特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続くなかでの、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

大正11年に静岡県で創業し、2021年には創業100年となる総合建設会社、株式会社橋本組。現在、静岡県焼津市に本社を持つ橋本組の業務内容は、公共・民間の建築・土木事業、生コンクリート製造販売、海洋土木事業、設計監理、不動産管理などと多岐に及ぶ。建築事業も、大型の公共施設から商業施設、工場・倉庫、戸建ての注文住宅まで幅広い。

実績ある会社でありながら、コロナ感染拡大では強い危機感を覚え、注力部門の大きな転換を行なった。また、今後についても、時代を見据えながら新たな戦略を模索している。ここまで来られたのは「運が良かったのが大きい」と謙虚に語る創業家の橋本真典5代目社長は、社内に創り上げられてきた「挑戦せずに後悔するより、挑戦し、失敗しても笑い飛ばす」という社風のなか、ふたたび新たな挑戦をしようとしている。

(取材・執筆・構成=高野俊一)

株式会社 橋本組
(画像=株式会社橋本組)
橋本 真典(はしもと・まさのり)
株式会社橋本組 代表取締役
東京理科大学 理工学部卒業、大学院 土木工学専攻修了。一級建築士。
「できない理由を探すより、どうすればできるか考え行動する。成功する迄続ければ、失敗は有益なプロセスである」が座右の銘。趣味はサーフィン。2020年11月に創業家として5代目社長に就任した。

withコロナでは状況への柔軟な対応が必須

――橋本組は大正11年に創業され、また昭和41年に株式会社橋本組として法人化されました。2022年で創業100年になるわけですが、大手も多く競争が激しい建設業界で、それだけ長く続いてきた秘訣は何なのでしょうか。

一言でいえば「運が良かった」と思っています。建設業界はもともと、護送船団方式で国から守られてきた業界です。マスコミからは、建設業界の談合体質について強く批判もされてきたくらいでした。ところが、小泉構造改革からはそれが一転し、現在では談合の「だ」の字もありません。それによって建設会社の数も大きく減り、淘汰が始まっている状況です。そういった変わり目において、たとえば「いい人材が入ってきてくれた」などがたまたまうまく続いて、100年の歴史が築かれてきたのかなと思います。自分たちの実力以上に「ツイていたな」と、正直なところ感じています。

たとえば、我社の主要顧客層の一つとして、設計・施工からすべてを「橋本にまかせる」という方々がいます。それらの方々との関係は、会社の長い歴史のなかで信頼が培われてきたところもあります。しかし、静岡県に本社がある我社のことは、中部地方から一歩外へでたとたんに「誰も知らない」ということになります。そのため、徐々に地道に、全国・世界へ勢力範囲を広げてきました。それが可能となったのは、あるときかなり強力な営業能力をもった人たちが入社してくれたことによります。それも「ツイていたな」と強く思うことの一つです。

株式会社橋本組
(画像=株式会社橋本組)

――昨年2020年からコロナ感染拡大が発生しました。昨年11月の社長就任は、感染拡大のまっただ中ということだったかと思います。状況の変化といえば、コロナの感染拡大も大きな変化につながっているのではないでしょうか。

どの業界も同じだと思いますが、世の中のトレンドをみて「どの分野がこれから伸びていくか」に着目すると思います。建設業界には色々な分野がありますが、我々が特に着目してきた分野は、宿泊施設の建設などインバウンド関連の需要です。そちらにかなり軸足をおいていたところ、コロナ感染が拡大し「これはヤバい」と感じました。

特に衝撃だったのは2020年に3月に、トヨタが1兆円の融資枠を設定したと報じられたことです。資産のかたまりのような会社が「資金繰りがうまくいかなくなる可能性がある」と踏んで融資枠を設定したというニュースを見た瞬間に「これは本当にヤバい」と思いました。そこで、それまでのインバウンド関連への注力を、公共工事関係へ一気にシフトしたわけです。そのように転換できたおかげで、当社はコロナ下においても、受注・利益ともかなり好調です。状況に柔軟に対応できるかどうかは、成否を決める分かれ目になると思います。

――コロナ感染の収束がいまだ見通せないなか、今後の建設業界としての展望、あるいは御社としての目標はどのようにお考えでしょうか。

建設業界の展望については「100社あれば100通りの考えがある」というくらい、考えていることはみな違うと思います。そうはいっても、コロナ感染拡大下であっても需要が確実に見込めるものもあります。それはたとえば、高度経済成長時代に作られたインフラの更新需要です。1980年代にアメリカでは、橋がいくつも落ち、道路は穴だらけになって荒廃しました。日本においても同様の事態となるのに「一歩手前」の状況です。トンネルの崩落事故もありましたし、インフラ更新は「待ったなし」となっています。この分野についてはコロナ下でも、力を入れていきたいと思っています。民間においても補修関係の需要は、今後も見込めると思っています。

それから、今日のインタビューもZoomを利用しているわけですが、この流れはもう、後戻りは絶対にしないと思っています。リモートを前提としたインフラ整備は今後急激に伸びると我々は踏んでいて、特に通信インフラなどは加速度的に伸びていくと思います。そのような分野で建設業が果たせる役割は何かを見据えながら、今後はやっていきたいと思っています。自分たちなりに時代を読んで、次の戦略を練っていきます。予想が外れることもありますが、「挑戦して、たとえ失敗しても笑い飛ばそう」というのが我社の社風です。

株式会社橋本組
(画像=株式会社橋本組)

富裕層向け事業やSDGs、海外向け事業も展開

――御社では富裕層向け、あるいは投資家向けのサービスはありますか?

インバウンド関連でいえば、1泊20万円のホテルなど、富裕層向けの施設建設に関わっています。また、京都の町家改修なども行いました。富裕層の方々との接点は、これまでにもかなりあったと思っています。

――SDGsにも注力しているとのことですが、どのような取り組みをされていますか?

SDGsの17の項目全部をやるということではなく、社内の部門ごとに個別に目標を決めています。たとえば、総務部門においては「ジェンダー平等の実現」に取り組んでいます。また、自社で「橋本丸」という起重機船を所有しているのですが、その船では海洋汚染を絶対に起こさないことを通して「海の豊かさを守る」ことにも取り組んでいます。各部門で自分たちがいちばん貢献できることをピックアップし、具体的な取り組みをしていくという形です。

――営業エリアが世界に広がっているとのことですが、具体的にはどのような事業に取り組みをされていますか?

実績ベースでは、設計業務、および仮設工事があります。工事についてはコロナ感染拡大で残念ながら止まってしまっているものの、設計業務は継続中です。GoogleマップやGoogleアース、あるいはオンラインでのやり取りで、コロナ下でも業務は十分成り立つからです。「なぜ今まで現地へ行かなければいかなかったのか」と思うくらい、問題がありません。したがって、海外事業は設計分野においては、これから伸びていくのではないかと思っています。