特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
フォレストコーポレーションは、1960年信州伊那谷にコンクリート製ブロックの製造会社として誕生し、2021年で創業61年を迎える老舗企業だ。2代目・現社長の小澤仁氏が2000年に注文住宅事業を開始した。地産地消にこだわり、住宅で使う木材の85%が信州産という住宅は年間100棟を受注、累計1,150棟の建築実績を持つ。小澤氏は新たな成長戦略として、軽井沢にオフィスを誘致するサードオフィス事業を立ち上げた。
(取材・執筆・構成=不破聡)
1963年長野県伊那市生まれ。
伊那北高校・法政大学を経て1986年リクルートコスモス入社。帰郷後、父親の経営する南建に入社。1996年社長就任、2005年に南建をフォレストコーポレーションに社名変更。
「家づくりを物語に」施主が山に入って木材を伐採
――木造住宅で日本サービス大賞「地方創生大臣賞」を受賞しました。
「工房信州の家」は、施主が家づくりに参加できることが最大の特徴です。自ら山に入って木を選び、伐採するところから家づくりが始まるのです。家族総出で壁塗りや装飾品の制作も行います。家を作って終わりにするのではなく、家族の物語として残す。そこに愛着が湧き、感動が生まれるものと考えています。
また、このような活動を通じて放置された森林の整備が進み、信州の木材が活用されます。それが地元企業の雇用促進や林業の活性化にも繋がります。顧客満足度を高め、地元を盛り上げる総合的な取り組みです。
――住宅販売や賃貸住宅の建設・管理では長野県でも有数の企業に成長しました。
年間の売上は62億円で、住宅は年間およそ100棟を販売しています。累計1,150棟です。賃貸住宅は234棟を建設し、3,300室を管理しています。社員数は130名。成長を促すための教育には特に力を入れています。当社独自の制度を採り入れてきました。
Gib制度と呼んでいるものは全従業員が参加し、所属しているチームが課題解決をするために目標設定をしてPDCAを回すものです。目標設定には経営者や役員とチーム全員で面談をします。目標を実現するプロセスが有効なのかどうかを話し合うのです。
チームが一丸となって目標設定から施策立案、報告までを行うことで、一体感と主体性を身に付けることができます。社員同士が活発にコミュニケーションできる環境を用意することが、会社の重要な役割だと考えています。
――新しく立ち上げたサードオフィスは、社員同士のコミュニケーションを活性化させる起爆剤となりそうです。
サードオフィスは企業が強いチームを作り、経営者同士の人脈を強固にし、新しいビジネスを生み出すことを目的としています。
出社を前提とした都市部に構える従来オフィスを1.0、在宅勤務/コワーキングなど個の働く環境を重視したオフィスを2.0、都心の本社とは別に自然豊かな非日常の環境で、リアルで会い、チームで集い、新たな価値を生み出すオフィスをサードオフィスと位置付けています。withコロナ時代に入り、労働環境は激変しました。テレワークが企業規模を問わずに広まり、オフィス集中型から分散型の労働形態へと移行しています。しかし、テレワークによるテレビ会議では、人との繋がりが希薄になりがちです。
サードオフィスは、軽井沢周辺にオフィスを構え、そこにデスクを並べるだけでなく、宿泊施設やミーティングルームを併設します。例えば午前中はテレワークで必要な業務を行う。午後はオフィスに社員が集まり、必要なミーティングをする。その日は宿泊をして、社員同士がプライベートな時間を共有しても良いと思っています。そうすることで、活発なコミュニケーションと相互理解が生まれます。
――フォレストコーポレーションも2019年に本社を伊那市の森の中に移転しました。
新しい本社オフィスは天然木をふんだんに使い、畳のカフェも併設するなど、ともに過ごす時間が増えて社員同士の人間関係が深くなりました。非日常の特別な雰囲気でリラックスでき、新たな価値の創造と企業カルチャーを醸成する拠点です。
新オフィスには、当社の注文住宅の70%が導入している人気スペース「土間サロン」も取り入れました。屋内と屋外を繋げ、居心地の良い空間として提案しているものです。空間はオフィスと一続きになっており、床は屋外のテラスと一体化しています。そのため、開放的で光があふれる空間が演出できます。外の空気を見ながら気軽に話ができ、リフレッシュもできる特別な場所です。社員からは居心地が良いと好評を得ています。
この新本社は、2020年「第33回日経ニューオフィス賞」において、「日経ニューオフィス推進賞」を受賞しています。
2021年春に1番目のサードオフィスが誕生
――サードオフィスはどのような企業に需要があると考えていますか?
ターゲットはテレワークが進むIT企業と、人材獲得が課題の中小企業に設定しています。ECサイトなどを展開するIT企業は、都市部の高い家賃がかかるオフィスにあまりメリットを感じていません。ITスキルも長けているため、テレワークの導入も素早く、遠隔作業にもストレスを感じていません。
しかし、社員教育に一番力を入れているのも実はIT企業です。人材の流出が深刻な経営問題に発展するためです。軽井沢は新幹線を使って60分ほどで移動できます。テレワークとサードオフィスの効果的な活用方法の提案をしたいです。
もう1つのターゲットは、中小企業です。多くの中小企業が直面している課題が、人材獲得ができないというものです。これは、扱っている商材は魅力的で高利益体質なものの、働きがいをアピールできないためです。そうした会社がサードオフィスで新しい働き方を導入すれば、企業の魅力が増して人材の獲得はしやすくなると考えています。
――サードオフィス導入の目標は?
年間5棟を計画しています。サードオフィスは1棟1億円から3億円で、単価が高いことが特徴です。すでに1棟目が決まり、春に着工します。木造住宅、賃貸住宅に並ぶ第3の事業として育てる予定です。サードオフィス事業は、本社オフィスを移転した2019年から本格的に構想していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、商機は高まりました。多種多様な需要にフィットする事例をこれからできるだけ多く作りたいと考えています。
――軽井沢は移住する場所としての魅力も高まってきました。
木造住宅で期待をかけているのが移住です。軽井沢は2019年の平均所得が690万円で全国5位となりました。実はこの1年で300万円も増加しているのです。これは移住者が増加していることが背景にあります。新型コロナウイルスによる労働環境の変化により、今よりもこの傾向には拍車がかかるとみています。
かつて、軽井沢の移住者は定年や早期リタイアによる、中高年が中心でした。今は子育て世代が移住の主役です。そのきっかけの一つが風越学園です。風越学園は2020年に開校した幼・小・中の一貫校です。これまでの教育の枠にはまらない新たな方針をとっており、風越学園に入学するために移住する人も増加しています。
これまでの住宅は1棟3,000万円前後でしたが、移住者向けの住宅は7,000万円から1億円を想定しています。これは富裕層が多いためです。
軽井沢は別荘地だったため、富裕層向けには夏に使い勝手の良いウッドデッキを提案する住宅メーカーが多いですが、当社はあまりおすすめしていません。なぜなら、年中軽井沢に住むようになると、ウッドデッキは寒さでほとんど役に立たないためです。それよりも、土間サロンの方がずっと居心地が良い。当社は地元に根差した住宅メーカーとしての強みがあります。
新型コロナウイルスの感染拡大は、人の働き方と生活を大きく変えました。当社は企業の変化と、家庭の変化、両方のニーズを拾いたいと考えています。