特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。
株式会社プロポライフグループは2006年に創業した。中古マンションのリノベーション事業で成長を遂げ、戸建てや新築マンション、ホテル・旅館へと事業を多角化。さらにベトナムでの賃貸不動産の仲介や、カンボジアの都市開発など、国内にとどまらない事業展開をしている。グループ全体の売上高は200億円。2021年1月には世界的な建築家・隈研吾氏が設計した高級マンション「プロスタイル札幌 宮の森」の販売を開始した。
(取材・執筆・構成=不破聡)
1980年神奈川県生まれ。
神奈川県内の不動産会社に勤務して後、起業。創業当時は不動産仲介からスタートし、その後は中古マンションのリノベーションに可能性を見出して事業領域を拡張。会社の成長を牽引する主力事業となった。現在は住宅や不動産に関連するDX推進にも注力している。
隈研吾氏の手による贅沢なレジデンスが札幌に誕生
――札幌市宮の森エリアの高級マンション「プロスタイル札幌 宮の森」の開発に着手しました。
新国立競技場や高輪ゲートウェイ駅を手がけたことで有名な、隈研吾氏がデザインしました。このレジデンスのポイントは、自然と寄り添う暮らしの提案です。宮の森は原生林が残り、野生動物も暮らす自然豊かな場所です。当社は天然無垢材にこだわる家づくりをしてきました。隈研吾氏は素材の追及に余念がない建築家です。それら3つの要素がうまくかみ合ったと感じています。「プロスタイル札幌」は、道南杉と呼ばれる北海道の間伐材を外壁にふんだんに使っています。それが丘の斜面を利用した建物に溶けこみ、自然と融合しています。一つひとつの住居は独立した造りになっており、お客様は住まいを持ったという実感が持てるようになっています。札幌が一望できるルーフトップバルコニーは広さがあり、温かい時期にはバーベキューが楽しめます。マンションにとどまらない設計は、隈研吾氏ならではのものです。
――都市部へのアクセスもしやすい立地です。
札幌中心部までは車で10分ほどです。地下鉄を使えば、大通駅まで6分で行けます。新千歳空港へも45分ほどでアクセスでき、出張の多いビジネスマンに最適です。また、札幌オリンピックで使用された施設が残っていますので、ウィンタースポーツも楽しめます。自然に根づいた暮らしができ、利便性もあって北海道らしいアクティビティも充実している。有名な建築家が手がけたということもあり、価値の高い物件が提供できると思います。
――さまざまな事業を立ちあげていますが、現在、特に注力しているものは?
2020年9月に立ちあげたログノットです。住宅、不動産のDXを推進する戦略的子会社で、手始めとしてオウンドメディア「ログリノベ」の運営を開始しました。現在のユーザー数は30万を超えています。リノベーションのメリットや資金計画などの情報を発信するのはもちろんですが、サイト内に相談カウンターを設けて接客ができるようにもなっています。住まいのイメージや家族計画といった情報から、相談者にあった施工事例などを紹介するのです。
今の主要な顧客はインターネットが身近にあったY世代と呼ばれる人たちです。普段の買い物や情報収集には当たり前のようにWebを活用しています。住まいに関する情報は、店舗の相談カウンターに訪問して接客を受けるのが当たり前、そういう意識は薄い。むしろ、デジタルで完結するほうが進めやすいと考えています。ログノットは今後、不動産仲介のプラットフォームの開発にも着手する予定です。
――新型コロナウイルスで既存事業もオンライン接客を開始しています。
当社は対面接客が基本でした。ヒアリングをして物件をピックアップし、案内するという一般的な流れです。事前のヒアリングがオンライン化されたことにより、現地集合となったケースがほとんどです。相談カウンターでのヒアリング時間が短縮され、物件に行く前の情報収集に力がかけられるようになりましたので、生産性は向上しています。また社員のITスキルも上がっています。業界のDX化は今後も間違いなく進みますので、当社が先陣を切って開拓したいと考えています。
――不動産業界はIT化に後れを取っていた業界です。
契約書類などの関係で、簡単に進まない面もあります。しかし、そこに甘んじてIT化が進まなかったのも事実です。当社は新型コロナウイルス感染拡大前から、ペーパーレス化やクラウド化を進めていました。取引先とのやり取りや、社員の勤怠、プロジェクトの進捗などはすべてシステム上で管理しています。今後はRPAを活用した省人化や顧客の情報を吸いあげてマーケティングに活用するAI化を推進したいと考えています。先ほどお話したログノットの構想は2019年からありました。時代が急速に変化したことで、自分が進めていたことが正しかったと感じています。
物件価格7,000万円以上の富裕層向けマンションに期待をかける
――営業面でのコロナ禍の影響は?
2017年に進出したホテル・旅館事業は甚大な被害を受けました。もともとインバウンド需要が旺盛になる中で事業を加速していたため、海外観光客が激減した影響は大きかったです。それに付随する飲食店も厳しい状況に追いこまれました。ワクチンが普及し、今年の後半からは需要が少しずつ回復すると見ています。
とはいえ、インバウンドが急激に戻ることはありません。目先ではビジネス客を取りこめるようにしたいですね。昨年8月に、浅草や横浜のホテルでビジネスパーソン向けの5泊6日2万円プランを販売しました。自宅とは違う環境で仕事がはかどるといった声が聞こえ、満足度は高くなっています。新たな需要を開拓しながら、認知を広げて新規客獲得に力を入れています。
リノベーションや新築マンション販売への影響は全くありません。むしろ、家を見直す良いきっかけになったといえます。顧客が住まいに対して強いこだわりを持つようになったので、当社のような無垢材に特化した物件が相手の心に刺さりやすくなりました。こうした傾向はしばらく続くでしょう。
――リモートワークの推進によって、住まいは都市部から郊外が注目されているという風潮もありますが、いかがでしょうか?
それはありませんね。人気が集まっているのは、コロナ前も後も都市部のマンションです。これが大きく変化するとは考えにくい。リモートワークによって企業が都市部のオフィスを手放したり、縮小したりすることはあるでしょう。しかし、人々の生活は都会の利便性に慣れています。親しんだ場所からあえて離れて暮らそうとする人は限られます。
私がビジネスチャンスを感じているのは、富裕層をターゲットとした都市部の物件です。相場のデータを見てみると、7,000万円から3億円くらいまでの高級住宅に伸びしろがあります。新型コロナウイルスで社会の分断がはっきりとしてきました。サービス業界が負の影響を受けた一方、ITやコンサルティング、金融などの分野には豊富な資金が流れています。そうした業界のトップの人々は、都会の一等地を好む傾向にありますので、そこにマッチした物件を開発していきたいですね。