特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
大廣建設の前身となる塩田工務店は1976年創業。長年地元の島根で住宅建築に携わり、40年間で1,500棟以上建設した実績を持つ地元密着型の老舗建築会社だ。大廣建設の名は、大工の「大」と初代・塩田芳廣氏の「廣」から一文字を取って名付けられた。職人気質の濃い会社で、以前はしっかりとしたホームページさえなかったが、昨年社長に就任した二代目の改革により、コロナ禍でも順調に業績を伸ばしつつある。地元島根の風土に合った家づくりにこだわり、シェア拡大に熱意を燃やすトップに話を聞いた。
(取材・執筆・構成=長田小猛)
1980年島根県生まれ。広島工業大学専門学校卒。
高校卒業後、建築の基礎を学ぶために広島の専門学校へと進み、二級建築士の資格を取得。卒業後にデザインファーム建築設計スタジオに入学し、次にエジプト、イスラエル、ギリシャ、ヨーロッパを放浪して海外の建築を学んだ。帰国後は地元のゼネコン系工務店に勤務して実務を学び、2014年、32歳で大廣建設に入社。2020年から代表取締役を務めている。
目に見えない部分にこだわった家づくり
――専門学校、建築教育学校で建築を学ばれた経緯をお聞かせください。
丹下健三さんの建築(広島平和記念資料館)にとにかく感銘を受け、大学卒業後は型枠職人を1年やって資金を貯め、「デザインファーム建築設計スタジオ」に入りました。ここは東京の中野にある少人数制の建築教育学校で、さまざまな人たちが集まってきます。大人の人たちも多く在籍していて、とても刺激を受けました。卒業後、今度は造園業で資金を貯め、中東からヨーロッパへ移動しながら、世界の建築を見て回りました。建築の起源はエジプトにあるのですよ。
――帰国後はゼネコン系工務店に就職されましたね。
地元の中堅ゼネコンの工務店ですね。理論だけじゃなく、実務を学ぶことも大切ですから。ここには7年間お世話になって、現場管理・設計の実務を学びました。それから家業である大廣建設に入社するのですが、もう32歳になっていました。大廣建設は、長く大和ハウスの下請けをしてきました。昔ながらの職人を主体とした工務店然とした会社だったのですが、大和ハウスの仕事が減ったことから新築事業やリフォーム事業を立ちあげ、今は15年目です。当初はちゃんとしたホームページもなくて、問い合わせも「0」でした(笑)。2014年に入社してから、ずいぶんと改革を行いましたね。売上の主軸は住宅建築になりましたが、まだ下請けの仕事は継続していて年間8,000万円ほどの売上があります。
――世界の建築や最先端のデザインは貴社の住宅建築に取りこんでいるのですか?
いえいえ、そんなことをしたらコストがどんどん上がってしまいます(笑)。もちろん建築設計の基礎には学んだものを存分に活かしていますが、建築好きと経営者は違いますからね。地元島根の平均的な年収に合わせた価格の住宅が必要です。当社の住宅は2,300〜2,600万円のものもありますが、一番のボリュームゾーンは1,500万円〜2,300万円です。
コストを抑えながら品質の高い家を、長持ちする家をつくることが当社の特徴です。外壁のコーキングから外壁材・屋根材・木材の材種・内部のボード割の張り方など、1,500棟の施工実績から、島根県の風土にあった家づくりをお客様に提供しています。例えばシロアリの被害に遭いにくい材料や、結露・湿度の問題など島根の気候にあった最適な材料や工法を厳選しています。長持ちするだけでなく、維持管理コストを抑えた家づくりも特徴ですね。
――ほかにも他社にはない強みはありますか?
まずは優れた「耐震性」、「耐久性」、「高気密」、「高断熱」ですね。見えないところに目を向けて、シンプルにいい家をつくる。私どもの家は、全棟で第三者機関の審査で「耐震」、「耐風」、「劣化対策」、「構造の安定」など6項目で最高等級を獲得しています。親から子へ、子から孫へ、世代を超えて住み継げる、家族にとってかけがえのない最高の家を提供します。営業、設計、施工と外注に出さずすべて自社で行うことも強みですね。生コンの打設車やクレーンなども所有していますし、職人を抱えているので基礎工事や外構工事も自社施工が可能です。最後は点検。引き渡し後10年以降は5年ごとに、建物がなくなるまで点検無料としています。
――無料ですと、すべてのお客様に行うのは大変ですね。
実は8割方は私が行っているのです。住宅のその後も気になりますし、不動産取引も事業として始めたのでその営業も兼ねて。住宅だけを提供するビジネスモデルでは継続的な成長に限界があると考えています。顧客の生涯価値(LTV)向上のためにはビジネスモデル開発、多角化が必須です。まずは足元の集客体制を整えながら中期的なリードナーチャリングを展開し、その中で新たなビジネス機会を発掘していく必要があるので継続的な顧客訪問は大切です。
着工件数が下がる中でのシェア拡大・商圏拡大が課題
――今回のコロナ禍は事業に影響を与えましたか?
緊急事態宣言の出た昨年の4、5月はお客様の動きが良くなかったのですが、今年は今までで最高の売上になりそうです。もともとこちらには共同展示場が少ないので、当社は完成見学会で集客し営業マンがフォローを行っていました。ホームページからの問い合わせも増えています。当社は年商9.7億、年間着工数は35棟を目標としていますが、今年度はそれを超えそうですね。リフォームを主体とした会社では、家の中にお客様がいるので施工が難しかったかもしれませんが、島根はあまりコロナの影響を受けていないように思います。
――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか?
令和元年の島根県の住宅着工件数は、松江市511、出雲604で合計1,115棟。そのうち当社は35棟で、約3.1%のシェアしか取っていないのが現状です。私たちの商圏は人口20万人、世帯数9万で、島根県でもっとも人口の多いエリアです。しかし高齢化が進み、20代後半~40代前半の対象人口の減少に伴い、着工棟数は確実に右肩下がりになります。ここでのシェア拡大を全力で行うのが当面の目標ですね。現在松江市に本社とモデルハウスがありますが、2021年5月には出雲市に、2022年には米子にも新規出店を計画しています。着工棟数は減少していきそうですが、商圏エリアの拡大でシェア獲得を図っていきたいと考えています。商圏拡大のためには採用も積極的に進めていきたいです。また、将来の多角化に向けて「理念共有」と「多能工の人材」の採用・育成をする風土も作っておきたい。エリアは松江市、出雲市、米子市が中心になりますが、ちょうど真ん中に位置し、車ならどこからでも40分ほどで来られるという松江市の地の利を活かして、新卒を中心に社員を採用していきます。今後、材料・人件費など建築コストの高騰が続く一方で、購入単価の二極化(高単価・低単価)やデジタルシフトの浸透が急速に進んでいくでしょう。島根でもさまざまな変化が起きると思います。変化に追従できない住宅会社は、市場から淘汰されてしまいますからね。