電子サイン・電子印鑑は、ビジネスの在り方を変える新しい技術だ。導入した企業にはペーパーレス化や業務効率化など、さまざまなメリットがある。これらの技術がビジネスシーンに及ぼす影響をチェックし、導入の準備を進めていこう。
目次
業務効率化につながる電子サイン・電子印鑑とは?
デジタル技術の進歩によって、近年はさまざまな業務の電子化が進んでいる。電子サインや電子印鑑は、その筆頭ともいえる新たな技術だ。
電子サイン・電子印鑑はすでにさまざまな現場で使われており、企業のペーパーレス化や業務効率化に役立っている。偽造防止などの課題もあるが、近い将来導入が必須となる可能性も考えられるため、経営者は今のうちに知識をつけておいたほうがよいだろう。
電子サインと電子印鑑は別物
電子サインと電子印鑑は混同されがちだが、それぞれの技術はまったく異なる。
電子サインとは、電子契約を交わすプロセスのうち「意思決定に関わる全工程」を指す。つまり、端末上で使用するサインだけではなく、IDやパスワードの入力、メールアドレスの登録なども、広義では電子サインに含まれる。
一方で電子印鑑とは、端末上で使用できる印鑑のことだ。印影を画像データ化したものであり、従来の認印のような役割を果たしている。
電子署名やタイムスタンプとの違い
電子サイン・電子印鑑の基礎知識として、電子署名やタイムスタンプとの違いも押さえておきたい。これらは近年生まれた新しい技術だが、それぞれ使用するシーンや目的が異なる。
・電子サイン・電子印鑑とその他の技術の違い
概要や使用する目的 | 第三者機関の有無 | |
・電子サイン | 主に電子契約を交わすために用いる。 | なし(電子署名は除く) |
・電子印鑑 | 社内で完結する稟議書や、簡単な承認フローの認印として用いる。 | なし |
・電子署名 | 電子サインの一種。非改ざん性が高いため、実印として機能する。 | あり |
・タイムスタンプ | データが存在していた時刻と、そのデータが改ざんされていないことを証明する技術。国税関係の書類の電子化などに用いられる。 | あり |
上の表の第三者機関とは、電子技術やデータの信用性を保証する機関のことだ。例えば電子署名では、第三者機関である認証局が印鑑証明書と同じような役割を果たす「電子証明書」を発行する。
電子署名やタイムスタンプは信頼性が高い技術といえるが、使用する際に必ず第三者機関を介すことになるので、タイムラグが発生しやすい。そのため、実際のビジネスシーンでは信頼性がそれほど高くない電子サイン・電子印鑑も重宝されており、それぞれの技術が別の役割を果たしているのだ。
電子サインと電子印鑑の導入でビジネスはどう変わる?
電子サイン・電子印鑑が導入されると、ビジネスの現場はどのように変化するのだろうか。
まず、ペーパーレス化の促進が挙げられる。電子サインや電子印鑑は、PDFなどのデータ上に押印できるため、紙の書類を用意する必要がない。メールやクラウド上で共有したデータに押印するだけで、従来の認印や直筆の署名などと同じ役割を果たしてくれる。
また、端末だけでさまざまな取引・契約を完結できるようになることも、今のうちから意識しておきたい変化だ。例えば、三井住友銀行では取引内容をタブレットで確認し、そのまま同じ端末でサイン認証ができるようなシステムが実用化されている。これと同様のシステムが広く普及すれば、取引や契約の場に人材を配置する必要性もなくなるだろう。
このように、電子サイン・電子印鑑の登場によってビジネスは変わりつつあるため、経営者は時代に取り残されないようにキャッチアップしておきたい。
企業が電子サインと電子印鑑を導入する3つのメリット
三井住友銀行の例のように、電子サイン・電子印鑑を導入する企業は着実に増えている。これらの電子技術を実務に導入すると、さまざまなメリットを得られるからだ。
これらを導入することでメリットを享受できるのは、大企業だけではない。中小企業も同様のメリットを得られる可能性は十分ある。ここからは、電子サイン・電子印鑑を導入する主なメリットを確認していこう。
1.業務が効率化され、生産性がアップする
まず、業務効率や生産性の向上が挙げられる。例えば、契約の場に電子サインを導入すると、契約書の郵送や取引先への出張などの手間が省けるので、導入前よりも時間を有効に活用できる。
また、データでのやり取りが中心になれば、書類の修正作業もスムーズに完了できる。もちろん相手方の確認は必要だが、契約書の修正内容もメールなどで簡単に共有できるため、確認や承認のフローもかなり効率化されるはずだ。
2.さまざまなコストを削減できる
電子サイン・電子印鑑を導入するとペーパーレス化が進むため、さまざまなコストを削減できる。用紙代や印刷代はもちろん、コピー機の電気代やインク代なども抑えられるので、これまで紙の書類を使って取引や契約をしていた企業は、大幅なコスト削減を実現できるだろう。
業務の効率化に伴って、人件費のムダを削減できることも大きなメリットだ。特に、これまで人間が行っていた作業を端末で完結できる仕組みを整えれば、さまざまな人件費を節約できる。
3.文書の管理に手間がかからなくなる
文書の管理に手間がかからなくなることも、電子サイン・電子印鑑を導入するメリットといえる。
あらゆる書類をデータとして管理すれば、保管のためのスペースは不要になる。パソコンなどの端末や記録媒体に保存するだけで文書を管理できるので、定期的な整理や種類分けなどのムダな作業を一気に省ける。
その他、必要な文書データを探す際に検索ですぐに見つけられることも、電子サイン・電子印鑑を導入するメリットといえるだろう。
SaaSも現代のワークスタイルに大きな影響を及ぼしている
電子サイン・電子印鑑が登場したことで、現代のワークスタイルはデータでのやり取りが中心になりつつある。その影響で「SaaS」が広く普及していることも、現代ビジネスの大きな特徴だ。
SaaS(Software as a Service)とは、パッケージとして提供していたソフトウェアの機能を、インターネット上で提供するサービス形態のこと。イメージしやすくするために、具体的なサービスをいくつか紹介しよう。
・SaaSの具体的なサービスの一例
サービス名 | 概要 |
・Gmail | Googleが提供するメールサービス。無料で利用できる上に、パソコンやタブレット、スマートフォンなど、さまざまな端末からアクセスできる。 |
・Googleドライブ | 同じくGoogleが提供する、あらゆる種類のファイルをインターネット上に保存できるサービス。社内外でのデータ共有に役立つだけではなく、ストレージ上で表計算ツールや文書作成ツールなども利用できる。 |
・Dropbox | アメリカのDropbox社が提供するストレージサービス。保存されたファイルはオンライン上でバックアップされるため、変更前の状態に戻すことが可能。 |
・Microsoft 365 | アメリカのMicrosoftが提供する、オフィス業務に特化したサービス。従来のWordやExcelに加えて、ドキュメントの管理用ツールやSNSツールなども備わっている。 |
上記のようなSaaSと電子サイン・電子印鑑は、非常に相性がよい。
例えば、Googleドライブにはどのような形式のファイルも保存できるため、PDFファイルとして文書を作成すれば、該当ファイルのURLを共有するだけで契約書をやり取りできる。お互いが電子サインによって押印すれば、契約をスムーズに交わせるだろう。
このようなSaaSと電子サイン・電子印鑑の組み合わせは、すでに多くの企業で採用されている。有料のサービスもあるが、従来の契約や承認フローで発生していた人的コストを考えれば、上記のようなサービスを導入したほうが全体的なコストパフォーマンスは高くなるはずだ。
これらの技術・サービスを軸としてワークスタイルは着実に変化しているため、現代の経営者はSaaSに関する知識も身につけておく必要があるだろう。
電子サインと電子印鑑の今後の展望と課題
働き方改革や業務効率化が重要視されている影響で、電子サイン・電子印鑑はさらに普及していく可能性が高い。2020年には政府も「脱ハンコ」を呼びかけるなど、実際に業務の電子化は多方面で進んでいる。
電子サイン・電子印鑑を採用する企業が増えた背景としては、新型コロナウイルスによる影響もある。新型コロナウイルスの流行によって、テレワークを導入する企業が増えたため、社内でもデータでのやり取りが増えている。
しかし、業務の電子化にはリスクや課題も潜んでいる。例えば、電子サインや電子印鑑には偽造されるリスクがあるため、導入する業務範囲は慎重に決めなくてはならない。また、いきなりすべての業務を電子化すると、従業員や取引先が混乱する恐れもある。
したがって電子サインなどの新たな技術は、少しずつ導入していくほうがよいだろう。導入前には社内のワークフローを徹底的に見直し、現場で作業をする従業員の意見なども参考にしながら慎重に導入計画を立てたい。
混乱が生じにくい業務から電子化を
業務の電子化は、着実に広がっている。特に電子サインや電子印鑑は取引先などから求められる可能性もあるため、いち早く導入を検討したい。もちろん導入計画を立てる必要はあるが、社内業務を一つずつ見直していけば、すぐにでも導入できる部分が見つかるはずだ。
中でも社内で完結する稟議は、電子サイン・電子印鑑を導入しても混乱が生じにくい。従業員に慣れてもらうためにも、まずはこのような部分から電子化を進めていくとよいだろう。
文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)
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