経済
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医療保険制度の持続性を脅かす後期高齢者支援金の増加

(厚生労働省「医療経済実態調査(保険者調査)」)

大和総研 政策調査部 / 石橋 未来
週刊金融財政事情 2021年2月15日号

 2022年以降、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)入りする。それに伴う後期高齢者医療への拠出(後期高齢者支援金)の増加は、現役層の大幅な負担増をもたらすだろう。高齢者医療制度の持続可能性を高めるには、患者負担の引き上げが避けられない。

 図表は、保険者別に見た支出総額に占める高齢者医療への拠出金(後期高齢者支援金と前期高齢者納付金の合計額)の割合である。いずれの保険者でも、後期高齢者医療制度がスタートした08年度と比べて、18年度にはその割合が高まっている。なかでも、それが50%に迫る組合健保や共済組合では、徴収された保険料の約半分が後期高齢者など加入者以外に充てられている状況だ。加入者以外の費用のために加入者の負担が増える状況は、保険の本来の姿ではない。

 組合健保と共済組合で拠出金が増えた理由の一つは、17年度以降、後期高齢者支援金の計算方法が全面総報酬割になったことである。後期高齢者医療の給付の約4割は、現役層からの支援金で賄われている。もともと支援金は各保険者の加入者数に応じた頭割だったが、段階的に報酬割とされ、平均所得が高い組合健保や共済組合で拠出金が大幅に増えた。

 高齢者の医療費を社会全体で支えるのは当然であり、能力に応じて支援金を拠出すべきことは理解できる。だが、際限なく増える保険料の負担をこのまま現役層に求め続ければ、制度の持続可能性すら危ぶまれる。すでに組合健保加盟の22.1%は、保険料率が協会けんぽの平均(10%)を超える事態となっており(19年度)、解散する組合も出ている(19年度に解散した5組合のうち4組合の保険料率は10%超だった)。

 そうしたなか、20年12月15日に政府の「全世代型社会保障改革の方針」が閣議決定され、一定の負担能力のある後期高齢者について、医療費の窓口負担割合を現行の1割から2割に引き上げる方針が決まった。3割負担となっている現役並み所得者の7%を除くと、後期高齢者の23%が引き上げの対象だ。

 窓口負担を2割に引き上げる対象を巡っては、高額療養費制度の一般区分(後期高齢者の約6割)にすべきという意見もあったが、所得上位30%で線引きすることで政治的な決着を見た。この結果、22年度に現役層が負担する7.1兆円の後期高齢者支援金は、720億円(現役層1人当たり年間700円)の軽減にとどまる見込みだ。改革が前進したことは評価したいが、これで医療保険制度の持続可能性が確保されたとは到底言えない。若い世代にとっても安心できる全世代型の社会保障制度を構築するために、給付と負担のさらなる見直しが欠かせないだろう。

後期高齢者支援金の増加は医療保険制度の持続性を脅かす?
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(提供:きんざいOnlineより)