一般的に、“貯蓄はあった方がよいもの”ということは広く認識されていると思います。ただ、それぞれに収入や支出の状況は異なり、貯蓄の額も人それぞれ。そこで、この記事では年収別に見た平均的な貯蓄額のデータから、特に年収1,000万円を超えるような高収入の人の貯蓄の実態に迫りたいと思います。

目次

  1. 世帯構成人数によって貯蓄額は変わる
  2. 年収と貯蓄額は比例する?
  3. 年収別の平均借入額から見えてくることとは
  4. 年収が高くても油断せず、適切な貯蓄を
  5. 優遇制度を活用して、賢く貯蓄を

世帯構成人数によって貯蓄額は変わる

平均貯蓄額,年収1,000万円以上
(画像=hikdaigaku86/stock.adobe.com)

本記事でいう貯蓄とは、保有する金融資産全般を指すこととします。銀行に預けている貯金だけではなく、保有する投資信託や株、または加入している積立型保険や個人年金なども含めて考えます。

国内の家計事情については金融広報中央委員会が毎年調査を行っており、この中で貯蓄額も調べられています。最新の調査は2019年「家計の金融行動に関する世論調査」となります。

この調査は、対象を単身世帯と二人以上世帯に分けて行われています。まずは、社会全体の貯蓄額のそれぞれの平均値と中央値をみてみたいと思います。

▽二人以上世帯の1世帯あたり貯蓄額(金融資産を保有している世帯だけで見た場合)
・平均値:1,537万円
・中央値:800万円

▽単身世帯の貯蓄額(同上)
・平均値:1,059万円
・中央値:300万

平均値は、高額の貯蓄を持っている一部の人の数字によって引き上げられる傾向が見られます。このため、中央値の方がより多くの人の実情を示していると考えられます。

また、これらの数字は貯蓄を持っている人の中だけで集計した数字です。じつは貯蓄がゼロと回答した世帯も、二人以上世帯で23.6%、単身世帯で38.0%あります。こうした世帯も含めた平均値や中央値は当然上記の数字より低いものとなります。参考までに、2人以上世帯で貯蓄ゼロの回答も含めた平均値と中央値は以下の通りです。

▽二人以上世帯の1世帯当たり貯蓄額(金融資産非保有の世帯を含む場合)
・平均値:1,139万円
・中央値:419万円

年収と貯蓄額は比例する?

では、気になる年収別に見た貯蓄額の平均値や中央値は、どのようなものとなっているのでしょうか?ここでは、貯蓄があると回答した世帯の中での数字を見てみたいと思います。

▽二人以上世帯の1世帯あたり貯蓄額(金融資産を保有している世帯だけで見た場合)

世帯主の年収平均値(万円)中央値(万円)
300万円未満1,126700
300~500万円未満1,337730
500~750万円未満1,263680
750~1,000万円未満1,7231,130
1000~1,200万円未満2,0081,200
1,200万円以上4,3323,000

▽単身世帯の貯蓄額(金融資産を保有している世帯だけで見た場合)

世帯主の年収平均値(万円)中央値(万円)
300万円未満724150
300~500万円未満940330
500~750万円未満1,869806
750~1,000万円未満2,9811,800
1,000~1,200万円未満6,1312,915
1,200万円以上5,9033,200

ただし、当然ながら世帯主の年収が高くなるほど、調査対象となるサンプル数は少なくなります。年収1,000万円以上の高収入を得ている人は、社会では一握りなのです。そのため、高所得者層の平均値や中央値には偏りが大きめに出ている可能性があります。ただ、それでも収入が高いほど貯蓄が多くなっている傾向はデータから見て取れます。

年収別の平均借入額から見えてくることとは

貯蓄があっても、住宅ローンなどの借入がある場合もあります。同調査から、借入金残高の平均値と中央値も見ておきたいと思います。こちらも、借入金がある人だけで集計した数字です。参考までに、借入金のある世帯の比率も示しておきます。

▽二人以上世帯の1世帯あたり借入額(借入金がある世帯だけで見た場合

世帯主の年収平均値(万円)中央値(万円)借入金のある世帯の割合(%)
300万円未満1,06130022.8
300~500万円未満1,13680139.9
500~750万円未満1,5371,40053.8
750~1,000万円未満1,8921,50058.7
1,000~1,200万円未満1,8321,55062.3
1,200万円以上3,9852,00045.6

▽単身世帯の借入額(借入金がある世帯だけで見た場合)

世帯主の年収平均値(万円)中央値(万円)借入金のある世帯の割合(%)
300万円未満1957019.2
300~500万円未満41020022.4
500~750万円未満85930019.3
750~1,000万円未満70440015.9
1,000~1,200万円未満2,0002,00012.5
1,200万円以上1,5641,80029.4

貯蓄額と同様に、収入が多いほど借入金の額も大きくなっている傾向が見られます。ここで注目すべきは、二人以上世帯の借入額です。年収300万円および年収1,200万以上の世帯を除いて、借入金の中央値が貯蓄の中央値を上回っています。たとえば、年収1,000万〜1,200万円の世帯に着目すると、借入額の中央値1,550万円に対し、貯蓄額の中央値は1,200万円です。

貯蓄がある人と借入金がある人は必ずしも一致はしていないかもしれませんが、この数字を表面的に比較する限りにおいては、高収入であっても貯蓄が十分ではない世帯もありそうです。

年収が高くても油断せず、適切な貯蓄を

実際、年収が高くても貯蓄を持っていないと回答した世帯もあります。金融資産を持っていないと回答した比率を年収別に見ると以下の通りです。

▽金融資産を持っていない世帯の比率

世帯主の年収二人以上世帯(%)単身世帯(%)
300万円未満39.142.5
300~500万円未満20.928.1
500~750万円未満13.515.7
750~1,000万円未満9.74.5
1,000~1,200万円未満10.30
1,200万円以上5.111.8

貯蓄がない世帯には、さまざまな事情があると思います。住宅ローンの返済などを優先しているのかもしれませんし、親族の介護や子供の教育費、あるいは自己投資などに支出がかさんでいるのかもしれません。また収入が高い世帯では、貯蓄の必要性をそもそも余り感じていない場合もあるのかもしれません。

しかし、どんな収入の世帯でも、やはり一定の貯蓄はあった方がよいと思います。社会の変化は速く、先行きは以前よりも見通しにくくなっています。長寿化で老後も長くなっています。やはり、いざという時の、あるいは将来への備えとして、貯蓄はあった方が安心です。特に高収入の人は、普段からの支出も大きいケースも多いと思います。そうした生活スタイルは急に大きく変えることはできません。

教育費を例にとっても、子供が幼稚園や小学校から私立の学校に通っている場合には、すべて公立の学校に通うのと比べて1,000万円以上の差が出ると言われています。子どもの転校は簡単な話ではありません。万が一にも収入が途絶えたり激減したりする可能性に備え、むしろ高収入の人ほど生活レベルに見合った貯蓄をしておく必要があるでしょう。

優遇制度を活用して、賢く貯蓄を

収入が十分あるのにどうしても貯蓄ができないという人は、先に一定額を貯蓄分として収入から先取りするのがよいでしょう。節約して余った分を貯金しようという考え方でいると、なかなか貯蓄は増えません。そしてその先取分では、貯金だけでなく、投資信託などの運用商品も活用する方が資産形成の効果が高まると考えます。

運用にはリスクが付き物で、怖いと感じて敬遠する人も少なくないかもしれません。しかし、長期運用と分散投資を心がければ、リスクはかなり低減できます。むしろ、将来的にインフレなどが起った場合には、預金だけしか持っていないことがリスクとなりえるのです。

有価証券で運用する場合には、税金面での優遇措置がある国の制度などを賢く活用しましょう。ほとんどの人が利用できる制度として、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)というものがあります(現在はiDeCoの加入は60歳まで)。

ここではこれらの制度の詳細までは触れませんが、一定の額までの運用資産に生じた利益が非課税となる税制優遇措置が設けられています。iDeCoでは積立金は基本的に60歳までは引き出すことができないという制約はありますが、積立額は所得から控除されるという点も大きなメリットです。それぞれに特長があり、貯蓄の目的に応じて上手く活用していくのがよいでしょう。

以上、平均貯蓄額と資産形成についてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。収入が多い世帯では、少ない世帯に比べて貯蓄額が多いという傾向が見られます。しかし一方で、借入金も多いという傾向も同時に見られました。また収入が多い世帯では、どうしても生活費も大きくなりがちで貯蓄が十分な額となっていないケースもありそうです。貯蓄の平均値や中央値は決してそれが正解の金額というわけではありませんが、ひとつの参考としてもらえればと思います。(提供:JPRIME

執筆:北垣 愛
国内外の金融機関で、金融マーケットに直接携わる仕事を長く経験。現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、主に金融に関する情報発信も行っている。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、FP一級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級


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