地方の大半で人口減少が進むなか、総務省ではサテライトオフィス開設を支援してきました。さらにコロナ感染拡大により、密にならない環境で仕事がしやすい地方型サテライトオフィスがクローズアップ。各地で開設が相次ぐなか、離島型サテライトオフィスを選択する企業もあります。ちょっと変わったサテライトオフィスのメリットや事例を見てみましょう。

サテライトオフィスには「郊外型」と「地方型」がある

サテライトオフィスは離島の多い九州がおすすめ
(画像=siro46/stock.adobe.com)

はじめに、サテライトオフィスの基本を確認します。サテライトオフィスは「郊外型」と「地方型」の2つに大別されます。種類によって開設の目的が変わってきます。

「郊外型」サテライトオフィス:従業員の通勤負担を軽減

郊外型サテライトオフィスとは、たとえば都心に本社のある企業が首都圏の主要都市にオフィスを設けるようなケースです。これにより従業員の通勤負担を軽減し、業務効率を高める効果が期待できます。合わせて、通勤時間の短縮によってワークライフバランスや育児・介護などがしやすい環境をつくり出せます。

「地方型」サテライトオフィス:従業員のメンタルヘルスと雇用促進

地方型サテライトオフィスとは、たとえば都心に本社のある企業が遠方の地方にオフィスを設けるようなケースです。開放的な空間や自然豊かな環境にオフィスを設置することで、従業員のメンタルヘルスにプラスの効果が期待できます。加えて、大都市圏だけでは採用活動がしにくい場合も、現地の方々を雇用することで人材獲得を進めやすくなります。

「郊外型」「地方型」どちらのサテライトオフィスも、コロナ禍では密になる環境を回避し、感染リスクを軽減する効果が期待できます。

「離島型」サテライトオフィスのメリットとリスク

今回テーマにしている離島型サテライトオフィスは、地方型の延長線上にあるワークスタイルです。どのようなメリット・リスクがあるのかを見ていきます。

メリット1:メンタルヘルスへのプラス効果が大きい

地方型サテライトオフィスのメリットとして期待されるのはメンタルヘルスへのプラス効果でした。離島の多くは絶好のロケーションのため、さらに大きなメンタルヘルス効果が期待できます。離島のロケーション例としては、山と海の両方の自然を楽しめる、魚介類の地域資源が豊かなどです。

メリット2:自治体が開設をバックアップしてくれる

離島の大半は人口減少が著しいエリアです。このような自治体では過疎化対策が急務となっているため、その一環としてサテライトオフィス設置を全面的にバックアップしてくることも少なくありません。具体的なバックアップ例としては、施設の提供や人材募集のサポート、補助金などがあります。

メリット3:オフィスを開設する場所が見つけやすい

メリット2でも触れた通り、離島は人口減少が著しいエリアがほとんどのため、現在は使われなくなった小学校・公共施設・空き家など、サテライトオフィスに転用できる建物を見つけられる可能性が高いといえます。

3つのメリットを見てきましたが、次からはリスクについてです。

リスク1:海が荒れると通勤できなくなる

島外から通勤する従業員がいる場合、海が荒れると船が欠航になって行き来できなくなるリスクがあります。これについての対策は、自宅でもスムーズに仕事ができるよう、テレワークの環境を整えておくのが有効です。

リスク2:ネット環境が使えなくなることも

最近では大半の島でネット環境が整備されています。しかし、ネット回線を少ない設備に頼っていることが多いため、それが機能しなくなればネットが不通になるリスクもあります。過去には、ケーブルの断線や落雷による無線設備の破損などでネット環境が使えなくなることが日本国内の島でありました。

リスク3:従業員の生活費が割高になる

人口の少ない島では、小さな食料品店・雑貨店が住人の生活を支えていることも少なくありません。こういったタイプの島にサテライトオフィスを開設する場合、島に搬入する費用などがかさみ、食料や生活必需品が割高になることも考えられます。小さな離島にサテライトオフィスを設置するなら、こういった面も含めて従業員の給与や手当ての設定をするのも一案です。

離島型サテライトオフィスの事例

最近では、実際に離島型サテライトオフィスを開設する事例も出てきています。どのような企業がどのように離島型サテライトオフィスを運営しているのか見てみましょう。

事例:老人福祉センターの一部を利用して開設「上島ベース」(愛媛県)

1つ目の事例は、利用者800万人以上の福利厚生サービスを展開するベネフィット・ワンです。パソナグループの同社は全国各地にサテライトオフィスを開設していますが、四国には計6カ所の拠点を展開中です(2020年1月時点)。そのうちの1つが、同社初の離島に開設したサテライトオフィス「上島(かみじま)」ベースです。

このオフィスが位置するのは愛媛県東北部に位置する25の島で構成された人口約6,500人の上島町です。このうちの弓削町に開設したサテライトオフィスは、老人福祉センターで長年未使用だった一室を活用しています。

サテライトオフィスを全国各地に開設する理由について同社では、これまでオペレーションセンターで統括して行っていた定型業務を全国各地のサテライトオフィスに分散することで処理能力の向上を図ると説明しています。併せて、地方での雇用創出を行いつつ地域貢献もしていきたいとしています。

事例:築56年の古民家をリノベーション「PIC壱岐」(長崎県)

2018年1月、ウェブコンサル・運営支援のペンシル(福岡県福岡市)が長崎県の壱岐島に開設したのが「PIC壱岐」です。壱岐島は博多から高速船で約1時間、長崎空港から飛行機で約30分の玄界灘に位置する島。透明度の高い海と豊富な魚介類がアピールポイントです。

このサテライトオフィスは築56年(開設当時)の古民家をリノベーションしたもので、開設当初、地元の主婦やシニア層など4名の従業員が在籍。子育てや介護などで仕事をするのに制約がある人も働ける環境になっています。島に拠点があることで周辺住民の雇用創出が可能になります。このほか、ペンシルの福岡本社や東京オフィスの社員が「PIC壱岐」で働ける制度も用意されています。

壱岐島はサテライトオフィスの誘致に積極的な自治体で、上記のほかにも島外の企業2社がサテライトオフィスを開設。3社合わせて15名の従業員が働くとともに、10名の地元雇用を生み出しています。
※上記は、国土交通省の離島振興課が平成30年3月に調査した内容をもとにしています。

離島型サテライトオフィスを検討するなら九州も候補地

日本は島国なので、全国各地に島があります。最近、サテライトオフィス開設や本社移転で注目されているのは四国ですが、九州も島の数が多く温暖で過ごしやすい環境です。その先駆けとなるのが先に紹介した「PIC壱岐」でしょう。

九州の離島型オフィスの候補地の一例としては、移住促進に積極的な長崎県の五島列島、福岡市の姪浜港からフェリーで約10分とアクセスのよい能古島(のこしま)などがあります。また、壱岐島(長崎県)や甑島(こしきしま)・徳之島(共に鹿児島県)などには、総務省が主導する「おためしサテライトオフィス」も用意されています。気になる人はまずは現地を訪れてみましょう。(提供:spacible