大きな災厄に見舞われた2020年ですが、年末にかけて世界の株価は好調でした。これを見て、運用を始めてみたいと考えた人は多いかもしれません。老後に対する不安の広がりも、多くの人が資産形成を考え始める後押しとなっていそうです。この記事では、個人投資家の初心者を対象に「もし1,000万円の資金が手元にあったら何に投資するのがよいのか…」という具体的なケースを想定して、解説してみたいと思います。
目次
まずは、どんな投資対象があるのかを知ること
具体的な運用を考える前に、まず投資対象としてどのような選択肢があるかを理解しておくことが大切です。
基本的な投資対象としては、株式や不動産、そして預金や債券などといった金利商品があります。混同しやすいのが「投資信託」。投資信託は投資対象というよりは、投資のための手段として作られた商品です。投資信託自身もその仕組みの中で、それぞれに株式や金利商品、あるいは複数のものを組み合わせて運用しています。
ほかにも、FX(外国為替証拠金取引)などを投資対象と見る考えもあります。ただ、FXは外貨の短期的な上げ下げに賭けるものであり、投資というよりは、若干投機に近い商品ともいえます。ここでは、虎の子の1,000万円を大事に育てることを目的に、中長期的な視点から、基本の投資対象を中心に考えてみたいと思います。
投資対象ごとの特徴
では、ひとまず考えうる投資対象を「株式」「不動産」「金利商品(預金や債権)」とした場合、それぞれの特徴はどのようなものなのでしょうか。
▽投資対象のメリットとデメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
株式 | ・業績次第で大きなリターンが見込める ・一般的にインフレに強いとされる ・流動性が比較的高い | ・業績次第で大きな損失を受ける |
不動産 | ・インフレに強いとされる ・収益が比較的見込みやすい | ・流動性が低い ・多額の資金が必要になることが多い |
預金、債券などの金利商品※ | ・元本が確保されている ・流動性が比較的高い | ・インフレに弱い ・(現状)金利が低い |
*ここでは、仕組債などでない、最も一般的なタイプである固定利付債を想定しています。
上記はどれも、特徴を一般化している点に留意してください。どの種類においてもさまざまな個別銘柄があり、その銘柄ごとに特徴が異なります。たとえば、表中では流動性が低いとした不動産ですが、投資信託の一種にREIT(リート、不動産投資信託)というものがあります。不動産を投資対象として、そこからの収益を投資家に分配する金融商品です。このREITを活用して間接的に不動産に投資をするなら、流動性はむしろ高い投資方法となります。
また、それぞれに海外の銘柄もあります。外国株式や海外不動産、外債などに投資をするなら、その国の外貨のリスクも加味する必要があります。
投資の定石「分散投資」と「長期運用」とは?
運用においてはリターンばかりに目が行きがちですが、リスクにも同じだけの注意を注がなければいけません。もし損失が出た際には、いかにリスクを限定的にとどめるかが重要です。そこで考えるべきは、「分散投資」と「長期運用」です。
なぜ“定石”とされるのか?
どんなに上手くいきそうに思えても、投資に「絶対」はありません。ひとつの投資対象に集中して投資していれば、見込み違いだったときのダメージは相当なものになります。将来のリターンが有望で、かつなるべく値動きの異なるいくつかの商品に、分散して投資をするのが王道とされます。
また、運用している間には運用成績が悪化する局面が出てくることも当然予想されます。もし運用期間に制約があれば、その悪化したところで現金化せざるを得ずに損失を出してしまうこともあります。
つまり、損失を避けるためには、なるべく運用期間を長期に想定しておくことが有効となるのです。また長期の運用であれば、時間をかけて少しずつ投資対象を買い増していく方法を採ることもできます。投資のタイミングも「分散」するのです。
資金10万円の投資と、資金1,000万円の投資では何が違う?
投資金額が10万円の時より、1,000万円の方が、たしかに投資対象の幅は広がると考えられます。少額の資金では、現物の不動産や人気銘柄の株に投資するのは難しい場合も多いでしょう。
しかし10万円でも1000万円であっても、それがギャンブルに投じていいようなお金でないなら、投資の定石は同じです。分散投資と長期運用を念頭に置きつつ、一方で1,000万円だからできるような広範な商品を対象とし、投資戦略を組み立てていくのがよいでしょう。
投資商品の組み合わせ“ポートフォリオ”を考える
いくつかの投資商品の組み合わせることを、“ポートフォリオを組む”といいます。ポートフォリオをくむ上では異なる値動きをする商品を組み合わせることが重要であり、投資のプロ=機関投資家などもそのような運用を基本としています。運用の成否は、ポートフォリオの組み方にかかっているといっても良いほどです。
しかし一方で、ポートフォリオの正解は人によって異なります。それは、各自のリスク選好度や想定する運用期間、あるいは投資にかけられる労力などによって、最適なポートフォリオが変わってくるからです。
リスク選好度
リスク選好度が高いということは、“損するリスクが多少高くても高い利回りのものを好む”という投資における志向性を指します。これは私たち自身の性格によるところもありますが、余裕資金がほかにどれくらいあるかによっても変わってくる部分です。リスク選好度が高くない人には、ハイリスク・ハイリターンとされる新興国の株式などは余り向いていないといえます。
運用期間、投資に割ける労力
当然ながら、5年程度のスパンで投資したいと想定している人が、10年満期の債券を買うことは適当であるとはいえません。それは、投資に割ける時間や労力の問題についても、同じことがいえます。
時間的な余裕のない人が、小型の個別株などを中心にポートフォリオを組むのは難しいと思います。情報を収集・分析する時間が余り取れない人は、プロが運用し、銘柄を適宜適切に入れ替えてくれる投資信託などを活用する方がよいでしょう。
一方で、今後の経済や金融市場について考えがあり、時間的な余裕のある人なら、それも反映したポートフォリオにしたいはずです。
ただ、最適なポートフォリオは人によって違うといってしまうと、スタートから途方に暮れてしまう人も多いかもしれません。そこで、まずはGPIFのポートフォリオを出発点として、自分に合ったものを考えてみるのがよいかもしれません。
世界際大規模の投資家、GPIFのポートフォリオの例
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)とは、私たちの公的年金制度の資産を管理し、運用している日本の団体です。運用資産は約170兆円にのぼるといわれ、世界最大の機関投資家でもあります。
運用原資が年金積立金であるだけに、GPIFにはなるべく安全な運用が求められる一方、年金財政の観点からは一定のリターンも求められています。そんなGPIFは、2020年4月1日からの5ヵ年の中期目標計画の中で、長期的な実質運用利回り(運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)を1.7%と設定しています。そして、この目標の下で最もリスクを抑えたポートフォリオとして、以下のような資産構成の基準を設定しています(基準から一定幅の乖離は認められています)。
▽GPIFの資産構成割合
国内債券 | 外国債券 | 国内株式 | 外国株式 | |
---|---|---|---|---|
資産構成割合 | 25% | 25% | 25% | 25% |
ただ個人投資家が、誰でもこのポートフォリオをそのまま真似していいとはいいません。この構成では、外国株式と外国債券で全体の半分を占めることになり、一般的な個人には為替リスクが大き過ぎるきらいがあります。
また、一般的な国内債券の利回りは現状非常に低く、効率的な運用対象とは言えないかもしれません。このため、このポートフォリオをそのまま踏襲するのではなく、これを足掛かりに、自分なりのポートフォリオへ調整していくことをおすすめします。
たとえば今後のインフレ懸念を持っている筆者の場合
参考までに、筆者が2020年12月執筆時点でポートフォリオを組むなら、以下のようなものにすると考えます。ここで運用するのは余裕資金であり、生活費の3~6ヵ月程度は別に確保してあることとします。
▽個人投資家として検討したい筆者のポートフォリオ例
先進国株式 | 国内株式 | 国内REIT | 海外REIT | 新興国株式 | 新興国債権 | |
---|---|---|---|---|---|---|
資産構成割合 | 30% | 30% | 20% | 10% | 5% | 5% |
私は最近の各国の金融政策を見て、将来的にインフレが起こるのではないかとの危惧を持っています。このため、現在は金利が非常に低くて魅力に乏しく、インフレにも弱い、先進国の債券は組み込みません。一方、新興国の債券を多少入れておくことにします。
私のポートフォリオでは海外資産の割合が50%とGPIF並みに高めとなっていますが、いざという時の最低限の生活費は確保してあることと、今後の収入は引き続き円で入ってくることを考慮して、私にとっては許容できるものと考えました。元本確保型の商品の比率が非常に低いという点も、同様の理由からそのリスクを受け入れています。ただ、リスク選好度がかなり高いポートフォリオとなっていることは否定しません。
また、今回は基本的な投資対象で考えるとしたため組み入れていませんが、金などのコモディティと呼ばれる金融商品にも少しは投資するのもよいと考えています。ただし、価格に需給要因以外の裏付けが乏しい商品については、全体の5%程度までにしておくべきであるという意見です。
さらに付け加えると、幅広い金融商品が現在かなり割高な水準となっていると感じています。このため、これらの投資は一度に行うのではなく、時間をかけて少しずつ購入していきたい考えです。
また、経済状況や相場環境によって、ポートフォリオの調整は適宜行っていくことは前提として考えています。ポートフォリオの調整が図りやすいよう、流動性が確保できる投資信託を主に活用していくことになるはずです。
運用金額の多寡にかかわらず定石どおりの運用を
以上の内容をまとめると、運用金額の多寡にかかわらず、それが大事な資金なのであれば、投資の定石である「分散投資」や「長期運用」を念頭に置いた運用を行うべきだということです。
その基本を前提として、自分の運用スタイルや考え方に合わせたポートフォリオを組んで運用するのがよいでしょう。「1,000万円の資金があるのなら、これを買っておけば間違いない」という絶対的な商品はないのが現実なら、定石を踏んでおくのがやはり賢明だと思います。(提供:JPRIME)
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