12月の日銀短観は、大企業・製造業が前回比+20ポイントと大幅に改善することを予想する。注目点としては、需給変化、雇用の余剰感、収益計画の変化である。DI 改善が他の項目と連動するかどうかを確認したい。日銀は、業況改善を歓迎するだろうが、企業収益が円高によって下振れするリスクに対しては強く警戒するだろう。

対話
(画像=PIXTA)

目次

  1. 大企業の改善見通し
  2. 3つの注目点
  3. 設備投資計画は下方修正
  4. 金融政策へのインプリケーション

大企業の改善見通し

12月14日に発表予定の日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIが12月▲7と前回▲27から+20ポイントの大幅な改善となる予想である(図表1、2、3)。依然としてコロナ禍が続くものの、貿易取引は順調に回復して、製造業の収益環境が改善することを受けている。法人企業統計でも、製造業の経常利益は、7~9月は前期比+43.6%と大きくリバウンドした。前回9月調査のときは、緊急事態宣言直後の6月に比べて、+7ポイントの改善だったから、今回9月から12月の回復が大きいことがわかるだろう。先行きは、まだ不透明感が強いので、▲7(今回の▲9からは悪化)と改善を見込んでいない。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所
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業種別には、業況DI改善を引っ張るのは自動車・電気機械であろう。それらの業種には、輸出増の恩恵が表れるからだ。逆に、非製造業では、コロナの悪影響を引きずり、12月▲5と前回比+7ポイントの改善に止まるだろう。やはり、宿泊・飲食サービスや生活サービスは、消費者が人と人との接触にまだ慎重であるから、需要回復も遅れることになる。一方、中小企業はさらに前回比の改善幅は限定されることになるだろう。目下のコロナ感染の第三波の悪影響が、非製造業や中小企業の改善に格差を生じさせるとみられる。

3つの注目点

今回の注目点は、①需給DIの改善、②雇用DIにみられる余剰感、③2020年度の経常利益見込み、になる。まず、需給DIは、業況DIほどは改善せず、マインド先行の様相になるだろう。単にマインドだけではなく、需給変化などの実体改善が追い付いているかどうかを確認しておきたい。需給が悪化したままではそれが物価下落圧力になるので、注意しておきたい。

雇用DIは、コロナ禍の後遺症として失業圧力が残存するかどうかを占う指標になる。おそらく、サービスなど非製造業の悪化は根強く残っているだろう。

経常利益は、やはりマインド先行かどうかを確認する点で重要だ。法人企業統計では、大企業は意外なほど損益分岐点売上高比率が上昇していなかった。売上回復が、利益積み増しに大きく寄与することが期待される。過去、6月・9月の年度計画の修正状況と比較しておきたい。

設備投資計画は下方修正

マクロの設備投資は、弱さが目立つ。12月の短観でもそうした変化がみられるだろう。もともと12月調査の設備投資計画はそれほど大きく変化しないパターンである。それでも、大企業・製造業以外はマイナスの年度計画になることだろう(図表4)。

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金融政策へのインプリケーション

業況判断DIの改善は、歓迎されることであるが、追加緩和の予想も遠のくことになる。政府は、コロナ感染で第三次補正予算をまとめている。日銀はその動きには同調しないだろう。ひとつ気懸かりなのは、円高リスクである。目下、じりじりと円高が進んでいて、もしも100円を割り込むような円高になれば企業の業績予想も下振れすることになる。黒田総裁も、円高リスクに対してとりわけ警戒感を強く持つだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生