政府は、1都3県に対して、緊急事態宣言を再発令した。期間は1月8日から2月7日であるが、ステージ4を抜け出すことは難しく、その期間は延びる可能性は高いとみる。それに伴う経済損失は、制限が前回よりも狭くなっていることもあり、▲2.1兆円となる計算だ(1月4日の拙稿の▲2.8兆円から改訂)。前回は▲9.9兆円にまで膨らんだが、今回はその2割程度に抑え込まれると予想する。

緊急事態宣言
(画像=PIXTA)

目次

  1. 緊急事態宣言の内容
  2. 前回のダメージの確認
  3. 追加経済対策はあるか

緊急事態宣言の内容

政府は、1月7日に緊急事態宣言の再発令を決めて、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県の1都3県に対して、1月8日から2月7日の期間で実施する。今回は、「人と人との接触を極力8割まで減らす」方針は課さず、なるべく経済活動に配慮することに注意を払っている印象が強い。この政府の姿勢には筆者は賛成する。

具体的にみると、次の4つがポイントになる。

(1) 酒類を提供する飲食店は、営業時間をPM8時までにする。この要請に従って飲食店には1日当たり6万円を支給する。

(2)イベントの人数制限は、5,000 人あるいは定員の50%を上限にする。

(3)企業の勤務態勢は、極力テレワークに切り替えて、出勤率を7割に削減する。

(4)この宣言解除の基準は、ステージ4がステージ3に下がること。

概観すると、前回4・5月よりも縛りはきつくない印象だが、経済的打撃はそれなり大きいと予想される。特に、外食・観光・交通の3つは引き続き大きな打撃が及び続けることは注意が必要だ。

観光庁などの資料を使うと、これらの産業だけで約33兆円の市場規模がある。内訳は、やはり自飲食店などは大きい(図表1)。これらの産業は、2020年3月くらいから現在に至るまでにすでに業績悪化が進んでおり、今回の緊急事態宣言の再発令で追加的打撃を受ければ、事業者の中から耐え切れずに経営破綻する者が続出するだろう。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

また、筆者は、緊急事態宣言が約1か月 で終了するのは困難だとみている。要件の中には、医療体制の逼迫が含まれていて、その数値が医療のキャパシティの拡大によって下がることは望みにくいとみる。前回も当初は1か月間で始まったが、結局は49日間まで延長された。今回も50日間前後まで延びる可能性は十分にあるだろう。

前回のダメージの確認

多くのエコノミストなどが今回の経済損失について試算しているが、留意したいのは前回の打撃との比較である。前回2020年4~6月は実質GDPの前期比は年率▲29.2%も落ちた。ただし、これは年率換算して大きくなった数字である。そこで、筆者は実質GDPの前年同期比を使って計算してみる。2020年4~6月は前年比▲10.3%、実額で▲14.0兆円も落ちた。その内訳を確認すると、民間部門の内需が▲9.9兆円(うち民間最終消費が▲8.3兆円)で、外需が▲4.7兆円だった(図表2)。公需は+0.6兆円のプラスである。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

海外でのコロナ感染が厳しく、落ち込みの1/3は海外要因だったことがわかる。今回は、中国経済が回復を遂げていて、アジア・欧米でも自動車・電気機械の需要が復調しつつある。製造業は、2021年1~3月にはそれほど経済成長の足を引っ張らないと予想される。

そして、注意したいのは、緊急事態宣言の範囲である。前回は49日間だったが、その中で適用範囲は変化している。4月7日から東京など7地域で適用し、4月16日から全国47都道府県に適用を広げた。そこで、適用地域の県別GDPで全国に対する適用範囲を加重平均してみると、78.1%になった。今回の緊急事態宣言は、1都3県の実質GDPでみて、全国の33.6%の範囲に適用される。前回の範囲は、経済ウエイトで全国の78.1%に49日間ほど適用されたことになる。つまり、前回78.1%の範囲に適用されて、2020年4~6月は民間内需▲9.9兆円の損失が生じたということである。今回33.6%の経済ウエイトのエリアで同様の打撃が起こるとすると、▲4.3兆円(=▲9.9兆円÷78.1%×33.6%)になる。1都3県では▲4.3兆円の経済損失になるという計算だ。

しかし、今回、経済損失の範囲は狭くなるだろう。消費支出のうち、選択的支出とされる品目、例えば外食、交通、被服及び履き物、教養娯楽サービスなどを中心には落ちるだろうが、経済活動を止めようとする範囲を絞っているので、インパクトはその分小さくなるだろう。筆者は、総務省「家計調査」の支出弾性値を使い、選択的支出に限って大きく落ちるという前提で計算すると、1都3県では▲2.1兆円という計算になった(1月4日時点の拙稿では▲2.8兆円と試算したが、もう少しインパクトは小さくなる)。前回の▲9.9兆円と比べれば、今回は約2割のインパクトに止まる計算だ。なお、緊急事態宣言の期間は、政府の想定よりは延びて、50日(前回49日並み)になると想定している。

追加経済対策はあるか

2020年度は累計で112兆円もの財政出動を行った。これは、緊急事態宣言などコロナ危機を封じるために経済対策を打ったからだ。今回、経済損失が膨らめば、同様に巨大な追加経済対策が打ち出されるだろう。現時点では、その規模はそれほどまで膨らまないとみるが、今後、想定外のことが起これば別である。例えば、企業活動を停止させるような人の移動への制限や、緊急事態宣言の適用範囲の拡大である。それは感染対策を徹底させたいという意図の下に行われるのだろうが、その代償は民間部門の打撃に止まらず、出血を抑えるための財政出動の拡大にもつながっていく。感染防止をなるべく経済を制限しないで徹底させることを考えたい。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生