コロナ禍で働き方が変わり、「不動産」に対する考え方や需要が大きく変わりつつある。また、近年の不動産価格高騰から、特に湾岸エリアを中心としたタワーマンションの暴落懸念も高まっている。しかし、コロナ禍でも物件相場が下がることはなく、高値で安定している“ヴィンテージタワーマンション”もあるという。不動産ジャーナリストとして数々の著作を持つ榊淳司さんに、コロナ禍でも生き残る、価値の高いマンションの特徴を聞いた。

コロナ禍で激変するタワーマンション事情#1
(画像=まちゃー/PIXTA、ZUU online)
榊 淳司
榊 淳司(さかき あつし)さん
不動産ジャーナリスト。榊マンション市場研究所主宰。
1962年、京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。東京23区内、川崎市、大阪市等の新築マンション建築現場を年間500カ所以上現地調査し、各物件別の資産価値評価を有料レポートとしてエンドユーザー向けに提供。経済誌や週刊誌、新聞等にマンション市場に関するコメント掲載多数。主な著書に『激震!コロナと不動産』(扶桑社新書)。

コロナ禍で郊外や地方への流出が進む

2021年は不動産市場にとって「暴落開始」となる年かもしれません。2021年1月、日銀が3カ月に一度取りまとめる「展望レポート」で、2020年度の実質GDP成長率の見通しをマイナス5.6%としました。新型コロナウイルスは日本経済をマイナス成長に陥らせただけでなく、企業や消費者の不動産に対する需要の目的地も変えました。具体的には「東京都心やその周辺でなくてもよい」という、とてつもない変化をもたらしているのです。

企業の多くは東京の都心に本社機能を集中させる必要はありません。また、そんな企業で働く人もコロナ禍以前のように毎日、満員電車に乗ってオフィスに通勤する必要もありません。現在のように情報機器が発達した社会では、会議や打ち合わせもテレビ会議で十分で、リモートワークでほとんどの業務をこなせてしまうからです。

現代社会がすでにそういう環境にあることは、もう何年も前からわかっていました。しかし、それを実践している企業は少なかった。ところが、コロナ禍がその実践を強要しました。そして、多くの企業や働き手が、そのほうが低コストで済むばかりか、快適に仕事ができることに気づいたのです。

変化はまだ始まったばかりです。コロナ禍は東京都心の不動産需要自体を大幅に減退させています。オフィスはコンパクト化と分散が進み、住宅需要は郊外や地方に向かって流出。こういった動きはすでに始まっており、数年で本格化してくると考えます。

価値の下がらない「ヴィンテージタワマン」の特徴

富裕層や資産家、高所得者層が多く住む都心や城南エリア、湾岸エリアのタワーマンションにも当然影響が出てきます。武蔵小杉(神奈川県・川崎市)のタワーマンションを見れば、災害に弱いことが明らかになりました。また、タワーマンションは荷重負担を軽減するために「乾式壁」という薄弱な戸境壁が使われています。昨今テレワークが進み、上の階の足音や隣の部屋からの騒音に悩まされるケースが激増しているのです。

しかし、そういった欠点を考えても、タワーマンションにそれなりの魅力があることも事実です。東京のマンションを隅々まで見て回ることを仕事にし、タワーマンションのデメリット面を眺めてきたなかでも「これはちょっといいな」と思った物件がいくつかあります。こうした物件はコロナ禍でも物件相場が下がることはなく、高値で安定しているのです。価値の下がらない「ヴィンテージタワマン」が次の10棟です。

コロナ禍でも生き残る東京のヴィンテージマンション10棟

①白金タワー(東京都港区)

分譲会社:住友商事、三井物産ほか 南北線 白金高輪駅 徒歩1分
全581戸 2005年11月築 42階建て

私が現在のような「住宅ジャーナリスト」の肩書で仕事を始めた頃、白金タワーの管理組合で理事長をしている方から「ぜひご覧ください」と連絡をいただきました。私も理事長の経験があるのである程度は理解できるのですが、マンションの管理組合というのは、とにかく面倒くさい。しかし、その面倒くささを嫌がって手を抜くと、たちまち管理会社に相場以上の金額を取られたり、わが物顔で私腹を肥やす理事長が出現して“利権化”されてしまう。

このマンションは、そうしたトラブルの種をすべて排除したばかりか、様々な改革を施して共用施設を収益化したのです。今や大規模修繕を何回もできるほど組合の財政を豊かにしました。それでいて、私が知る限り大規模な修繕工事をまだ実施していません。なぜなら、それは必要でない限り行わなくてもいいことをその名物理事長は知っているから。既成概念や固定観念にとらわれない、自由で聡明な理事長を擁しているのがこのマンションの管理組合なのです。こういうマンションなら、100年の風雪にも耐えてなお、その資産価値を維持できるでしょう。

②勝どきビュータワー(東京都中央区)

分譲会社:ゴールドクレストほか 大江戸線 勝どき駅 徒歩1分
全719戸 2010年11月築 55階建て

勝どきビュータワーは地下鉄大江戸線・勝どき駅徒歩1分の直結です。「直結」というのは駅の構内とマンションの建物が直接つながっている場合にそう呼びます。「駅徒歩1分」でも、いったん歩道や公道に出なければいけないときは、直結とは言いません。このマンションの優位点は間違いなく駅徒歩1分で、しかも直結であるという点です。

このマンションの新築時の売り主は1990年代に創業した歴史の浅い、いわゆる独立専業の“カタカナデベロッパー”で、市場に合わせて値下げはせずに、値上げは行う売主です。常に市場感覚よりも1割程度高い価格でも、この10年間販売が続いてきたような印象があります。銀座が徒歩圏内にありながら、駅直結のタワマンはやはり貴重な存在。このマンションの資産価値は手堅いものがあり、今後、コロナ不況によって価格が下落する場面があるはずです。そういう時に仕込んでおくには悪くない物件のひとつでしょう。

③ワテラスタワーレジデンス(東京都千代田区)

分譲会社:安田不動産ほか 千代田線 新御茶ノ水駅 徒歩3分
全333戸 2013年3月築 41階建て

ワテラスタワーレジデンスは千代田区にあり、この10年でこれほどの敷地を有し、資産価値が高い物件はこのマンションだけ。10年に1度出るか否かの掘り出し物で、希少性は抜群です。こういう物件であれば、老朽化しても処分に困ることはありません。常に富裕層が所有し、居住しているのがこのタワーマンションです。資産価値は折り紙付きと言っていいでしょう。

筆者が理解している範囲では、直近1年に取引されるのはほんの数住戸にすぎません。価格も坪単価600万~800万円台ですから、新築時の2倍近くまで値上がりしていることになります。コロナ不況によって多少は値下がりするかもしれませんが、日本経済がそれなりに回っている限り、日本ではトップクラスの資産価値評価を受ける物件です。