「仕組み債」という債券をご存知でしょうか。仕組み債は機関投資家や富裕層向けの金融商品で、日経平均リンク債に代表される「株価指数リンク債」や「EB債」などが代表的です。想定利回りが高いので有効な投資商品にもなりえますが、高リスクで市場を大きく動かすドライバーとなることもあります。今回は仕組み債について誰にでも理解できるようにやさしく、簡単に解説していきます。

目次

  1. 「仕組み債」は通常の債券と何が違う?
    1. 「仕組み債」が誕生した経緯
  2. 仕組み債の種類は主に2種類
    1. 株価指数リンク債
    2. EB債
  3. 仕組み債の「仕組み」を知る
    1. 仕組み債の形態:かかわるプレイヤーが通常の債券に比べ多い
    2. 仕組み債の構造:債券+デリバティブ取引で組成される
  4. 仕組み債のメリット・デメリット
    1. 仕組み債のメリット:高利回りとターゲットバイイングの活用
    2. 仕組み債のデメリット:ノックイン、ノックアウトとは?
  5. 市場を動かすパワーを持つ仕組み債

「仕組み債」は通常の債券と何が違う?

仕組み債,金融市場
(画像=Parilov/stock.adobe.com)

「仕組み債」とは、金融機関などが発行する債券の一種です。ただし通常の債券とは異なり、「デリバティブ」と呼ばれる、株や通貨などのスワップやオプションなどの金融派生商品が組み合わせられています。

なぜ、デリバティブを組み合わせるのかと言うと、オプション取引の組み合わせにより売却オプション料を受け取ることで、その分の想定利回りを上乗せできるからです。オプション取引に限らず、債券にさまざまなデリバティブを組み合わせることで、利回りを高くしたり償還金額を大きくしたりすることが可能です。

つまり、仕組み債は投資家のニーズに沿って設定した“テーラーメイド”の金融商品だといえます。もちろんリスクはありますが、このゼロ金利の時代に、たとえば3年満期で5%の利回りといった債券を設定することも可能なので、一部の投資家に人気があるのです。

「仕組み債」が誕生した経緯

もともとは1980年代ごろに、財テクの一貫として機関投資家向けに「日経平均リンク債(日経リンク債)」が開発されました。高利回りでありながら、日経平均の押し目買いのターゲットバイイング(後述)にも使えるという商品性が、機関投資家に受け入れられやすい商品だったからです。

機関投資家と同様に、富裕層にも高利回り商品のニーズがあります。富裕層にも公募の仕組み債は幅広く販売されるようになりました。

仕組み債の種類は主に2種類

仕組み債で代表的なものは「株価指数連動債(株価指数リンク債)」と「EB債」です。

株価指数リンク債

株価指数リンク債は、債券を発行する発行体が、通常の債券に、株価指数のオプションを組み合わせた金融商品です。一般的には、株価指数のプット・オプションを売り、そのプレミアム料を受け取ることを前提に、債券としての想定利回りを高く設定するのです。¬

最もポピュラーな日経平均リンク債で具体的に説明しましょう。そのために、まず簡単にオプションの概念を説明します。日経平均を、ある期日までに、その時の市場価格に関係なく、あらかじめ決められた特定の価格(行使価格)で売ることができる権利が日経平均のプット・オプションです。

日経平均が28,000円のときに、27,000円行使価格のプットの権利を買っていれば、日経平均が26,000円まで下げた場合でもプットを権利行使すれば27,000円で売ることが出来るのです。いわば、プットの買いは日経平均に連動する資産を保有しているような投資家にとって、株価指数が下げた時の保険になります。

プットの買い方(買い手)が保険料として、プットの売り方に支払うのがオプションのプレミアム料です。プットの買い方は、日経平均が期日までに27,000円を下まわらなければ権利を行使することはありません。プットの売り方(売り手)はプレミアム料をまるまる受け取れます。このプレミアム料を償還時に加味することで想定利回りが高い仕組み債を設定することができるのです。

日経平均リンク債の場合、償還期限まで日経平均が一定の水準内で推移していれば想定した高利回りで償還されますが、日経平均が事前に決められたある一定の「ノックイン判定水準」を下回ると、オプションの買い方に権利行使されてプットの権利行使を決済しなくてはならないので、額面以下での償還が確定してしまいます。反対に、ある一定の「ノックアウト判定水準」を上回ると、オプションの買い方が利益確定に動けば、額面金額での早期償還が行われます。

EB債

EB債はExchangeable Bondを意味し、他社株転換可能債ともいいます。株価指数リンク債が株価指数を対象とするのに対して、EB債は個別銘柄の株価水準を対象とします。

あくまでも、仕組み債を発行するのは金融機関などです。この発行体である金融機関の債券を買ったのに、ノックインすると違う会社の株になってしまうことから他社株転換可能債といいます。

具体的に説明しましょう。ある金融機関がトヨタ自動車のEB債を発行したとします。この仕組み債には債券にトヨタ自動車のプット・オプションの売りが組み合わされているのです。日経リンク債と構造は一緒です。

しかし、日経平均の指数が下がって、買い方が権利行使をした場合は差金決済するのに対し、個別銘柄のオプションの権利行使の場合は差金決済でなく現引き(現株を受け取る)でトヨタ自動車株が渡されることがあるのです。

つまり、もともとトヨタ自動車のプットの買い方は、トヨタ株を保有していて、そのトヨタ株が含み益の利益確定をしたいか、もしくは持ち合い解消などでトヨタ株を売る必要がある場合などに、プットを買います。したがって、トヨタが値下がりしてノックインした場合は、プットを行使して売り方にトヨタ株を現渡しするのです。

どんな銘柄でもEB債の対象となり得ますが、オプションを使うので機関投資家の保有比率が高く、流動性の高い銘柄が発行銘柄としては多いです。

仕組み債の「仕組み」を知る

仕組み債の基本が理解できたところで、仕組み債のメカニズムを詳しく見ていきます。

仕組み債の形態:かかわるプレイヤーが通常の債券に比べ多い

普通の債券は発行体が発行した債券を投資家が買います。債券にある信用リスクは発行体のものだけです。しかし、仕組み債は債券だといっても、外国債券として主に海外で起債され、販売会社が「外国債券」として国内で売り出します。発行体(主に金融機関)に加え、仕組み債を組成する金融機関であるアレンジャー、オプションやスワップを管理するスワップハウスなどの存在なしには組成できません。それぞれに対する信用リスクが存在することになります。

仕組み債の構造:債券+デリバティブ取引で組成される

仕組み債は債券にデリバティブ取引を組み合わせた商品であると「リンク債」「EB債」の項目で説明しました。なぜ、ノックイン、ノックアウトが起こるのかを説明しましょう。

たとえば発行体が1年物の債券を100で発行して、1年後に1%の金利で101を償還するとします。さらに、日経平均の1年後27,000円のプットオプション料が5円だとしましょう。それを売る事で5円の売りプレミアムが受け取れますので、日経平均が1年間に27,000円を割らなければ、償還時には合わせて106円になり、6%利回りとなります。このように、オプション売りを組み合わせることで高利回り債券が組成できるのです。

プット・オプションは、買い方にとって、対象指数の上げに対する損失はプレミアム料のみですが、下げに対しては利益が無限大という商品です。売り方にとってはその反対ですから、対象指数が下げる場合の損失は無限大、上げる場合の利益はプレミアム料の受け取り分で確定です。

先述の日経平均リンク債の例でいうと、日経平均が27,000円を割り込むとプットオプションの損失は無限大、27,000円以上の場合は5円で確定されています。したがって、プットの売りをしている日経リンク債は、損失無限大を避けるために、ある一定水準を下回ればノックインで強制的にロスカットする条項を付けているのです。オプションのプロテクトです。

一方、日経平均がどれだけ上がっても受け取るオプション料は同じですので、発行体にとっては早く償還してしまい、再発行した方が資産効率はよいので、ノックアウトがついています。ノックイン、ノックアウトのレベルについては、3ヵ月や6ヵ月ごとなどの判定日があらかじめ決められていることが多いので必ず確認してください。

EB債では、価格が一定水準を下回りノックインされて、プットオプションが行使されることで、支払った代金相当の現引き特約がついています。たとえば、トヨタ自動車が8,000円の時点で買ったEB債で、ノックイン価格が7,000円だとしたら、ノックイン時点で投資資金が単価7,000円相当のトヨタ株の現株に転換されてしまうのです。

仕組み債は高利回りではあるものの、こういった特性から複雑なリスクのある商品なのです。

仕組み債のメリット・デメリット

仕組み債には主に2種類あることをお伝えしてきました。それぞれに共通する、メリット・デメリットを解説します。

仕組み債のメリット:高利回りとターゲットバイイングの活用

仕組み債のメリットは高利回りです。マイナス金利下の日本で商品に高利回り求めるなら、相応のリスクはあるものの仕組み債を購入することも投資の選択肢に入る人もいることでしょう。

また、仕組み債は「ターゲットバイイング」のツールとしても利用できます。たとえば、「いまトヨタ自動車の株価が8,000円で高いと思うが、7,000円なら買いたい」と考えたとしましょう。ノックイン価格を7,000円に設定したEB債へ投資することで、トヨタ自動車の株価が下がらなければ高利回り債券として高配当を受け取れ、株価が7,000円を割り込めば債券の高利回り部分は消失するが狙った値段でトヨタ自動車の現株を買うことになります。これがターゲットバイイングと呼ばれる手法です。将来トヨタ自動車の株価が戻るならば、狙い通り株としてのキャピタルゲインを得ることができます。

仕組み債のデメリット:ノックイン、ノックアウトとは?

仕組み債は債券ですから、当然、債券にある発行体の信用リスクが存在します。そのほか価格変動リスク、流動性リスクなども存在します。

ただ、仕組み債の場合はその形態からして、発行体だけのリスクでなく、アレンジャー、スワップハウス、販売会社などのリスクもあるわけです。ただ、発行体はほとんどが金融機関ですので、それほど気にすることはないともいえます。

それ以上に大切なのは、すでに何度か登場している仕組み債独自のリスクである下記2点です。

・ノックインリスク
対象の株価指数や個別株の株価が判定日にあらかじめ定められた水準以下になると、償還時に元本が償還されず、損失が発生してしまうリスクがあります。これが「ノックイン」です。オプションのロスカットをすることから発生します。EB債の場合はノックインすると、現株に転換される可能性があります。現株になった場合は株としての価格変動リスクを負います。

・ノックアウトリスク
対象の株価指数や個別株の株価が判定日にあらかじめ定められた水準以上になると、早期償還する条項が定められている場合があります。これが「ノックアウト」です。ノックアウトすると、満期償還日を待たずに仕組債が「額面」で償還されることになります。

ノックアウトが発生すると、同じ銘柄で今までより上の値段のノックイン価格が付いたEB債が設定されて、投資家は継続投資することが多いようです。その場合、いつかノックインしてしまうリスクがあります。また、ノックアウトによる早期償還は、償還までの期間やリターンといった資金計画を充たさない場合もありえます。

このように、仕組み債は構造も複雑で、ハイリスク・ハイリターン商品だといえます。構造が十分に理解できて、自分の投資方針に合致する場合に投資するべきです。もし購入する際には、対象とする指数や銘柄、そしてノックイン、ノックアウトの水準や判定日などについてしっかり確認しましょう。

市場を動かすパワーを持つ仕組み債

仕組み債が市場を大きく動かすことがありえます。仕組み債は債券とはいっても、日経リンク債でもEB債でも、その残高に見合ったオプションの建玉(ポジション:未決済のまま残っている約定)が立っていることになるからです。

リンク債もEB債も基本はプットを売ることから、投資家は基本的には日経平均も個別銘柄も上昇し、ノックインしないことを想定しています。もし日経平均や個別銘柄が急落してノックインが大量発生した場合、プットが行使されて先物が売られる、現引きされて現株が売られるなどで市場が混乱する可能性があります。残高が多いほどこのリスクは高くなります。

日経平均リンク債の残高は、その性質から正確に知ることはできませんが、ピーク時の2019年ごろには約1兆円、20年末でも9,000億円程度あると言われています。コロナショックでの日経平均のV字型の下げで、リンク債に絡む先物の売りが市場を混乱させたという見方もありました。

急落時だけでなく、急騰時も市場に影響を与える可能性も指摘されてます。日経リンク債の2021年1月現在のノックアウト水準は、日経平均の場合で2万3,000~2万5,000円に集中しているようです。一方で、2021年1月20日現在、足元の日経平均はその水準を大きく上回っており、多くのリンク債やEB債の資金が早期償還する見込みです。

これらのノックアウト資金が一気早期償還され、その資金が市場に環流するならば、日経平均や個別銘柄を上に押し上げる原動力にもなる可能性があることが指摘されています。公募のリンク債やEB債の募集などについては証券会社などのサイトにも告知されるので、設定や償還が多いときは注目しておくべきなのではないでしょうか。(提供:JPRIME

執筆:平田和生
証券外務員、内部管理責任者、米国証券外務員資格(シリーズ7)保有。慶應義塾大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得る。これまで外資系の投資顧問会社の日本支社の代表、日本投資顧問業協会の部会長、外資系コンシェルジュ会社のスタートアップ社長を努め、現在は主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。


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