一定以上の資産家に提出が求められる「財産債務調書」。財産と債務を記載し、毎年3月15日までに税務署に提出しなければなりません。一般には馴染みの薄いこの制度、いったいどれくらいの財産がある人が対象になるのでしょうか。今年度初めて対象となった方や今後対象となる可能性のある方のために、制度の概要や対象になる財産を紹介し、書き方もあわせて解説します。

目次

  1. 「財産債務調書制度」とは何か?
    1. 成り立ちと制度改正の経緯
  2. 提出が必要になるのはどんな人?
    1. 提出が必要な対象者
    2. 提出を忘れるとどうなる?
  3. 財産債務調書に記載する財産の区分
  4. 財産債務調書の書き方と注意点
    1. その他の動産・財産について
  5. 早めの準備で提出を忘れずに!

「財産債務調書制度」とは何か?

富裕層,財産債務調書
(画像=makibestphoto/stock.adobe.com)

「財産債務調書制度」とは、一定以上の所得や財産を保有する富裕層に対し、財産や債務の明細を記入した調書の提出を求める制度です。提出期限は確定申告と同じく3月15日(日曜・祝日にあたる場合は次の平日)なので、わかりやすいでしょう。

成り立ちと制度改正の経緯

財産債務調書制度は2016年1月から施行されていますが、それ以前にも所得税・相続税の適正化という目的の下、富裕層に「財産及び債務の明細書」の提出を求める制度が存在していました。ただ、旧制度は提出漏れに対するペナルティなどは特になかったため、実効性の乏しいという意見もありました。

そこで2015年の税制改正で制定されたのが、財産債務調書制度です。旧制度より記載内容を具体的にし、ペナルティも定めています。

提出が必要になるのはどんな人?

提出が必要になるのは富裕層ともいえる一定の所得者ですが、具体的にはどのような人が対象になるのでしょうか。

提出が必要な対象者

財産債務調書の提出が必要になるのは、次の3つの条件をすべて満たす人です。

  • 確定申告の義務がある
  • その年分の退職所得を除く各種所得の合計額が2,000万円を超える
  • その年の12月31日時点で価額合計が3億円以上の財産、または価額合計が1億円以上の国外転出特例対象財産(有価証券など)を有している

【参考】国税庁「『財産債務調書』のあらまし」

さらに、国外に5,000万円を超える財産を保有している場合は、「財産債務調書」と「国外財産調書」の両方を提出する必要があります。両方の調書の提出はセットと考えたほうがよいでしょう。

提出を忘れるとどうなる?

確定申告では所得税の申告漏れなどがあった場合、「過少申告加算税」が課されることがあります。財産債務調書は提出が遅れてしまうと、この過少申告加算税があった場合に加重措置を受けてしまいます。反対に、期限内に提出した場合には、過少申告加算税が軽減される特例措置を受けることができます。

・加重措置
財産債務調書を期限内に提出しなかった場合、財産債務調書に記載すべき財産または債務に関して所得税の申告漏れが生じたときに、過少申告加算税などに5%が加算されます。

・軽減措置
財産債務調書を期限内に提出すると、記載された財産または債務に関して、所得税や相続税の申告漏れがあっても、過少申告加算税または無申告加算税が5%軽減されます。

国外財産調書にもこのような過少申告加算税にかかわる特例措置があります。ですが、国外財産調書では正当な理由がなく提出しなかった場合や偽りの記載をした場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課される可能性があるので十分な注意が必要です。

【参考】国税庁「財産債務調書の提出義務」、国税庁「国外財産調書の提出義務」

財産債務調書に記載する財産の区分

財産債務調書に記載する項目は、財産の種類、数量、価額、債務がある場合はその金額などです。価額の基準は12月31日時点における時価、または時価に準ずる価額(見積価額)とされています。まず、財産の区分については以下のとおりです。

▽財産債務調査書における財産の区分

  • 土地
  • 建物
  • 山林
  • 預貯金
  • 有価証券 ※金融商品取引所等に上場等されている有価証券以外の有価証券
  • 匿名組合契約の出資の持分
  • 未決済信用取引等に係る権利
  • 未決済デリバティブ取引に係る権利
  • 貸付金
  • 未収入金 ※受取手形を含む
  • 書画骨とう及び美術工芸品
  • 貴金属類
  • その他の動産 ※現金、書画骨とう、美術工芸品、貴金属類を除く

それぞれの価額の評価方法はやや複雑です。下記の参考リンクで、国税庁が財産区分ごとの評価方法をまとめているのでそちらを参照するとよいでしょう。

【参考】国税庁「財産債務調書の提出制度(FAQ)」
※22ページ〜(2020年12月24日閲覧)

財産債務調書の書き方と注意点

では、財産債務調書の書き方を確認しましょう。財産債務調書の書式は下のとおりです。書式に沿って確認します。

▽財産債務調書の書式

富裕層にのみ課される「財産債務調書」。書き方を確認して、提出を忘れずに

▽各項目の記入の仕方

項目記入の仕方
財産債務の区分土地、建物、有価証券などの財産区分を記入します。
種類預貯金なら普通預金、定期預金といった種類を、有価証券なら「上場株式(○○社)」など銘柄まで記入します。
用途一般用と事業用の区別を記入しますが、兼用の場合は「一般用、事業用」と記入します。
所在現金・土地・建物・貴金属など、その所在地を記します。株式なら預けている証券会社の名称・支店名・所在地を記入します。
数量土地・建物なら数量と何㎡の広さかを記入します。株式は株数、組合出資などなら口数、貴金属は個数など、それぞれの単位を記入します。現金・生命保険など数量を記入しなくてよいものもあります。
財産の価額又は債務の金額上段・下段にわかれて記入箇所があります。上段は有価証券などの場合に取得額を記入し、下段にはその財産または債務の価額を記入します。
国外財産調書に記載した国外財産の価額の合計額国外財産調書を提出する場合、その金額を記入します。
財産の価額の合計額/債務の金額の合計額財産と債務に分けて合計額を記入します。2枚以上の調書を作成・提出する場合でも、合計額は1枚目の調書に記入しなければいけないので注意が必要です。

その他の動産・財産について

先述の財産区分のうち、土地-貴金属にあてはまらない財産または債務は「その他の動産」「その他の財産」「その他の債務」として記入する必要があります。見落としやすい部分なので、記入漏れがないように注意しましょう。

▽その他の動産・財産・債務

項目記入の仕方
その他の動産現金・書画骨とう・美術工芸品・貴金属類を除く家庭用動産(家具、什器備品や自動車など)、棚卸資産、減価償却資産を指します。
家庭用動産はひとまとめにできますが、財産区分として設けられている貴金属などを含めることは原則できません。
その他の財産どの種類にも当てはまらない財産(委託証拠金、信託受益権、仮想通貨など)を指します。
その他の債務借入金、未払金に当てはまらない債務(前受金、預り金、保証金、敷金など)のことを指します。

はじめて提出する場合は、判断に迷う部分もあるかもしれません。国税庁が記入例を紹介されているので、確認しながら作成するとよいでしょう。

【参考】国税庁「『財産債務調書』の記載例」

早めの準備で提出を忘れずに!

ここまでみてきた財産債務調書制度の仕組みを考慮すると、12月31日時点の財産と債務が確定したら、先に財産債務調書・国外財産調書を提出しておいたほうが安心でしょう。万一、確定申告と同時に提出しようと考えて、3月15日の提出期限を過ぎた場合に、ペナルティを受けてしまうからです。早めの準備で提出を忘れないことが大事です。

富裕層に大きな関わりのある財産債務調書は、提出の必要があるだけでなく、自分の財産と債務を確認するよい機会にもなります。年に一度、自身のバランスシートを作成するつもりで臨めば、有意義な作業になるのではないでしょうか。(提供:JPRIME

執筆:丸山優太郎
東京都生まれ。日本大学法学部新聞学科卒業の金融・経済・不動産ライター。おもに金融・不動産メディアで執筆し、市場分析や経済情勢に合わせたトレンド記事を発信している。


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