東京一極集中の弊害が指摘されて久しい昨今ですが、2020年はとりわけそのリスクが顕在化した年といえるでしょう。かねてからの関東大震災クラスの大地震の再来や南海トラフ大地震といった地震災害のリスクに加えて、2020年はコロナ禍により多くの人が東京に拠点を構えることにリスクを感じる契機となりました。

賃料が高くさまざまなリスクも高くなっている東京ではなく、地方に拠点を分散することでBCP(事業継続計画)を含むリスクヘッジを企業は本気で考え始めています。東京一極集中については、国も懸念を示している立場から地方分散や地方創生を後押しする政策を打ち出しており、その受け皿となるサテライトオフィスへの注目度が急速に高まっているのです。

国だけでなく地方自治体の思惑も一致するため、今後地方のサテライトオフィスが大化けする可能性を秘めています。そんな時代に向けて不動産投資家は何に備え、どんなスタンスを取るべきなのでしょうか。

2020年は東京一極集中の転換点?

リスクヘッジとしてのサテライトオフィス需要は地方が主役である3つの理由
(画像=taa22/stock.adobe.com)

これまで東京一極集中の弊害は各方面から何度となく指摘されてきましたが、それでも東京圏への人口流入の流れが大きく変わることはありませんでした。その流れを変えたのが、2020年に端を発したコロナ禍です。転入超過が続いていた東京都の人口が、2020年12月の時点で6ヵ月連続の転出超過になったことが分かりました。

ちょうど転出超過が始まった時期が緊急事態宣言の影響が大きかった時期と重なるため、この転出超過がコロナ禍によるテレワークの普及や郊外への人口移動が原因であることは間違いないでしょう。もう1つ外資系保険会社の評価によると、東京圏は自然災害のリスクが世界の主要都市と比較して群を抜いて高く、海外からも「東京は自然災害の観点から危険な都市」と見なされていることが分かります。

「上京すれば何とかなる」というのは長らく続いてきている漠然とした価値観ですが、コロナ禍や災害リスクなどによってパラダイムシフトが起きているのかもしれません。

サテライトオフィスは地方が主役となる3つの理由

東京圏から地方に目を向け始めた企業が、注目しているのがサテライトオフィスです。株式会社パソナグループの例のように本社機能を地方に移転するのはさすがに難しいかもしれませんが、東京圏など大都市圏に本社機能を置きつつ地方にサテライトオフィスを置くのは現実的でしょう。こうしたサテライトオフィスを設置するのは、大都市圏ではなく地方が主役です。

その理由は、主に以下の3つです。

理由1:国の施策

地方創生の観点から、国は地方のサテライトオフィス設置を推奨しています。その政策の一環として「おためしサテライトオフィス」という事業を展開。このサービスは、サテライトオフィスを地方に設置したい企業と、受け入れ側の地方自治体をマッチングするもので、スムーズなサテライトオフィス設置を国が支援しています。

理由2:企業の意識変化

人、モノ、カネが集まる東京に拠点を置くことは「企業にとって最も合理的」と考えられてきましたが、コロナ禍を契機にその意識に変化が起きつつあります。リスク分散やコストの削減、さらに働く人の意識が変化(職住近接や生活に対する価値観の多様化など)に応える形で、企業が今すぐできる施策としてサテライトオフィスに着目するのは自然な流れといえるでしょう。

理由3:社会的、時代的背景

企業や人だけでなく、社会的かつ時代的な背景が大きく変化していることも地方サテライトオフィスの流れを後押ししています。社会的背景として大きいのは、人手不足対策や地方創生、少子化対策、空き家対策などでしょう。大都市圏だけでは、人材を確保しきれない企業が多様な働き方を提示することで、人材確保の門戸を広げるのにサテライトオフィスは役立ちます。

また地方で起きている少子化や人口減少、空き家問題への対策としてサテライトオフィスは魅力的です。さらに時代的背景として見逃せないのが、SDGsなどこれからの時代にマッチした企業のあり方です。今後はSDGsが提示している「世界基準の目標達成にどれだけ取り組んでいるか」について重視される時代となるでしょう。

サテライトオフィスの設置につながるテレワークの導入は、そんなSDGsが掲げている以下の目標に合致するものです。

4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダーの平等を実現しよう
8.働きがいも経済成長も
10.人や国の不平等をなくそう
17.パートナーシップで目標を達成しよう

企業がSDGsを強く意識する必要性が高まっている理由には、投資家の意識変容があります。これからの企業向け投資には、企業の質が問われているのです。具体的には、SDGsなど社会貢献に資する企業活動の有無で投資適格かどうかが判断されます。つまりテレワークの導入によってSDGs達成を目指すことは、企業にとって生き残り戦略の一環となるわけです。

リスクヘッジとしてのサテライトオフィスに求められる条件

それでは、サテライトオフィスに求められる条件とはどのようなものでしょうか。投資家目線で理想的なサテライトオフィス像をイメージしてみましょう。

1.地方都市の中でも立地条件に恵まれている

地方といっても過疎地や限界集落など、その地方の人ですら通勤が困難な場所ではなく地方都市の中でも立地条件に恵まれていることは重要です。これにより通勤時間の短縮やワークライフバランスの実現など多方面のメリットを両立することが期待できます。

2.十分なスペースの確保

「サテライト」という言葉のイメージから数人規模の小規模なオフィスを想像される人も多いかもしれません。しかし小さなスペースしかないことは、アフターコロナのフィジカルディスタンスを確保する観点からもリスクを意識させてしまいます。また地方によっても異なりますが、大都市圏の人と違って地方の人は狭いスペースに慣れていません。

そのため広く開放感のあるオフィスは、精神面の影響を考えても必須といえるでしょう。地方は、賃料が安く十分なスペースを確保しやすい条件が整っているため、そのメリットを存分に活かしたいところです。

3.十分なネットワーク環境とICTインフラ

サテライトオフィスに注目が集まり実際に設置する企業が増えている理由として最も大きいのが、ICTインフラの発達です。コロナ禍や東京の賃料高騰などの事実があっても、大都市拠点と地方拠点をリアルタイムに結ぶインフラがなければサテライトオフィスを設置することに現実味はありません。十分なネットワーク環境を整備することは、サテライトオフィスにとって非常に重要な要件の一つです。

しかし企業にとって本社など従来の拠点以外に自社ネットワークにアクセスできる環境を設けることには、セキュリティ上の懸念がつきまといます。そこでサテライトオフィスの設置においては、十分なセキュリティが確保できることも必須です。

地方の不動産オーナーにとって大きなチャンス

サテライトオフィスに注目が集まり、実際にオフィスを設置する流れはまだ始まったばかりです。今後多くの企業がサテライトオフィスを検討し大きな流れが起きると、経済や社会全体を大きく変えるほどの潮流となります。そんな時代の到来は、地方の拠点都市にマンション物件やビル物件などを保有している人にとって大きなチャンスです。

上記の条件を満たした物件づくりがサテライトオフィス需要を取り込めるチャンスにつながるため、今後おおいに意識しておくべき流れといえるでしょう。(提供:spacible