘導できたからである。賭け事が好きな人が、緊急事態宣言で外出できなくなったので、ネット取引で券を買うようになった。また、外出自粛によって、パチンコに行っていた愛好者が公営ギャンブルにシフトしたこともある。特別定額給付金の総額12.7兆円(事業費を除く)の一部もここに流れた可能性も十分にある。

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ネット消費市場拡大は雇用増につながりにくい

インターネットで取引される消費は、以前から増えていたが、コロナ禍によってさらに拡大することになるだろう。経済産業省は、2019年の国内EC市場は、19.4兆円と試算していた。その規模は、コロナ禍によって、2020年は20.9兆円まで増えるだろう。これは、2020年1~9月のネット消費の増加率である前年比8.1%を乗じたものである。実額でみると、2020年は前年よりも+1.6兆円もネット消費市場が膨らむという計算になる。こうしたネット取引シフトは、コロナが終息しても継続していく流れだと予想される。

従来のインターネット消費市場の内訳は、経済産業省によると19.4兆円(2019年のEC市場規模)である。そのうち、物販10.1兆円、サービス7.2兆円、デジタル2.1兆円となっていた(図表4)。最後のデジタルとは、オンラインゲーム、電子出版、音楽・動画配信などである。現時点では、モノの取引が過半を占めているが、将来は旅行・宿泊予約などのサービス分野なども回復していき、そのシェアを拡大させるだろう。そのときには、従来以上に英会話や学習指導といった教育などサービス分野にもデジタル・シフトが広がっていきそうだ。 サービス分野でデジタル化が進むと、ネット事業者の収益は潤う反面、従来は対面で取引をしていた事業者は厳しくなるだろう。つまり、景気回復が進む中で、デジタル・シフトが進む分、雇用削減の動きも起こり、経済の雇用創出力は小さくなっていく可能性がある。こうしたネット事業の雇用下押し圧力の話題は、米国ではよく指摘されることだ。日本でも、そうした変化が予想外に大きくなると、それが社会的な摩擦として問題視されていきそうだ。(提供:第一生命経済研究所

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第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生