○ 2021年の春闘賃上げ率を1.86%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。20年の春闘賃上げ率は2.00%と、19年の2.18%から伸びを低下させたが、21年には一段と鈍化する可能性が高く、13年以来の2%割れとなるだろう。
○ 賃上げ率の決定には企業業績、物価、労働需給等が影響するが、どれも状況は厳しい。まず、賃上げの原資となる企業業績は大きく落ち込んでおり、日銀短観の収益計画では、20 年度の経常利益は前年比▲35.3%が見込まれている。新型コロナウイルスの影響を強く受けた非製造業での落ち込みが特に大きい。また、足元では感染拡大が再び進んでおり、景気下振れリスクが大きくなっていることも懸念材料だ。ワクチン接種への期待はあるものの、春闘の交渉が本格化する2~3月の段階で先行き不透明感が払拭される状況になることは見込み難い。経営側としては、企業業績が悪化している上、景気の先行き不透明感が極めて強いなかで固定費の最たるものである基本給の引き上げには踏み切りにくく、賃上げには慎重になるだろう。消費者物価指数(コア)は20 年度に前年比▲0.5%程度の低下が見込まれるなど、物価面からの後押しが期待できないこともマイナス材料だ。
○ 実際、来年の春闘に向けた経営側の指針となる経団連の基本方針では、企業によって業績のバラつきが大きくなっていることから、「業種の横並びや各社一律の賃金引き上げを検討することは現実的ではない」とし、業績が悪化する企業ではベアの実施は困難と明記する形で検討が進んでいると報道されている。経営側の慎重姿勢は例年になく強まっているようだ。
○ 雇用情勢が厳しいなか、賃上げを求める側である労働組合サイドも強気な姿勢はとれない。失業率の上昇幅は景気の落ち込み度合いに比べて抑制されているが、これは政策効果によって支えられている面も大きい。売上が大幅に落ち込むなか、雇用調整助成金の拡充といった政府の対策によって雇用を維持している企業は多いと思われるが、先行きも経済活動の水準が低いものにとどまるなか、雇用の削減を実行する企業が増加する可能性がある。近年の春闘では、雇用の不足感が強い中での交渉となっていたが、21年春闘では労働側が不利な立場での交渉となる。こうした状況下、賃上げよりも雇用の維持・確保が優先される可能性が高く、賃上げは抑制されるだろう。
○ 以上を踏まえ、賃上げ率は20年から明確に鈍化すると予想する。なお、春闘では、月例給与に加えてボーナスについても交渉が行われることが多い。2年冬のボーナスは大幅に減少したとみられるが、20年度の企業業績悪化を踏まえて交渉が行われる21年夏のボーナスも大幅減少が必至だ。景気は既に持ち直しに転じているが、景気の遅行指標である賃金については21年も厳しい状況が続く。持ち直しが期待される21年度の個人消費だが、所得面からの後押しは期待できない。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 経済調査部部長・主席エコノミスト 新家 義貴