経済
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米実質金利上昇でドル円はリスクオンの円安へ

大和アセットマネジメント チーフ為替ストラテジスト / 亀岡 裕次
週刊金融財政事情 2021年2月15日号

 米国の株価と金利が同じ方向に動くと、株価とドル円も同方向に動きやすく、株価と金利が逆方向に動くと、株価とドル円も逆方向に動きやすい。その点から見ると、最近は米株価と米長期金利が順相関になるとともに、米株価とドル円も順相関に傾いている。

 背景には、米大統領府と上院・下院を民主党が掌握する「トリプルブルー」となり、財政拡張がしやすくなったことがある。財政拡張期待が景気回復期待を通じて米国の株価と長期金利を上昇させやすくすると考えられる。

 ただ、これまでは米株価と長期金利が上昇した割には、ドル円の上昇が鈍かった。クロス円は全般的に上昇(ドル以外の他通貨に対して円が下落)しているので、リスクオンの円安が鈍いわけではない。ドルが弱いためにドル円の上昇が鈍かったのだ。ドルが弱いのは、リスクオンのドル安だけが原因ではなく、米実質金利の上昇が鈍いことも原因と考えられる。

 その理由は、景気が回復しても雇用改善が十分に進むまでは、米連邦制度準備理事会(FRB)が金融緩和を続けるとの期待が強いからだろう。財政拡張期待により米長期金利が上昇しても、金融緩和持続期待により米実質金利の上昇が抑制されているうちは、ドル円の上昇も抑えられやすいだろう。

 しかし、米国の財政拡張は、中長期的に株価や長期金利を上昇させるだけでなく、いずれは雇用と景気の回復によってインフレ率が上昇し、金融緩和継続期待を弱め、実質金利を上昇させるのではないか。

 最近は新規感染者数が減りつつあり、冬場を過ぎてワクチン接種が進むにつれ、さらに新規感染者数は減少していく可能性がある。財政拡張に新型コロナの感染鈍化が加われば、雇用改善を伴って景気回復が進みやすくなり、インフレ率も上昇しやすくなるだろう。ただし、このコロナ禍で、雇用が十分に改善する前、つまり供給制約がある中で需要が回復すれば、インフレ率上昇が急ピッチになる可能性には注意が必要だ。

 今は金融緩和継続を強調している米金融当局者も、景気回復とインフレ率上昇の可能性が高まれば、過度なインフレ期待を抑えるため、遠くない将来に量的緩和を縮小する必要性について言及するようになるのではないか。そうなると、市場の金融緩和継続期待が後退し、米実質金利の上昇が進みやすくなるだろう。ドル安が弱まるとともにリスクオンの円安が優勢となり、ドル円は上昇していくと考えられる。今後3カ月間のドル円相場は、103~108円程度のレンジを形成すると予想している。

米実質金利上昇でドル円はリスクオンの円安へ
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(提供:きんざいOnlineより)