要旨
● 政府は大阪、京都、兵庫の関西三府県から緊急事態宣言発令の要請を受けた。仮に、関西三府県に対し、一都三県から一週間遅れで飲食店中心の緊急事態宣言が2月7日まで発出され、その間、発出地域の外食が1/3、それ以外の不要不急消費が半減すると仮定すると、2020年7-9月期の家計消費を基準とすれば、▲2.2兆円程度の家計消費減を通じてGDPベースで▲1.9兆円(年間GDP比▲0.4%)の損失となる。そして何も対応が無ければ、半年後に+9.9万人程度の失業者が発生する計算になる。
● GoToトラベルを緊急事態宣言解除まで停止する影響も加味すれば、▲2.4兆円程度の家計消費が減ることを通じて、GDPベースで▲2.1兆円(年間GDP比▲0.4%)の損失に拡大し、何も対応が無ければ半年後に+10.9万人程度の失業者が発生する計算になる。
● 今後の政府の政策としては、雇用調整助成金の再延長に加えて、コロナ前の経済構造を支える政策から、非接触化に伴い逆に伸びる分野に業態転換を促すような規制緩和や支援の拡充が求められる。個人に対しても、デジタルスキル習得のための無償職業訓練の拡充や、訓練期間中の生活保障、中小企業等における実習型雇用・雇い入れ等への助成、長期失業者などの就業支援といった就業を支援する政策の拡充が求められよう。
はじめに
首都圏で新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、政府は既に緊急事態宣言を発出している1都3県に加えて、大阪・京都・兵庫の関西三府県からも緊急事態宣言発令の要請を受けた。早ければ今週中に関西三府県にも発出される可能性があり、一都三県と同時期までの期間が予想される。
こうした新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、外出制限や交通規制に対して強制力がなく、海外で行われているロックダウンを実施することにはならない。しかし、昨年4-5月にかけての発出により2020年4-6月期のGDPが過去最大の落ち込みを示したことからすれば、関西圏でも更なる経済活動自粛の動きが強まることは確実だろう。
関西三府県追加でGDP▲1.9兆円減
前回の緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けたのが個人消費であり、実際に2020年4-6月期の家計消費(除く帰属家賃)は前期比で▲7.0兆円、前年比で▲8.3兆円落ち込んでいる。
そこで三府県も加わった際の緊急事態宣言発出の影響を試算すべく、直近2020年7-9月期の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減る不要不急の費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約51.7%を占めることになる。
また、直近2017年の県民経済計算を基に、関西3府県の家計消費の割合を算出すると、13.4%となる。しかし、今回の発出は前回の休業要請とは異なり、感染リスクが高いとされる飲食店を中心とした営業時間短縮が中心となっている。そこで、不要不急消費の割合を基に、仮に営業時間短縮を中心とする緊急事態宣言の発出により関西三府県の不要不急消費が一都三県に一週間遅れて2月7日まで止まると仮定すると、2020年7-9月期の家計消費(約57.5兆円)を基準とすれば、最大▲2.2兆円の家計消費が減ることになる。
しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.86となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPベースで最大▲1.9兆円(年間GDP比▲0.4%)の損失が生じる計算になる。
また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が5.2万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、関西三府県の緊急事態宣言が加わることにより、何も対応が無ければ半年後に+9.9万人程度の失業者が発生する計算になる。
GoTo停止加味でGDP▲2.1兆円減
ただ今回は、12月28日から1月11日までとなっていた観光需要を喚起する「GoToトラベル」の停止も2月7日まで継続されている。このため、GoToトラベル停止が延長される影響も無視できないだろう。特に旅行業界にとっては、春休みや卒業旅行で稼ぎ時である。今年はコロナでGW、夏休みに続いてトリプルパンチの状況になり、影響は深刻だろう。
そこで、GoToトラベル一時停止による経済損失を試算すると、全国が12月28日から2月7日まで停止することによる旅行消費の損失は2330億円程度となる。経済全体から見た額としてはそれほど大きく見えないかもしれないが、ただでさえコロナでダメージを受け続けてきた観光関連業界を中心にかなり厳しい損失になるだろう。
このため、GoToトラベルを緊急事態宣言解除まで停止する影響を加味すれば、▲2.4兆円程度の家計消費が減ることを通じて、GDPベースで▲2.1兆円(年間GDP比▲0.4%)の損失に拡大する計算になる。また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、半年後に+10.9万人程度の失業者が発生する計算になる。
半年遅れて発生する雇用環境への影響
ただ、家計の雇用・所得環境は遅れて悪影響が本格化することには注意が必要だ。というのも、日本のオークンの法則、すなわちGDPと失業者の関係を見ると、GDPの悪化に2四半期遅れて失業者が増える関係があることがわかる。したがって、こうした経験則に基づけば、今回の緊急事態宣言発出が雇用環境に及ぼす影響は今年の夏場にかけて拡大する可能性がある。
また、賃金に至っては、すでに残業代の減少や業績悪化に伴うボーナス削減などの影響が出始めているが、肝心な基本給については、今年度の企業業績が反映される今年の春闘でコロナショックの影響が織り込まれることから、家計の所得環境の悪化はこれからが本番と言えよう。 こうした中、政府は2021年2月までの延長を決めた現行の「雇用調整助成金」特例措置を、3月から縮減することを昨年12月8日に閣議決定した「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」で示している。
このため、今後の政府の政策としては、状況次第では雇用調整助成金の再延長とともに、コロナ前の経済構造を支える政策から、すでに打ち出され始めている非接触化に伴い逆に伸びる分野に業態転換を促すような規制緩和や支援へのシフトする政策の強化が求められよう。
また、雇用政策面では、既存企業に雇用を維持する政策に加えて、デジタルスキル習得のための無償職業訓練の拡充や、訓練期間中の生活保障、中小企業等における実習型雇用・雇い入れ等への助成、長期失業者などの就業支援といった失業者に対する就業支援への強化も求められよう。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣