抵当権という言葉をご存じでしょうか。住宅ローンを借り入れた際、銀行が設定するもので、返済事故があった場合に銀行は物件を差し押さえて競売にかけ、現金化することができるという権利です。ところで、住宅ローンを完済した場合、もう抵当権は関係ないはずですが、何もしなければ抵当権の登記は残ってしまいます。抵当権を抹消する手続きはどのようにすればいいのか、費用はどれくらいかかるのか、どんな書類が必要なのかなどについて解説します。

目次

  1. 抵当権とは
  2. 抵当権は抹消する義務はない
    1. (1)その不動産を売却するとき
    2. (2)新たに融資を受ける必要があるとき
    3. (3)相続が発生するとき
  3. 抹消しないと不都合も
    1. (1)売却時に不利
    2. (2)他の借り入れの担保にするときに審査に通りにくい
  4. 抹消手続きの方法
  5. 費用と税金

抵当権とは

書類
(画像=PIXTA)

まず、抵当権について詳しく述べます。お金を貸した人が、お金を借りた人が持っている何かしらの「モノ」を担保にしておき、お金の返済ができなくなった場合にそれを強制的に売却してその売却額から返済を補填させる権利のことをいいます。

住宅ローンの場合、「モノ」とは住宅の土地と建物。ここに銀行が抵当権を設定することになります。住宅ローンの返済が滞った場合には法的強制力でもって土地と建物が競売にかけられてしまいます。

住宅購入時に不動産会社を通じて抵当権の設定登記を司法書士が代行してくれることが多く、個人で準備することは必要ありません。このとき、司法書士への報酬として6~10万円程度、登録免許税としてローン融資額の0.4%がかかります。融資額5,000万円の場合、計30万円くらいすることがあり、バカにできない金額です。

抵当権は抹消する義務はない

住宅ローンが完済すれば、抵当権抹消手続きをするかどうかに関係なく抵当権は消滅します。抵当権抹消登記をするのは、抵当権が消滅した事実を登記簿謄本(登記事項証明書)に記載してもらうためであって、義務ではありません。ただし、抵当権の設定登記記載が残ったままだと不都合がある場合があります。

そもそも、抵当権は法務局に備え付けられている不動産の登記簿謄本(不動産の履歴書のようなもの)に記載されるものであり、抵当権の対象となっている債権の履行を完了(住宅ローンを完済するなど)したとしても、手続きを行わなければ登記簿謄本からその記載がなくなることはありません。

実際、ローン完済後に抵当権の記載が残っていることによって実害があるかというと、そういうわけではありません。ただ、以下の3つのタイミングで、抹消しておかないと困ることになります。

(1)その不動産を売却するとき
(2)新たに融資を受ける必要があるとき
(3)相続が発生するとき

(1)その不動産を売却するとき

業界ではよく、抵当権がついた物件の登記簿謄本のことを「汚れている」と言います。抵当権が設定された物件は、自分以外の誰かの返済が滞ると競売にかけられてしまうことになるからです。このため、抵当権が残っている物件を買う人はほとんどいません。

住宅ローンを完済して抵当権の効力がなくなっていたとしても、登記簿上に抵当権の登記が残ってしまっていると、第三者には本当に抵当権が残っているように見えてしまいますし、気持ちのよいものではありません。なので、売却前に抹消登記をしておいたほうがいいでしょう。

一方、住宅ローンの完済前の段階で不動産を売却し、その売却代金で残った住宅ローンを返済し、次の住み替え先の家の購入資金に充てる、ということもよく行われています。このケースでは、手続きは司法書士と銀行が行うため、心配する必要はありません。

(2)新たに融資を受ける必要があるとき

上記(1)の買い替えなどの場合、新たな買主がその不動産に住宅ローンのための抵当権を設定する場合、金融機関としても、一番抵当権(抵当権が複数あった場合、一番優先される地位)を確保できないため、融資が通りません。住宅ローンの場合はほとんど一番抵当でなければ不可です。

(3)相続が発生するとき

所有者が亡くなって相続した不動産に抵当権の登記が残っていると、相続人はその不動産を売却したくてもそのままでは売却することができません。相続人が抵当権抹消登記をすることもできますが、手続きが複雑になってしまいます。

抹消しないと不都合も

前述のとおり、抵当権抹消に義務はなく、住宅ローンを完済すれば抵当権の効力もなくなるので、わざわざ手続きをしなくてもいいのではと思うかもしれません。しかし、抵当権を抹消しなかった場合、次の2つのケースで不都合なことが想定されます。

(1)売却時に不利

登記簿上で物件に抵当権がついていたら、買い手側からするとそれが完済されたかどうかが判断できません。何より、抵当権がついたままでは新たな買主はローンが組めません。実際には、不動産の売却金額が全額決済された時点、その取引の場で抵当権の抹消、設定が同時に行われるため、手続きの安全性について神経質になる必要はありません。

(2)他の借り入れの担保にするときに審査に通りにくい

不動産を保有していると、それを担保としてお金を借り入れることが可能です。抵当権設定登記が残ったままではそれが不可能となるため、大きな機会損失となります。

抹消手続きの方法

抵当権を抹消するための手続きは以下のとおりです。

1.必要書類を準備する

必要書類は登記済証または登記識別情報、登記原因証明情報、委任状、金融機関の資格証明書、抵当権抹消登記申請書、登記事項証明書となります。

2.管轄の法務局を調べる

抵当権について扱う役所は法務局で、全国に500ヶ所ほどあります。しかし、抵当権抹消登記の申請は、抵当権が設定されている不動産の住所を管轄する法務局に限られます。

3.抵当権抹消登記申請書を作成する

4.提出する書類をまとめる

5.法務局に抵当権抹消登記の申請を行う

法務局に個人で直接申請する場合、「登記相談」の予約を取ると、法務局の人が丁寧に教えてくれますので、安心です。

6.登記完了証を受け取る

費用と税金

抵当権抹消登記にかかる費用は、司法書士に依頼した場合は1万~2万円前後となります。登録免許税は1,000円程度です。金額としては少額なので、取引の安全性や後の手続きを考慮すれば、抵当権消滅後はすぐに抹消手続きを行うことを強くオススメします。

プロフィール

半沢隆太郎(宅地建物取引士)

中央大学法学部法律学科卒。実家が建設・不動産会社を経営。新卒で大手機械メーカー、その後コンサル会社を経て、現在は不動産業種の上場会社の経営企画部門に勤務。